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SAVE DATA 第二十九話〈創作大賞2023 イラストストーリー部門〉

Chapter29「直前」

・・・

角塚の姿を見たのはあの日が最後だった。

卒業式を明日に控えた今日まで、終ぞ角塚は私の前に現れなかった。

山城先生は、私に対して「どうするんですか」と毎日責めるように言い、雪井先生からは「今日はいましたか?」と心配する連絡が頻繁に来ていた。

そんな中、私は原稿を完成させた。
思いの丈をぶち込んだ私が伝えたい思いを最大限書き綴ることができたと思う。

「・・・大丈夫。きっとあの子なら来てくれる」

私は祈るように信じた。それくらいしかできなかったといえばそれだけだが。
角塚は間違いなく、青春の中にある何かに囚われて生きてる。

彼女がその現状を望んでいるから青春は繰り返されるわけだが、彼女の本心はそれだけではないと思う。

・・・彼女は救われたがっている。

私にはそう思えて仕方なかった。
前へ進むだけではなく、繰り返す青春の中にい続けるだけではなく、全てが救われて欲しいと願っているのだ。
・・・都合の良い願い。無駄に歳食った大人から見れば、愚かな願いにも思える。そんな全てが上手くいくわけない。
でも、それで彼女が苦しんでいるなら手を差し伸べたい。愚かでも間違っていても構わない。

「・・・あんたでもそうするよね、倉石」

それが教師だもんね。
私は職員室の自室で人知れず苦笑いをこぼした。

・・・

その日の放課後、私は誰もいない教室にやってきた。
生徒たちも最近ではもう来ることはなくなっていた。あとは明日を残すのみ。きっと晴々しい顔が並ぶだろう。勿論その中には、彼女の姿があるはずだ。
私は角塚の前の席に座って、角塚の机をじっと見つめた。

「・・・角塚さん、聞こえてるんでしょ?明日卒業式よ、絶対来てね。イヤイヤでも構わない。けど絶対来て欲しい。私の最後の言葉をあなたに送らせて」

この一年の色んなことが思い出される。
角塚さんが新しいクラスにいたこと、夜の学校に現れたこと、昔の夢を何度も見たこと、忘れていた青春を取り戻したこと、超青春に襲われたこと、雪井さん、倉石沙江さんと会ったこと、あなたに何度も声をかけたこと、あなたが私と向き合ってくれたこと。

「それじゃまた明日会いましょう」

そうして私は立ち上がり、教室を去った。

これでお膳立ては全てした。やり残したこともないし、後悔もない。

「息を整えて、身体を温めて・・・」

ウォームアップは終わり。

走り出す準備はいつでも出来ている。


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