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SAVE DATA 第二十四話〈創作大賞2023 イラストストーリー部門〉
Chapter24
「おはよう、角塚さん」
私は偶然廊下で通りすがった角塚に声をかけた。
「・・・・・・」
角塚は驚き半分、怒り半分で顔を歪ませ、私を睨みつけていた。
すっかり夏服に衣替えした生徒たちが私たちの横を通り過ぎていくが、私と角塚に構う人は一人もいない。
二人だけの空間のように、私は角塚しか見ていないし、彼女もまた然りだ。
「・・・せんせい、友達になってくれるの?」
角塚はその言葉に期待を込めていなかった。私の腹の内を知ってるような声音だが、それは当たっている。
「ならないわよ。昨日言ったでしょ」
「じゃあ、なんで出勤してきてるのよ。昨日のことなんてほんと序の口よ。私のこと舐めてるの?」
「あのねぇ、普通に過ごしましょうよ角塚さん」
「うるさい!」
角塚はそう言って、バッグの中からまた拳銃を取り出した。
そして銃口をこちらに向ける。
「落ち着いてよ、ねえ」
「友達にならない明日崎先生なら要らない。私が消してあげる」
「角塚さん、それ本心?」
私が訊くと角塚は「は?」と声を出した。
「その現実を望んでいるのかって聞いてるのよ」
角塚は面食らったような顔をしていた。持っていた銃が揺れてカチャと音を立てる。
「そうよ。せんせいを殺したい」
「本当に?」
「殺したい、殺したい、殺したい、友達になってくれないせんせいを殺したい!殺したい!殺してやりたいよ!」
角塚はまるで自分に言い聞かせるように、殺したいと何度も連呼した。
「青春なら、嘘はつけない。本心でないと現実はついてこないでしょ」
「わかってるよ!そんなこと!」
角塚は何度も構え直しながら言った。
「何回も繰り返した。だから、この力のことは私が一番わかってるんだよ!偉そうに上から目線で説教のつもり?」
「仕方ないでしょ。それが教師っていう職業なんですもの」
私は肩を落とす。自分で言っても嫌になるけど。
「ほんとウザいなぁ。昨日まであんなに慌てて逃げ回ってたくせに」
「そうだね。今だってあなたの、超青春とかいう力は怖いし、痛いのも嫌」
「じゃあ、私のともだちになればいいじゃん!なんで反抗するのよ!」
私はんーと顎に指を当て考えた。
「私だったら、ともだちになってほしい人にそんな言い方はしないからかな」
相変わらず苛立ちを隠せない表情をしているが、私に対する期待感を失ってしまったように、目の光を失っていた。
「正論のつもり?本当にウザいなぁ、あんた」
「言葉遣いに気をつけなさい。それと、もう授業始まるから、私は行くわね」
私はじゃあと言って拳銃を持ったままの角塚の肩をポンと叩いて、振り返ることなく、私は立ち去った。
・・・
「ちょっと言い方が挑発的すぎたかなぁ」
「でも良かったですね、無事で」
例のバーで雪井さんは言った。雪井さんと会うのはもはや恒例になっていた。勉強しなくてはいけない忙しい時期のはずなのに、よく付き合ってくれた。彼女曰く、今の明日崎先生の状況って1番の勉強になるから、と言っていたのが私にはよく意味がわからない。
「ええ、やっぱり私が思った通りだった。あれは本心じゃない」
「けど、明日崎先生も勇気ありますよね。誤射していた可能性もあったわけでしょ」
「ええ、正直おしっこ漏らしそうになるほど緊張したわよ。でもやっぱりあの子と向き合ってわかったわ。角塚は私を殺したいわけではない。あれは悩んだ感情が暴走してるだけだと思う」
「悩みですか。それは、みんなが卒業したら忘れていくことですか?」
「それもあるかもしれないけど、多分違うわ。きぅと彼女が抱えてる悩みはそれだけじゃない」
ねえ雪井さん、と私は続けて言う。
「・・・私、決めた」
「何をですか?」
私は気づけば何度も頼むほどハマっているマンハッタンをクッと飲み干し、一息ついていう。
「・・・あの子を卒業させる」
「卒業、ですか」
そうよ、と私は頼んでおいた二杯目のマンハッタンにまた口をつけ、一息ついて言う。
「あの子の青春を終わらせてやるのよ」
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