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散歩道(2) 1夜〜7夜まとめ

長い記事になるので、各話ごとに目次から飛べるようにしました。

  • 12/11 ベナ拡の用語説明を、別ページに独立させました。

タイトルのイラストは、以下のサービスで私が発注したものです。
序盤の舞台になった「近所のスーパー銭湯」の背景。

『チェインパラドクス』(C)イーノ/どだむ/トミーウォーカー

これだと何のことか分からんでしょうから、補足説明を。
株式会社トミーウォーカーの運営するPBW「チェインパラドクス」で、私が登録イラストレーター「どだむ」さんに依頼した「背景イラスト」です。

P B Wプレイバイウェブって何者?
それも、今後のお話で早い段階に出てきます。今はドン・キホーテの物語の出発点とだけ、申し上げておきましょう。

では、ベナ拡の「導入編」にあたる序盤の7話を振り返っていきましょう。

1夜

空から落ちてくるおっさん。
「天空の城ラピュタ」の序盤っぽいですが、誰が喜ぶんでしょうね。

重要なのは、その前です。
この物語の主人公…まだ名前すら出ていませんが、彼は夢の中で蝶になってどこか遠い世界へ飛び立とうとしていました。まさに「胡蝶の夢」。

舞台は、2020年春。新型コロナウイルスの世界的流行で、日本でも最初の緊急事態宣言が出たころ。新宿の都庁が「東京アラート」で赤くライトアップされていた時期です。

「すずめの戸締まり」でも冒頭で、津波によって高い場所へ押し上げられた漁船のビジュアルが出てきました。あれで、誰でも東日本大震災を思い出すでしょう。あんな感じの導入と思ってください。

ですが「すずめの戸締まり」とは、正反対の出来事が起こります。
「現実に起きた災害の背後に、ファンタジックな真相があった」ではなく。
「現実の出来事が、夢の世界にまで異変を及ぼした」。

コロナ禍と悪夢。私には想像をふくらます格好の「映画の予告編」でした。

そして、もうひとつ。夢は忘れるものです。
夢の内容を覚えていよう、忘れないでいようとする人は少ない。だいたい、日常の忙しさに紛れて忘れていくものでしょう。でも…。

本当は、人類みんなが毎晩、精神だけが身体から抜け出し「蝶」になって。はるか彼方の異世界に飛んでいって、楽しく遊ぶ。そうして心の癒しを得て朝になるころ、元の身体へ戻ってくる。これが自然のサイクルなのです。

どこかの異世界で使われた召喚魔法とか、ワープ装置でもない自然現象。
これが「夢渡り」。それが、謎の見えない壁に邪魔された。

行き場を失った夢のチカラは、地上に落ちて夜の街に充満し、現実の夜景に重なる「拡張現実の夢」へ姿を変えました。ARは、ポケモンGOやドラクエウォークでお馴染みの技術ですね。こういうの。

実写とゲームCGの合成(ドラクエウォーク)

ARが、スマホのカメラを通さないと見えないように。拡張現実の夢もまた、夢を見ていない者には見ることも、触ることもできません。

2夜

ドン・キホーテの想い姫、早くも登場です。1夜ラストから顔出してました。
彼女は、こちらのことを知っているようです。
そしてなぜか「ユッフィーさぁん?」と呼びかけてきます。

それは主人公が、RPGやPBWでよく使うオリジナルキャラの名前でした。
面識も無いはずなのに、なぜ人の趣味を知っている(笑)。
探りを入れるために話を合わせてみたところ、感動の再会!とばかりに急にハグされます。

ここで、主人公…「ユッフィーの中の人」と呼ぶことにします。彼は自分がお気に入りの「うちの子」の姿に変わっているのに気が付きます。だいたいこんな感じの容姿だと思ってください。

こんな美少女ですが、中身はおっさんです。夢の中ならではのカオス。

画面上でいつも眺めて、課金までする「お気に入り」は、野郎より女の子がいい。おっさんは実におっさんらしい理由で、女子キャラを使うのです。

「君の名は。」では、自分で触って確認をしていましたが。
こちらでは、女の子に抱きつかれ胸元に顔をうずめられる形で「ついてる」ことに気が付きます。ひねったパターンですね。

ふたりは、どんなコンビだったのでしょうか。
ユッフィーは忘れてしまったけど、彼女は覚えている?

