10数年前、好きな人がくれた手紙は「書く」へ向かわせる呪いになった

数年に一度、読み返す手紙がある。10数年前、当時、尊敬していて、大好きだった人からもらった手紙だ。そんな手紙を後生大事に保存しているやばさは、とりあえず置いておいて欲しい。この手紙は僕にとって呪物のようなもので捨てられないのだ。

本当に好きな人だったので、読み返すと一気に過去へと感情が揺り戻されて精神的なダメージを受ける。

だがそれ以上に、今の僕にとってきつい言葉が記されている。

それは僕が彼女にキャリア相談めいた話をしたことへのアドバイスだった。

10数年前、好きな人にかけられた呪いの言葉

「文章を書くことを仕事にしたいと思うこと、すごく良いと思う」

彼女は同い年だったが既にクリエイターとして活動していた。文章を仕事にしたいと思っていた僕は、彼女にはいろいろと相談していて、いつの間にか恋愛対象として好きになっていた。彼女は僕の文章を好きだと言ってくれていた。

手紙の締めの言葉に次のようなことが書いてある。

「いつか私の仕事とあなたの文章で、なにかできることを願ってます」

ただの文章を良い感じに締めるための言葉で使っただけだったのかもしれないが、それでもこの言葉は、いまだに僕に強い後悔の念を思い起こさせる。僕はなぜいまだに彼女と並び立って仕事ができていないのだろう。

この言葉はほとんど呪いだ。

その後、彼女はテレビなどにも出るようになり、現在でもクリエイターとして華々しく活躍している。彼女とはこの手紙をもらって以来、会っていないし連絡も取っていない。

文章を仕事にしようともう一度志している今、再び手紙を読み返した。やられた。呪いの効果が明らかに強まっている。一度は諦めて、忘れかけていた呪いを掘り起こしてしまった。

この呪いはおそらく、彼女と仕事をするまで解除されることはないと思う。10数年前、彼女がくれた言葉を現実のものにするしかない。そう思うと、書かなければ、と思う。彼女はこんな言葉をかけたことなど、きっと覚えていないだろう。それでも、呪いでもあり、原動力でもある言葉をくれた彼女には感謝している。

もしかすると今の僕が「書く」にこだわっているのも、彼女からの言葉が原因なのかもしれない。とにかく、今は書き続けるしかない。今の僕は10数年前の呪いによって生かされている。