夢に怖気づいてうずくまってしまった人へ~映画『BISHU -世界でいちばん優しい服-』~(完成披露上映会)
『BISHU』。漢字で書くと『尾州』。
『愛知県一宮市を中心に、津島市、稲沢市、江南市、岐阜県羽島市など、愛知県尾張西部エリアから岐阜県西濃エリア』で、この一帯は毛織物(ウール)の生産が盛んなのだという。
映画『BISHU -世界でいちばん優しい服-』(西川達郎監督、2024年。以下、本作)は、この尾州の機織り工場の娘が夢に向かって「文字どおり」歩き出す物語だ。
本作はまず、史織によって「夢に向かって歩き出す人を他人が止める権利はない」ーそれがたとえ、心や身体、家族や境遇などにハンディキャップを抱えた人であってもーということが明確に描かれている。
そしてもう一つ、布美によって「夢を諦める権利は本人にしかない、ただし、それは歩き出した後でなければならない」ということが描かれている。
それにしても、何故日本は、ハンディキャップを抱えた人に対して、「自(分で)立(つ)」ではなく、「独(りで)立(つ)」ことを強要するのだろう。
ハンディキャップを持っていない(と認識している)人々だって、「独りで立」って生活なんかしていないのに。
つまり本作は、史織が言うように『(服は)自分だけで作ったんじゃない。みんなが助けてくれた、その優しさで出来上がった』という物語だ。
ただ、それを『生活習慣へのこだわりが強く苦手なことも多い』というわかりやすいハンディキャップを持った主人公で表現してしまったのは、いささか残念かもしれない。
ファッションショー全体の流れをみても、唐突でご都合主義的な面は否定できない(大村満(黒川想矢)の扱いも含めて)。
だが本作が見せたいのは、その後、史織が立ち上がる、その美しい姿であり、夢に向かって歩く輝きだ。
彼女が立ち上がることができたのは、周りの人の「優しさ」があったからだ。
ハンディキャップがある/なし(いずれも自分自身の認識として)に拘わらず、夢に向かって歩いている途中に、何かのアクシデントなどで一歩を踏み出すのが怖くなってうずくまってしまう瞬間がある。
そんな時、自分の中に閉じこもらないで、周りに自分を預けてみたらどうだろう。
耳を塞いで自分だけの世界に逃げようとする史織を、周りの優しさが救ってくれたように、誰かの優しさが救ってくれるかもしれない。
そしてその優しさはいずれ自分が誰かを救うときの力となる。
ラスト、史織は自分の夢に向かって歩き始める。
恐らく、ここまで彼女を見守ってきた観客の中に彼女を心配する人はいないだろう。
彼女は「独立」したのではなく「自立」したのだ。
彼女こそ、一歩を踏み出すのが怖くなってうずくまってしまいそうになった時、誰かの優しさが立ち上がる勇気をくれると知っているのだから。
もう心配はいらない。観客は、安心して映画館を出られるのだ。
メモ
映画『BISHU -世界でいちばん優しい服-』
2024年9月26日。@TOHOシネマズ日比谷(完成披露上映会)
色々書いたが、本編124分、ちっとも飽きなかった。
当日、ここ数日の気温の低下で体調がすぐれなかった私は、コロナ禍以降、久しぶりにマスクをして出かけた。で、上映前の舞台挨拶の間、何度か咳をしたのだが、上映中、エンドロールが終わるまで一度も咳をしなかった。
それくらい、集中していたし飽きなかった、ということだ。
落ち込んだ史織に満が聞かせてくれた音を聞いて思ったのだが、機織りの音って、母親の胎内の音なんじゃないか?
だから、史織は毎朝、亡くなった母親から「生まれ直す」ことによって日常生活を取り戻したのではないだろうか、と、勝手に思う。
本作は、2024年10月11日から一部劇場で先行公開され、10月18日より全国公開となる。詳しくは公式サイトで。
長澤樹さん出演作
岡崎沙絵さん出演作
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