3夜

ユッフィー(中身はおっさん)に抱きついてきた女の子の名前は「エルル」でした。その名前を呼んだのは、見るからに怪しげな道化の人形。

エルルちゃんの容姿は、こんな感じです。
だいぶ前に、PBWで発注したイラストの使い回し。

『ケルベロスブレイド』(C)イーノ/里麻りも子/トミーウォーカー

道化人形のビジュアルは「からくりサーカス」の自動人形たちや、2020年にフルリメイク版が発売された聖剣伝説3の「死を喰らう男」をイメージしました。謎の強キャラ感。

エルルちゃんと道化人形は「仕事仲間」ではあるらしいですが、仲は険悪。呉越同舟といった感じです。

はじめは蝶になって、どこかの異世界へ飛んで行こうとしたけど。見えない天井に邪魔されて地上に落ちた地球人たちは、道化から「仮面」を受け取りその機能を使って、思い思いの姿のアバターに「変身」していました。

場面は、ゲームの説明会。

現実でみんながマスクを着けているように、地球人のアバターたちも全員、何らかの仮面をつけています。ユッフィーとエルルだけが素顔。
ユッフィーの場合は、アバターそのものが仮面とも言えますが。

そのユッフィーは仮面なしで「変身」ができたため、道化に怪しまれます。

この奇妙な「拡張現実の夢」を、道化は「悪夢のゲーム」だと呼びました。エルルちゃんは、そうじゃなくて「勇者育成プログラム」だと主張します。果たして、どちらが正しいのでしょうか?

4夜

チュートリアルは続きます。

道化人形たちは、自らを「ガーデナー」と名乗ります。彼ら自身の説明では「悪夢を喰らう、夜の守護者」だとも。悪い夢を食べる幻獣「バク」のような存在なのでしょうか。

一方でエルルちゃんは「勇者を導く戦乙女」と名乗りました。
北欧神話には「エルルーン」という名のヴァルキリーがいます。「エールのルーンに通じた者」を意味するそうです。ビールが好きそうですね。

両者の説明によれば、昔こんなことがあったそうです。

  • 「ベナンダンティ」なる夢世界の番人がかつて存在したが、現実世界での魔女狩りによって、中世ごろに滅びてしまった。

  • 後を引き継ぐ形で「ガーデナー」たちが夢の世界を守り、人間社会の歪みで「負の感情の暴走」が起こり、各地の「ゲート」が勝手に開いてしまうのを防いできた。

私は、この本を買いました。
きっかけは、だいぶ前にカクヨムで誰かがベナンダンティをネタにした小説を書いていたのを読み。これは「夢渡り」そのものだと直感した私は詳しく元ネタを調べるうちに、Wikipediaの記事を見つけ。

自分なりに考察を重ねて、持ちネタに取り入れました。コロナ禍の悪夢と、ベナンダンティは親和性が高いですね。そして現代のベナンダンティは、RPG文化の豊かさを守るために戦う。

これは、現代日本におけるRPGの衰退と。ドラクエウォークなどに代表される「ガチャの問題」から着想を得ることができました。作家とは、あらゆるネタを「食材」にして「作品という料理」をつくれる生き物なのです。

ガーデナー側の主張は、もっと単純です。
「すずめの戸締まり」には「閉じ師」なる「ゲートの番人」がいましたね。彼らは「後ろ戸」を閉め、災いが現世に出てくるのを防ぐ。それと同じような役割を担ってきたと言いますが…?

  • 正常な夢渡りが妨害される、夢の世界のロックダウン

  • 謎の「増えるエルルちゃん」。ウイルス扱いされるヒロイン。

夢の世界で、数々の異変が起こり。事態はもはや、ガーデナーの手にも負えなくなって。ゲーム形式で地球人の手を借りて、事態の打開を図ろうとしているようです。

5夜

見た目は怪しいですが、主張を聞く限りでは「正義の味方」かと思われた、ガーデナーたち。そのウソを暴く者が現れました。彼の名はオグマ。

なんと、ユッフィーが変身したときから身につけていた赤い宝石の首飾りがオグマの正体でした。チラチラと、存在感をアピールしてはいましたが。
仮面なしで変身できた理由は、この首飾りだったのでしょうか?

事件が起きたのは、道化が「ヒュプノクラフト」の説明をしていたとき。

ヒュプノクラフトのサンプルとして、道化は「デイリーうらミッション」なるコンテンツを「悪夢のゲーム」に実装し。現実世界で憎い、許せないと思うものを告白するようプレイヤーに求めてきます。

地球人たちは「ガチャへの恨み言」を口にしますが。ユッフィーの首飾りに宿るオグマの人格は、ガーデナーの「異世界での悪行」を暴露。彼らを故郷を滅ぼしたカタキだと糾弾します。

さらには、首飾りの魔力を解放。着用者のユッフィーの身体を一時的に乗っ取り、道化人形たちを素手で粉砕。夢とはいえ、異常な怪力です。

オグマは、地球は庭師ガーデナーの庭であって、地球人はその庭で彼らに飼われている「家畜」も同然だと指摘しますが…?

6夜

温厚なエルルちゃんも、オグマの暴走には怒ります。突然の出来事に、他のプレイヤーたちはびっくりして逃げ出してしまったのでしょうか?

