「あの人に届いてほしい」なんて思ったあの雨の夜
雨の降りしきる夜更けのなんばで
夕方までは曇っていた空から雨粒が落ちている。店じまいも終わり始めた繁華街は暗く、実際よりは雨は弱く見えた。リュックの中に折り畳み傘は入っているけど取り出すのも億劫だった。雨に濡れることなど気にも止めず話すことに夢中だった。
「noteを書き始めたらいろんなことが起きた」なんて話をしながら深夜のなんばを僕ら３人で歩く。降りしきる雨をかき消そうとするかのように僕らは話し続けた。
ひょんなことから決まったLT登壇
昨年末に見つけたイベントのLT（ライトニングトーク）の公募枠に申し込んでいた。特に何か意図があったわけじゃない。「おもしろそう」と思った時にはもう応募ボタンをクリックしていた。
「果報は寝て待て」というけど、実は応募したことすら忘れていた。年末年始をこたつで過ごすのにも飽きて仕事を始めた頃、主催者の池松さんから連絡があった。スマホの画面を見ながらなんのことかわからなくて一瞬首を傾げた。思い出した瞬間に変な声が出ていた。驚きと喜びでパニックになると人は「ファッ！？」と本当に言ってしまうらしい。
「子どもたちに学習支援をするNPOの代表」という仕事柄、子どもの支援、教育・福祉、NPO・ソーシャルセクターなどのイベントに登壇したことはある。大学の講義で法人の話や社会課題の話をしたこともある。
でも、Twitterやnoteについて人前で話すのなんてもちろん初めてだ。そこに自分のことを絡めて話すのなんてやったことがない。応募ボタンをクリックしたときの期待と裏腹に「もしかして自分は場違いかもしれない」と思っていた。期待と不安で板挟みになりつつも、どうにかLTとイベントを終えた。
絡まった糸をほどきたくて話し続けた
イベントを終えて交流会に参加した。運営してくださった方やLTを聞いてくださって方と話したりした。
そして、交流会も終了の時間を迎えた。ただ遠方から来ている人たちはホテルにたどり着けば問題はない。そう、終電なんて関係ない。別のお店に入り、その日のイベント開催経緯から地域性について話はどんどん広がっていった。
いろいろ話しているうちに日付が変わろうとしていた。話したいことはまだまだたくさんあったけど一旦お開きになった。ふむふむさんと千羽はるさんを宿まで案内することにした。
▼ふむふむさん▼
▼千羽はるさん▼
「案内した」というと聞こえはいいし、優しさにあふれた行為に見える。でも、今思えば「優しさが５%」「もっと話したいが９５%」だった。
LTで気づいたこと、交流会で話したこと、これからのことをだれかと話したくてしかたなかった。初めての場所で受けた刺激で僕の頭の中は絡まった糸のようにぐちゃぐちゃになっていた。だれかと話して絡まった糸をほどいて整理したかった。
文章を書く難しさや言葉にする大変さをそれぞれが話し始めていた。深夜で大粒の雨が降っていることなんて忘れてしまっていた。
あの人たちに届いてほしい。あの人たちから届いてほしい。
それぞれに言葉や文に頭を悩ませていることを知った。「勉強になるな」と考えるよりも先に僕は喜んでいた。自分と同じように言葉や文章に頭を悩ませている人が目の前にいることが嬉しかった。
ひとりで文章を書き続けてきた僕にとって文を書くことは孤独な作業だった。そんな孤独があの夜から一変した。悩みながらも目を輝かせて文章について話す人たちがいる。バーチャルではない。ほんの一歩で手が届くぐらいの距離に立っている。リアルに存在している。
仲間と言えばいいのか、友と言えばいいのかわからない。今も鮮明に覚えているあの日の喜びを言い表す言葉は僕にはまだない。でも、あの夜から画面の先にいる人たちの顔や為人が浮かぶようになった。今の僕にとってはそれだけで十分だ。
もう僕はひとりじゃない。文を書くという作業の性質上、孤独を感じることはあっても画面の向こうにはあの日出会ったたくさんの人たちがいる。
「あの日出会った人たちに、あの日話した人たちに届く文を書きたい」なんて今は思う。下手くそな文章しか書けないのにおこがましいとも思う。でも、そんなことはどうだっていい。素敵な人たちに、好きな人たちに、下手くそでいいからまっすぐな言葉と文を送ろう。
きっと何度も書いたり消したりする。頭を抱えることも一度や二度じゃない。それでも自分を知ってもらうために文を書こう。自分の思いを伝えるために文を書こう。だれかの顔を思い浮かべて下手くそな文を真剣に書いてみよう。まっすぐな言葉で紡いだ文があの人たちに届くことを祈りながら。
そして、あの人たちの顔を思い浮かべながらひとりひとりが紡ぎ出す言葉や文を読んでいこう。あの人たちが文を書く姿、あの人たちが文を書いている時の感情を想像しながら。
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