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気球




鳴いて
沈黙が
飛び立とうとする、きのう
はぐれた手が
残した
花びらを思い出したように追って
まだ
 
冷たい
太陽に溶けだした
美しい細工に
染まる両手を開くと、触れてもいない
真実や表情や背後の影まで映り込んで、流れる
赤いスピードをグッと
握り締める、銀の結晶が水底へ沈むように
やさしい
やさしい化けの皮を剥いで
剥いで
引き剥がしてきた 崩れそうな瞳を
舞い上げる、
落ち合う経路を隠していた
名もなき
ともの
短い歌
ひとつ、
低い音から
高く飛んで、
閉じた
眼に昇る
 
青い
稲妻に討たれた鳥たちの羽根が
春の森に戻る日
 
君を打ち消そう 打ち消そうとする
すべてのものが去って
 
しあわせだった世界が終わっても
 
まだこの世にない 
 
一冊の本になって倒れ込む、その
音を
信じる






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眠れない夜に

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