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生き辛さを感じる人に薦めたい坂口恭平著『自分の薬をつくる』

これは坂口恭平さんの新刊『自分の薬をつくる』をお勧めしたいだけの記事です。


とっても良い本でした。
しかし、幸福感をしっかりと感じながら日々を生きている人には不要です。

不安を抱え、幸福にはなれないだろうと考えがちで、一体どうすればこの先うまくいくだろうか、と考えたことがある人にはお勧めしたい。創作やアウトプットに悩んでいる人にも参考になるところがあると思います。


周りの目が気になるし、人に会うと疲れるし、やりたいことも見つからないし、何の為に生きてんだか…あなたはそんなこと考えたことあるでしょうか。今はコロナ禍のおかげでそんな心境になる人も多いかもしれません。

東京で勤めていた頃、かつての僕自身はそんな気持ちもあり、躁鬱病とまではいかないまでも気分の浮き沈みが激しくてなんとも生き辛かった20代。
現在は、黙々と自分の生きやすい暮らし方(仕事と生活)を研究、実践しているのですが、そんな自分の生き方ともリンクし、また新たな指標を得たような気がしています。

読んでよかったなあ。

本の紹介をします。


著者 坂口恭平 という人物

坂口恭平さんが実践した『「自分の薬をつくる」ワークショップ』。24名が参加したこのワークショップでは、待合室と診察室との間に話し声など遮るはずもない薄いパーテーションのみ設置した『坂口医院』を開設、それぞれの悩みを皆が聞いているとは自覚しながらも、坂口氏個人と対話するかのように打ち明け、そして坂口氏がある薬を処方していくのである。その様子をもとに自分の薬をつくる、とはなんなのかを論じていく。

著者 坂口恭平とはルポ、小説、思想書、料理本など数々の書籍を著す文筆家であり、第一線で活躍するミュージシャンからも支持される音楽家でもある。そして最近のライフワークともいえるパステル画は恐ろしいほどのスピードで上達し、観る人を癒す、現代美術における評価すら得ようとするほどの芸術家でもある。

そしてもう一つの彼のライフワーク、それが『いのっちの電話』だ。
彼は躁鬱病であることを公表し、希死念慮を抱えるあらゆる人たちとの対話の場『いのっちの電話』を2012年から自らの携帯電話(090-8106-4666)で続けている。

24時間開設しているこの『いのっちの電話』には毎日10件ほどの死のうと思っている人々から電話がかかってくる。
それを2012年から続けているわけだが、この狂気とも思えるほどの対話が生み出したのが、現在の坂口恭平さんという人物だ。


自分の薬を作ろう

彼は現在、鬱状態に陥らずに1年以上平穏に過ごしている。薬も飲むことをやめ、病院にも通ってないようだ。つまり、躁鬱病を自力で治した、といえる。
希死念慮を抱えるあらゆる人々との対話から、現代の人間(もしくは日本人)の悩みの本質を掴みとり、それを攻略するための薬を自ら試し、実践しているのである。

結果からいうと、人間の悩みの根本原因は「人によく見られたいという気持ち」だという。そしてそれに対する薬とはいわゆる『習慣』のことだ。人の目を気にするがあまり、上手にアウトプットすることが出来なくなり、インプットにのみ時間を費やすことになってしまう。そうして脳内の情報が飽和し、インプットを受け付けなくなった状態、それが抑うつ状態の原因では、と論じている。
つまり深い抑うつ状態にならないようにするには適度にアウトプットする習慣をつけるといい、というのである。

簡潔に言ってしまうとそういうことなのだが、24人それぞれの体験談をもとに処方する薬(アウトプットする習慣)はそれぞれ実に突拍子もなく、それでいて夢や愛があり、かつ実践可能な物ばかり(しかも場合によっては実践すらしなくてもいい、ともいう)。読み進むうちに突拍子の無さも気にならなくなるから不思議だ。「突拍子ないなあ」と思うのはつまり、人の目を気にしているから、に他ならない。(坂口さん、適当に言っていることもたくさんありそうだけど、、)

アウトプットは人の為にするもの、という固定観念が削がれると、心は軽やかになる。もちろんそれを評価してもらいたい、と思うのが人間で、それによってまた悩み、葛藤していくわけだが、アウトプットすること自体は自分の為にして良い、と思えるのはすごく嬉しい。

また、坂口氏自身あらゆるチャンネルを持って創作するアーティストだが、アウトプットに関するコツというか、心構えなども大変参考になる。
アウトプットする作品自体には厳しい批評の目をもち続け、自分自身にはその目を向けない、ということが大事なようだ。






個人的な話なんだけど

僕は、抑うつ状態によって寝込んだり、人とコミュニケーションをとることを放棄したくなる状態の人を小さい頃から見ていた。母親だ。

少しずつ大人になりそれが鬱病であるということを理解し始めたが、僕自身そうなる可能性を多分に含んでいると想定しながら過ごしてきた。
辛い仕事からは逃げ、人間関係が面倒になれば避け、ストレスが溜まりすぎないように注意して生きてきた。坂口氏の著作を読むとそうやって生きてきた自分を肯定されたような気持ちになる。風邪をひかないように注意するのと同じように、鬱状態に深く陥らないように注意して生きてきたと思える。

これを読んでいる人で、もし今生きている環境が辛くて、死にたくなるような日があるとしたら、すぐにでも逃げ出して、生きやすい環境を見つけて欲しい。
そうして生きやすい環境を見つけることが生きるということだと思うし、それが一生続くことなのだと思うが、なかなかに面白いこともあると思う。お互い色々試してみましょう。



最後に坂口氏の大好きな曲を。詩がすっと入ってきて好きなんです。
寺尾紗穂さんのピアノと歌声も最高最高です。


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