音楽と凡人#20 "入院"

 病院で診断された後、タクシーでそのまま京都第二赤十字病院へと移動した。MRIをとって診察を受けたのち、診察室のような場所でベッドの上に寝転がり手術を待った。ドラマで見る様な手術室に移動するのかと思っていたが、そのままその場所で手術は行われた。

 私の肺からは空気が漏れ、それが体内にたまって肺を潰し心臓を圧迫していた。肋骨の間に局所麻酔をかけ針のようなものを刺してその漏れた空気を外へ抜き出し続けることで、潰れた肺を元の形の状態でキープして穴が自然に塞がるのを待つらしい。空気を抜き続けるというなんとも原始的な手順を聞いて、私の体はよくできたおもちゃのようだと思った。

 私は普段風邪もほとんど引かないし持病もなかった。健康そのものであった。手術をして入院して初めてそれがいかに幸せなことであるかを知った。朝目覚め自分の力で動き、様々な活動をして眠りにつく、当たり前のことをただやれることの素晴らしさを知った。患者として入院すると皆が優しくしてくれる。生きているだけで褒められる。術後数日で退院し、日常の生活に戻った時、頑張らないと褒められない世界に戻ってきたなと少し心細い気持ちが起こったが、それは贅沢であると病院のベッドの上の自分を思い出して改めた。

 気胸は珍しい病気ではなく男性では10万人に18人程度の発症率らしい。しかし気になったのはその再発率である。30%から50%である。肺にブラというぷくっと膨れた箇所があると、それが破れて穴があいてしまうのだが、私にもそれがあった。今回の手術では空気を抜いて自然に穴がふさがるのを待つという胸腔ドレナージという方法であったため、あいた穴は縫い合わされたわけではなく自然にくっついただけである。

 健康な体に戻っていくと同時に考えるのを後回しにしていた不安が大きくなってきた。私はロックバンドのボーカルで、叫ぶ様に体の中にある空気を全力で声に変える歌を歌ってきた。これからも同じ様に力の限り歌うことができるのだろうか、と。

 当たり前だけど煙草はやめる様に、と医者は言った。飛行機は気圧の変化が良くないのでしばらく乗らない方がいい、激しい運動もよくない、と言った。歌については、強い負荷をかけるような形は、というようなことを言われた。そしてまた医者から勧めるものではないが、再発のリスクを下げる手術をするという方法もあるにはあるとやんわりと言われた。

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