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【毒親連載小説#44】中国渡航編 1-4〜起死回生の道〜

それは、大学時代の時の
北朝鮮専門の客員教授だった。

大学に通っていた当時、
私は朝鮮半島関連のゼミに入っていて、
その時にその教授と知り合った。

北朝鮮に精通する学者で、
北朝鮮からは入国を断られるぐらいの
北朝鮮研究においては有名な人物だった。

私は大学時代の頃、
その教授とよくお酒を飲みながら
話をしていたこともあったので
教授のメールアドレスも持っていた。

私はふっとそのことを思い出し
メールボックスから探し当て、
ダメ元でコンタクトを取った。

このような切羽詰まった状況で
私は相手に文章を書くと、
天がいつも私を味方してくれる。

私のエネルギーがまるで
相手に伝わるかのごとく
その教授からすぐに返信があり、
私はある中国人の連絡先を入手した。

当時の記憶は
あまり思い出せないのだが、
おそらく亡命を手伝う仲介人
だったのだろうと思う。

そして、
私はその連絡先を男性教師に渡し
その後のことは中国語が堪能だった
男性教師に任せた。

大使館へ亡命するまでには
綿密な計画が必要だった。

それまでの間、
男性教師が自分の自宅に
その脱北者をかくまっていた。

聞けば、
ある時は男性教師の電話は
盗聴されていたようでだった。

彼曰く電話をとると
変なハウリングがしたり、
ある時は誰かに
尾行されていたようだった。

それでも日時を決めて、
男性教師と脱北者は
日本領事館へ行き、
脱北者の亡命に成功した。

私は実際に連絡を取り次いだ
というだけの役割だったので、
その脱北者の顔も何もかも
きれいさっぱり記憶にない。

当時の男性教師とももう
連絡手段はなくなってしまったので
ふとこれは私の夢物語か妄想か?
と思うこともしばしばある。

しかし、あの時、
紛れもなく脱北者は私の前に現れ、
日本へ亡命した。

今、彼は、どこで何をしていて、
自分の人生に何を思うのだろう…。

もし会うことができたとしたら
こう尋ねてみたい。

「あなたには今、居場所がありますか?」

このことはふと時折振り返ることがあるが
この選択をしてよかったと思っている。

あの頃、若くて何も持っていなかった私。

それでも、
目の前で困っていた
同じ民族の人を救うため
こんな私でも何か
少しでも役に立てたかと思うと
密かな誇りに思っている。

(つづく)

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