エルルは首飾りが何であるか知っていたようですし、オグマとも旧知の仲のようです。

幸い、夢の中でどれだけ暴れても。現実には物理的に干渉できないようで、お店の設備は無事でした。ヒュプノクラフトによる調度品を除いては。

そしてオグマは、謎の首飾りについて驚くべき真相を語り始めます。
ユッフィーが最初の変身時から身につけていたのは「ブリーシンガメン」。北欧神話に登場する「炎の首飾り」を模したヒュプノクラフト。

優れた人間の戦士たちを戦いの運命に導く、呪われた首飾りとの伝説も。

この首飾り、夢の記憶を忘れる以前のユッフィーがオグマに製作を依頼したものでした。神話の中で、女神フレイヤが首飾りを手に入れるため支払った対価と同じものを差し出してまで。少年主人公には、無理そうでしょうか。

そもそも、忘れる以前のユッフィーはどこでオグマと出会い、なぜそこまでして首飾りの製作を頼んだのでしょう? 大きな謎が残ります。

オグマはまるで、ドラゴンボールの亀仙人みたい。中の人がおっさんだとは知らずに騙されたようですが、どうやら今でも忘れられない様子。

「女の武器」が弱点のおっさんが、自ら「女の武器」を使える立場になったとき。それはおっさんに対して、効果的な切り札になり得るのでしょう。

オグマも、ユッフィーに仕返しをします。暴走時に仮面を飲み込んだことで「ブリーシンガメン」は、仮面の持つ変身や通信の機能を取り込みました。
ですが、OSであるオグマの人格が変身に制限をかけてしまいました。

すべては、ユッフィーのおっぱい枕を独占したいため(笑)。

ユッフィーの「中の人」は今後、夢の中ではずっとユッフィーの姿でいる他なくなりました。さあ大変?

7夜

オグマが暴走事件を起こした際、その場にいた他のプレイヤーたちはみんな怖がって逃げたと思われましたが。実はひとり、残っていました。

エルルちゃんズも身を挺して、パートナーを守るため頑張っていましたが。度胸のすわった人がいるものです。

それもそのはず、その人物は「越後のちりめん問屋」を名乗っていました。あなたは、どこのご老公様ですか。お供するのは、助さん角さんを意識したコスプレのエルルちゃん。

地球人全員に「配布」されているエルルちゃんは、ご主人様の特徴に応じていろいろな姿をしているようです。

ご隠居は、名乗りこそ「越後のちりめん問屋」ですが。姿形はロマサガの詩人に似ていて、仮面のデザインは「ペストマスク」。謎の多い人物です。

彼はこの「拡張現実の夢」に、国民的RPG「竜騎士の旅ドラグーンジャーニー」の世界観と似たオブジェクトが多数出てくる謎に関心を持ち、街の各地を歩いて調査しているようです。

ドラジャニは、ユッフィーの「中の人」も子供の頃から親しんだ思い出深いRPG。思わず、ゲーム談義に花が咲きますが。

話はやがて、現代のRPGがガチャによって存在を歪められてしまったこととガチャへの恨みが夢の世界にまで影を落とし「呪い足し」なる奇妙な言葉が生まれた件に及びます。

DJPのガチャはクソドケチ、福引きじゃなくて呪い足し

地球人のプレイヤーが放った、ガチャへの呪いの言葉

ベナ拡で一番の悪役といえば、スマホゲームのガチャなのです。
私たち地球人が生み出してしまった、無尽蔵にヘイトを増やし続ける災いの種。根本の原因は現実世界にあり、夢の世界だけでは解決不可能。

異世界「アスガルティア」出身のオグマには、RPGやガチャのことはよく分かりませんが。それらがガーデナーの手で「負の感情」を集めるために利用されているのを指摘します。

もしあなたの好きなゲームが、異世界の邪悪な者に悪用され。憎悪のチカラを集めてどこかの異世界を滅ぼす道具に使われるとしたら、どうしますか?

彼らは、地球に危害は加えません。なぜなら地球人は家畜であり、憎しみを生む財産だから。ガーデナー自身は現実で目立つ悪事をはたらきませんが、それは人間同士で勝手に戦争や社会問題を起こさせた方が楽だから。

私の考える、最もズル賢く最悪なタイプの悪役ヴィランです。

朝焼けの中、ユッフィーはその場の一同に宣言します。
エルルちゃんの話した言い伝えに出てきた、豊穣の守護者ベナンダンティ。

自分はRPGの豊かさを守る、現代のベナンダンティになると。
たとえゲームクリエイターにはなれなくても、この夢で世界をつくる。

謎のご隠居も、その決意を祝福しました。彼とはまたどこかで会いそう。
彼は本当に、DJPの開発元「レックス社」の関係者なのでしょうか?

次回、8夜からは。
オグマの起こした暴走事件の影響と。地球人たちの憎悪ヘイトが「無意識に発動するヒュプノクラフト」と化して、悪夢のゲームに「呪いのガチャ」の実装をもたらし。拡張現実の夜に、さらなる混乱を引き起こします。

あなたが、善き道を歩む者ベナンダンティでありますように。

アーティストデートの足しにさせて頂きます。あなたのサポートに感謝。