SAVE DATA 第二十話〈創作大賞2023 イラストストーリー部門〉
Chapter20 「夕雨」
先輩に首を優しくおさえられ、唇を重ねられた。
絆されるような、甘く少し湿った人間の感触を感じる。
先輩は喰むように唇を動かして、私の強張った唇を無理やり動かすと、吸着する音が小さく鳴った。
「・・・や、やめてくださいッ!」
私は首を捻り無理やり先輩を引き離す。
「あ、ごめん、亜理紗」
先輩は頬を赤くさせながら、唇を拭って後ずさった。
「・・・ごめん、嫌だったよね」
なぜか私より困惑している。しかし私も心臓が大きく脈打つのを感じながら動揺していた。
初めてキスをした相手が、尊敬する大好きな先輩だった。
その事実を受け止めることは容易ではなかったのだ。
先輩はそれから頭を抱えて、勉強机に座って伏せた。
「ごめん亜理紗、今の忘れて。ごめんなさい。本当にごめんなさい。許して」
先輩は懺悔するように何度も、ごめんごめんと呟いた。
「・・・嫌、だったよね。私とんでもないことしちゃった」
私はわずかに濡れた唇を拭うと、ふと机の上の写真立てに目がいった。
「・・・先輩、千晴先輩のこと女の子として好きだったんですか」
その言葉の後にしばし沈黙して、先輩は腕に顔を埋めたまま、「わからない」と呟いた。
「・・・特別な存在だったんですよね」
そう言うと、先輩は伏せたまま頷いた。
それからわずかな沈黙が流れた。
私の心臓だけがまだうるさかった。それもさっきよりはるかに激しく脈動して、喉から飛び出てきそうだった。
私はおもむろに立ち上がり、先輩の肩を軽くつつく。
先輩はビクッとわずかに震え、涙に濡れた顔をあげた。私は少し力強く先輩の腕を掴んで引っ張った。先輩は戸惑いながら、私になされるがまま引かれて、そのままベッドに放り出される。
「あ、亜理紗?」
私はポケットに入っていたスマホを机に置いた。
家の鍵も邪魔だったので、重ねるようにスマホの上に置いた。そして私はベッドの上の先輩に覆い被さった。
一連の動作に緩急はなかった。全て一定の速度で行った。
「・・・嗚呼、やっぱりしっくりきますね」
動揺した先輩を見下げて、躊躇いなくキスをした。先輩は身震いして驚いたが、やがて私の動きに呼応するように唇を動かし、舌を絡めた。
粘着な音が、静かな部屋に響く。窓を叩く雨音が遠くの方にあるようだ。
やがて、私は顔を上げて再び先輩を見下ろした。
私の下に先輩はいた。身体を熱らせ、うろんな目で私を見ていた。
「・・・先輩、私イヤって言ってないんですよ」
先輩は黙って私を見つめる。
「ただ、違っていたんです。これは後輩の私から、させてほしかっただけです。少しモヤモヤしました」
私は乱れた先輩のキャミソールを掴んだ。そして引き寄せるようにそれを手繰る。
「・・・先輩、私を見て下さい。私は先輩から見て魅力的に映ってますか?」
先輩は戸惑いながら、しかし、こくこくと何度も頷く。
「・・・良かった。じゃあもっと私を見て下さい。もっと感じて下さい。私でもっと満たされて下さいね」
私は唇を再び重ねた。
重ねながら、その感触を確かに感じながら言う。
私の大好きな―――。
「せーんぱい」
角塚は甘美な罪深い笑顔を浮かべた。生温かく、湿った時間だけが過ぎ、二人は溶けるようにゆっくりと堕ちていった。
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