駆け出し百人一首(32)人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道に惑ひぬるかな(藤原兼輔)

人(ひと)の親(おや)の心(こころ)は闇(やみ)にあらねども子(こ)を思(おも)ふ道(みち)に惑(まど)ひぬるかな

後撰和歌集 雑一 1102番

訳:人間の親心というのは闇ではないのだが、我が子を思う中では困惑し、迷ってしまったのだなぁ。

I believed that I could keep calm. But I totally lost my cool in worrying about my child.


藤原兼輔(877-933)は、『源氏物語』を書いた紫式部の曽祖父です。紀貫之や凡河内躬恒らとも親交があり、当時の歌壇の主要な歌人でした。百人一首の「みかの原わきて流るる泉川いつ見きとてか恋しかるらむ」でも知られています。
今回取り上げた歌は、親心のままならなさを詠んでいます。普段どれほど理知的な人でも、我が子のこととなると、親バカになったり、冷静さを失ったりするのはよくあることです。
この歌は紫式部のお気に入りでもあったようで、『源氏物語』中にはこの歌に由来する表現(いわゆる「引き歌」)が、実に26回も登場しています。


文法事項

あらねども:打消「ず」已然形+逆説の接続助詞「ども」
惑ひぬるかな:完了「ぬ」連体形+詠嘆の終助詞「かな」


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