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強襲、阻止限界点。4/5 #こちら合成害獣救助隊

【前回】

『取り直しだッ!』

ARGHHHHHHHH!!!!!!

甲殻クマ型キメラは猛然と突進してくる。瞬きひとつさせてもらえないまま、クマの顎門があたしを眼前に迫る。クマ本来の俊敏さは少しも損なわれていなかった。

あたしは目を離さない。
臆せば、死だ!退くもんか!

飛び散る唾液が空中で静止する。その牙が身体を貫く寸前であっても、あたしの身体はイメージ通り動いてくれた。顎門を裏拳でいなす。側頭部に回り込んで下顎へ掌底。流れに逆らわず更に追撃の回し蹴り。反動で離脱。

世界が速度を取り戻す。暴走列車のようなキメラはバランスを崩し蛇行しながら駆け抜けていった。あたしは独楽のように回転しながら砂利に着地する。よし、いける!

クマ型キメラは頭を振ってこちらに向き直ると、再び突進してきた。今度は両肩の鋏脚を大きく広げている。落ち着け。さっきと同じように!

左右から迫り来る致死の鋏。あたしはそれを身体が潰れるほどしゃがみこみ回避する。その鋏同士が衝突する前に直上の喉に蹴りを放った。

鋏同士の衝突音が響き渡る中、あたしの蹴りをめり込ませたキメラが動きを止める。だけど、追撃は胸部付属肢に阻まれた。再び距離を取る。

あたしは呼吸を整えるのに必死だった。対するキメラは未だ動きを鈍らせる事なく殺意を向け続けている。わかってたけど、なんてタフネス。加えてあの原始的恐怖を呼び起こす異形。神話の悪魔だと言われても仕方がない。

だけど、あの子は悪魔じゃない。
あの子はキメラ災害に巻き込まれた動物なんだ。クマと、カニと、あと…。

あと、なんだ?!

網膜モニターに記されたアナライズ情報を改める。ここまでの打撃を通して得られた情報解析度は40%。当該個体を構成する生物種はヒグマ、ヤシガニ、ロブスター…そして解析未完了の文字がいくつか。

まだ何かあるの?ただでさえ外骨格と内骨格がむちゃくちゃなのに!早く決着を、対応型麻酔弾を精製しなきゃだ!

だけど情報が足りない。あたし1人じゃ戦闘に手いっぱいで観測にリソースを割けない。このペースじゃ、いつまた変態されるかわからないぞ。

指先を動かし、手首装甲の内側に仕込まれた針のギミックを確かめる。あまりやりたくなかったけど、脊髄から髄液を直接採取するしかない。リスクは大きいけど、アナライズは一気に進められるはずだ。次の交錯で、決める!

三度キメラが突進してくる。今度の攻撃は顎門、鋏、そして前脚の三段構えだ。これを凌いで、この子の背中に、飛び移る!

あたしはまっすぐキメラに突進した。顎門を、鋏を、前脚をぎりぎりで回避し、股下に滑り込む。背面に回り込んだあたしは全力で制動をかけ、反転。甲殻の棘に手を掛け、キメラの背面に取り付いた。

死角に入られたキメラはさらに怒り狂い、あたしを振り落とさんと暴れまわる。あたしはそれに抗い、延髄付近に到達した。暗殺剣のような針を展開する。ごめん、これ、ものすごく痛いけど、ガマンして。

延髄の甲殻に手を掛けて針を構える。その時、不意に解析進捗のアラームが鳴った。僅かずつ解析が進んでいたのだ。

当該個体に刺胞生物因子確認

刺胞生物。
あたしがその文字列をきちんと把握するより早く、甲殻がぐばりと開いた。緻密に並べられた電子回路のような、刺胞の群れ。

まずい。
あたしが戦慄した時、すでに刺胞は発射されていた。物理刺激で反射的に発動する天然の銃弾、刺胞。この数、さながら散弾銃だった。

どむん。
胴体に直撃を受けたあたしはキメラの背中から高く跳ね飛ばされた。アラートで埋め尽くされる網膜モニター。そのまま受け身も取れず、顔面から地面にーーー

ーーー叩きつけられなかった。
キメラの豪腕に、捕まえられていたのだ。みしみしと軋む、握られた両脚。巨獣の怒りの瞳はフルフェイスメット越しにあたしを射抜く。そしてその下で開かれた顎門が、吊るされたあたしに喰らいついた!

【続く】

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