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強襲、阻止限界点。 3/5 #こちら合成害獣救助隊

前回

クマ型キメラに組み付いたあたしは回想する。今日のミッションについてだ。

そこまで危険なミッションじゃなかった。
通報を受けて出動したあたし達は、順調に救助作業を進めていた。あのカマキリ頭もそのうちの1頭。残す区画はあとひとつとなった時、チームの誰かが悲鳴をあげた。想定を超えた大型のキメラ、それがこのクマ型だ。狙われたのは防御兵装を持たない記録員。とっさにあたしが庇えたところまでは良かったけど…くそっ、ふがいない!あたしが真っ先に倒されてどうする!

ずむ、すむ、ずむ!
スラスターを噴射しながら、あたしは一歩ずつキメラを押し返す。押されていくキメラの両脚が作る獣道に、あたしの足型が刻まれていく。この森林の先に開けた土地があったはずだ。とにかく、そこまで!

当たればタダではすまない豪腕も鋏脚も、あたしが潜り込んだ懐には届かない。スラスターの噴射があたしを守っていた。だけど、それだっていつまでも保たない。速く!もっと速く!

より一層の力を込めた時、唸りを上げるスラスターの爆音に混ざって、何かが聞こえた。粘着質が動くような、にちゃりとした、嫌な音。

地面に向けていた顔を上げる。そこにはクマ型キメラの腹部被毛が広がるばかりだった。そのはずだった。だけど、そこにはさっきまで無かったはずの器官が生まれようとしていた。

分厚い皮膚の下で筒状のものが蠢いている。付属肢。脳裏に甲殻類や虫を裏返した時のビジュアルがよぎる。絶対にやばいやつだ!いや、あたしもやばいけど、この子もだ!なんてスピードで因子を発現させてるの?!こんな無秩序な変形、この子が保つわけがない!放っておいたら、誰も止められなくなる!

キメラの皮膚に切れ目が走り始めた。血と体液が溢れて、蠢く付属肢が皮膚の下から顔を出そうとしている。

『だめだァッ!』

アーマーの全リミッターをカットする。そして、己に秘められたキメラ因子のタガを、ほんの僅かだけ解錠した。どくん。アーマーがもたらす制御された力ではない、荒れ狂う暴風のような感覚が全身に走る。湧き上がる衝動を抑え込み、あたしはフルフェイスメットの奥に秘めた瞳に焔を宿し、ありったけの力を込めてキメラに体当たりを敢行した。

あたしの脚とキメラの脚が宙に浮く。スラスターが更に輝きを増し、あたし達は一筋の流星となって森林公園を貫いていった。倒木を吹き飛ばし、小川を寸断し、岩石を砕きながら、国道は遥かに後方に消えていった。

そして急に障害物の抵抗が無くなり、あたし達は空中に投げ出される。アーマーのオーバーロードがタイムリミットを迎えるのと同時だった。下草のない砂利に叩きつけられる寸前、どうにか猫の本能で受け身を取る。限界を迎えたスラスターユニットがばらばらと散らばった。

そして数10m先にはクマ型キメラの仰向けで倒れていた。腹出し降参は大自然の負けのポーズだけど、今回はそんな平和的なエンディングではなさそうだ。発生しかけていた腹部の付属肢は今や完全に現出し、仰向けのキメラの腹の上でギチギチとうごめいている。

やがてキメラはゆっくりと起き上がり、二足でその巨体を立ち上げると、あたしに凄まじい殺意を向けてきた。広大な採石場に絶対強者の雄叫びが響き渡る。ヒグマを超える巨体。全身を覆う甲殻。悪夢じみて生えた鋏脚と腹の付属肢。今までに無くやばい相手だ。

対するあたしは孤立無援。高速戦闘も無理。因子の解放で体もボロボロときたもんだ。

だけど!

『さぁ!』

あたしは構えた掌をクイクイと動かす。

『取り直しだッ!』

【続く】

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