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『ジョブ型雇用時代の必読書』(環境研究)

 2020年は新型コロナウイルスにより、日本の特質により出来上がった人事制度が変容しつつある。

 しばしば論じてきたように、現代日本においては、企業や官庁や学校などという機能集団が同時に共同体となる。これこそ現代日本最大の組織的特徴であり、また、現代日本社会の「機軸」であるといえる。 ・・・中略・・・ しかし、一般的にいって、アメリカなどの近代社会においては、普通、機能集団と共同体とは分化する傾向がみられる。つまり、宗教共同体、人権共同体、地域共同体などが、企業などの企業集団と重なることはなくなっていく傾向が一般的である。

『危機の構造』

 以上は、大学などの組織の枠に収まることがなかった天才社会学者である小室直樹氏の代表的な名著である「危機の構造」からの抜粋だ。
 「会社いう機能集団=共同体」であった理由の表層には日本企業の年功序列や職能資格制度からのメンバーシップ型雇用という人事制度があった。

 改めて、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用を以下にまとめておく。

 メンバーシップ型雇用とは、「年功序列」「終身雇用」を前提とした多くの日本企業で採用されている雇用の形だ。先に人を採用してから仕事を割り振るという特徴がある。仕事内容、勤務地、働く時間に対して明確な規定が無いため、状況によっては会社が社員に対して、ジョブローテーションなどの部署の異動や転勤を命じることができる。

 ジョブ型雇用とは、その名の通り仕事に対して人が割り当てられるという雇用の形で、欧米の多くの企業が採用している。ジョブ型雇用の場合、企業は「Job Discription(職務記述書)」と呼ばれる資料の中で、仕事内容や勤務地、働く時間を明確に定義している。そのため、社員にとっては仕事のゴールが明確で、「働き方」に関しても、ある程度柔軟に調整しやすくテレワークなどに向くと言える。さらに、メンバーシップ型雇用では難しいダイバーシティー雇用を推進しやすい方法だ。

 日本語で表すと、メンバーシップ型雇用は「適材適所」で、人が先にあり、その人を適する場所(能力を発揮できる場所)に配置するという考え方。これに対してジョブ型雇用は「適所適材」で、場所(職務)が先にあり、その職務内容や求められる資質を明確にして、それに合う人材を配置するという考え方だ。

 ジョブ型雇用については、欧米で採用されている「適所適材システム」であり、それをシステマティックに運用して成功したのがオスマン帝国であることは以下にまとめた。

 アクイハイヤーとデウシルメ

 オスマン帝国には、常に優秀な人材のみを吸収し、能力と業績だけによって昇進を許すシステムがあった。そのシステムは「デウシルメ」と呼ばれていた。
 デウシルメはメフメト1世、ムラト2世の時代に定着したようだが、オスマン帝国の支配エリート層が信仰するイスラームではなく、キリスト教徒の農村(バルカン、アナトリア地方)から眉目秀麗、身体頑健な少年を選び、トルコの農村に住ませ、トルコ語とトルコ的生活様式を学ばせた。

 そして、さらなる選別により宮廷に入り、スルタン(リーダー)に仕え、その後宮廷を出て州総督などの要職に就く者、あるいは最終的にスルタンの片腕である宰相や大宰相にまで出世する者など、常に優秀な人材を吸収し、能力や業績のみによって昇進を許すことは日常茶飯事だった。宮廷に入らなかったそれに次ぐ水準のものは、常備騎兵軍団に、残りのものはスルタン(リーダー)直属の常備歩兵軍隊であるイェニチェリ軍団員となった。

 イスラム法では、いかなる権力者もムスリム自由人を裁判なしで処刑したり、財産の没収をすることができない。
 したがって、ムスリムより、非ムスリムをスルタン(リーダー)の近くに配備することで、「羊飼いも大臣になる昇進システムを持つオスマン帝国」と当時コンペティターであったハプスブルク帝国に恐れられていたのだ。

 このデウシルメというシステムはスルタン(リーダー)を中心に強力な中央集権制度(ガバナンス)を構築し、優秀な人材を適所に配備することができた。そして、これらのデウシルメで獲得した人材はムスリムでないため、ムスリム部族(地縁・血縁)などの外戚が国政につけいる隙を与えず、外からのムスリムから切り離された人材であったこともオスマン帝国が長く続いた理由のひとつだ。

 テレワークという新型コロナで生まれた新しい労働環境は、メンバーシップ型では人事評価が難しいこともあり、ジョブ型へシフトを検討する企業が7割に達したという調査結果がある。

コーン・フェリー、ジョブ型人事制度の導入実態を調査
大企業の7割がジョブ型へと舵を切っていることが明らかに

 巷にはジョブ型へのシフトが難しいのではないか、という意見も散在しているが、ジョブ型へ移行するとことで、グローバル・ビジネスが大成功する会社も出てくる。逆に失敗する会社もあるだろう。その違いはどこで生まれてくるのだろう。

 ジョブ型へ移行する場合に、しっかりと考えなければならないのは、何のためにジョブ型に移行するか、ということだ。単なる横並びの意識やテレワーク程度の環境変化に流された導入ではうまくいくはずがない。

 ジョブ型雇用でもっとも光り輝くのは以下の4つの労働の分類によると、④にあたる人材だ。

 ①知識を伴わない定型労働  時給1,000円
 ②労働改善を伴う非定型労働  年収300万〜500万円 
 ③知識を伴う定型労働  年収400万〜600万円
 ④複数分野の知識を伴う創造的知識労働  年収1,000万円〜数億円

 現在は、社員個々の貢献度は同じではない。創造的知識労働ができるタレントが社内にいなくなれば、製品の革新能力は一気に落ちる。

 定型労働型・定型的知識労働型の社員が何人集まっても、革新的な商品や新技術は、全くうまれてこない。新市場を開拓することも到底できない。グローバル市場での競争になれば、赤子の手をひねるがごとく簡単に負ける。

 また、革新を行う能力のあるタレントは、仕事の成果が報われれば、革新し続ける性質を持っている。このような人材を会社が失ういうことは、結局高くつく。優れたタレントを失うことで、多くのワーカーや定型的知識労働をしている人達は、リストラされてしまったのである。ちなみに最近は、定型労働をする人達を食わせるタレントをどの会社も探していると言ってよい。

『「タレント」の時代』

 『「タレント」の時代』は、新型コロナの出現による環境変化で、急速に価値が高まった1冊で、新型コロナウイルスにより低迷する企業を、大胆なリストラ以外の方法で蘇らせる(Revital)には、本書のいうタレント、つまり、複数分野の知識を伴う創造的知識労働に大きく依存することは明らかだ。そして、それを認め、それを生かす仕組みを早急に作り上げることが必須となる。

 『「タレント」の時代』は複数分野の知識を伴う創造的知識労働が何であるかを論旨明快に解説されており、ジョブ型雇用をデザインする際に一度読んでおくと効果的だ。

 ジョブ型雇用時代の必読の1冊だ。

Creative Organized Technology をグローバルなものに育てていきたいと思っています。