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強襲、阻止限界点。 2/5 #こちら合成害獣救助隊

前回

落石だ。
俺は最初そう思った。
巨大な岩塊が転がり落ちてきたのだと。

だがそれは岩ではなく甲殻だった。カニとかエビとかの、アレだ。トゲのある甲殻に覆われた、恐ろしく巨大なクマだ。

奴の足元に目をやれば、重機のようなものがしがみついている。救助隊のパワーローダーだ。フォークリフトに手足をつけたようなシロモノだが、パワーは折り紙つきだ。あれが捕獲したキメラを運んでいくのを何度も見た。それが今や辛うじて腕が甲殻に引っかかっているだけの状態だ。あのバケモノ、あれを引っ掛けたまま動けるのか?というか、あの黒い鎧野郎はどこに行った?やられたのか?

クマとカニのバケモノ…いや、キメラ。そいつは今、森林から国道へと飛び出してきていた。急にひらけた場所に出たせいだろう。やつは辺りを盛んに見渡している。まだ距離のあるここからでも、遠近感が狂う巨体だ。複数に甲殻で守られた頭部に光る眼は、狂気に彩られている。やけに白い牙はしたたる唾液に濡れて光っていた。

原始的な恐怖が俺を満たす。だが俺はキメラから目を離さず、すぐ後ろの部下達にハンドサインを送った。射程に入り次第一斉に攻撃せよ。部下達が火器を構える音が聞こえる。パワーローダーを改めて見れば、既に運転手は載っていなかった。どこかで振り落とされたか。やつらには悪いが既にこいつはお前らの活動範囲を超えた。ここからは俺達軍の仕事だ。人里に降りる前に、ここで殺す。

俺達は銃を構え、粛々と距離を詰める。射程距離まであと数歩。やつの巨大さを脳が正しく認識し、更に恐怖感が増す。こんなバケモノが存在してていいわけがない…。

いよいよトリガーに指を掛けようとしたその時、辺りを見渡していたキメラに異変が起こった。

低いうなり声とともにうずくまるキメラ。肩口から背中にかけての甲殻が震えたかと思うと、スポーツカーのドアの如く、ぐばりと粘液をまといながら広がった。あっ、と俺達がマヌケな声を上げている間に、やつは変態を遂げた。粘液がてらてらと光る、巨大な鋏脚が現出したのだ。キメラの雄叫びが山間に響き渡る。

そして悲鳴と共にキメラの甲殻に火花が散った。背後の部下が恐慌状態に陥り、発砲したのだ。堰を切ったように続く銃撃。だがまともに標的を捉えた火線はごく僅か。マズい。

小銃弾を意にも解さないキメラだが、内から溢れる狂気はその標的を常に探していた。巨大な鋏脚は足元に転がるパワーローダーを掴み、それを軽々と持ち上げる。おいまさか。

「退避!」

俺が叫ぶと同時に、やつは俺達めがけて鋼鉄の重機をぶん投げてきた。叩きつけられたパワーローダーはバラバラに砕け散り、さながら散弾銃のようにあたりを襲った。直撃こそ免れたものの、無事に立っている隊員は皆無だった。

残された俺は絶望を抑え込み、距離と呼吸を整えると、小銃に取り付けられたもう一つのトリガーを握り込んだ。小銃付属型のグレネードランチャーが擲弾を放たれる。

擲弾が螺旋軌道を描いてやつに迫るのがゆっくりと感じられた。これを喰らって無事な生き物がいてたまるか。最悪、やつの甲殻だけでも吹き飛ばせれば、あとは集中砲火でぶっ殺してやる。

そう俺が分析していると、着弾寸前のキメラの目の前に、突如として畳のような板が突き刺さり盾となった。なんだ?

擲弾は突如そびえ立った壁に着弾。凄まじい爆発だ。やったか?今見えた壁は何らかの幻だと思いたかった。晴れた煙の向こうには、キメラの骸が転がっているはずだと。

だかやはりそこには壁がそびえ立っていた。凹んだ黄色い鋼板に黒い文字で「合成害獣救助隊」と、電話番号を添えてペイントされていた。あれはパワーローダーが担いでるライオットシールドだ。どうなってる?

がらんと音を立てて、盾が倒れる。そこにはやはりキメラが変わらず存在していた。さらに、こちらに背を向けて立つ、黒い鎧を着た何者がキメラと睨み合っていた。

—————-

「おい!お前どういうつもりだ!」

『うるさい!そっちこそ、そんなの使って!』

後ろから飛んでくる軍人の罵声にあたしは思わず言い返す。あたしはいつだって助けるだけだ。相手がどんなに凶暴だとしても!

あたしは目の前のクマ型キメラを見上げる。あたしを吹っ飛ばしたのは、間違いなくこの子だ。さっきは不覚を取ったけど、次はそうは行くものか。

「お前らがしくじったから俺達が狩りに来たんだろうが!邪魔するな!」

そこを突かれると返す言葉も無い。たしかにここはあたしたちの活動範囲外。獣害を未然に防ぐ為、軍が攻撃を始める領域だ。

だから、あたしたちの土俵まで、戻ってもらう!この子も、街の人も、誰も殺させないッ!

『オーバーロード!』

あたしは大きく地面を踏み鳴らし、叫んだ。それに呼応して、アーマーの隙間から青白い輝きが溢れ出す。

キメラがあたしの変化を訝しむ。だけど、なにかさせる暇は与えない!あたしは増幅されたパワーを脚に込めて、キメラへ飛びかかった。踏み込んだ足元が遅れて砕け散る!

キメラに組み付いたあたしはさらにスラスターの出力を上げる。このまま森の中まで、押し戻してやる!

【続く】

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