北千住で本屋をはじめます。vol.1
「本屋」? 「書店」?
この夏、北千住に小さな本屋さんを開きます。名前は「Inconvenience Bookstore(インコンビニエンス・ブックストア)」。直訳すると「不便な書店」。場所は北千住駅から徒歩10分圏内です。
なんで本屋をやるのかってところを話したいんですが、その前に、私自身悩んでいることがあって、それは「本屋」と呼ぶべきか、「書店」と呼ぶべきかというところ。
まず「本屋、やれるかも!」と思った理由のひとつに、B&Bを経営している内沼晋太郎さんの『これからの本屋読本』(NHK出版)を読んだことがきっかけとしてあるんですが、その中で、「書店」と「本屋」の呼び方についての言及があって。(ちなみにnoteでも読めます)
感覚の話なんですが、「書店」はすごくたくさん本があるイメージ。「本屋」はもうちょっと雑貨とかも置いてある感じがする。(内沼さんの話、全然参考にしてないじゃんというのは置いておいて)
私のお店は、きっとたくさんの本では埋まらないと思っていて。基本的には新刊を扱いつつ、zineなどのリトルプレスや、タイで買い付けてきたアートブック(この辺の話もおいおいしていきたいです)などを置きたいのだけれど、そこには空白というか空間もあるんじゃないかなとか。めちゃくちゃ狭い店内だけど。そして本をストイックに探す場所、というよりは、本を介したコミュニケーションとか、居場所とか、そんなことにも興味がある。
やはり「本屋」ということでやっていこうと思う。本屋、はじめます!
なんで「本屋」をはじめるの?
気になる「まちづくり」
最初は、本屋をはじめようだなんて、これっぽっちも思ってなかった。けど、「場所」をつくりたいということは、なんだか小さい水滴みたいに心にポツポツ溜まっていて。きっかけはありきたりだけど「コロナ禍」。
その頃、タイから帰国して、メンタルの調子を崩して、やっと復帰して東京に戻ってきたところだった。もともと出版社に出入りするフリーの編集ライターで、東京に戻ってきてからもいろんな方の紹介などでライターの仕事にありつくことができていた。
当時、ライティングを担当していたWebマガジンで、よく扱っていたのが「まちづくり」や「建築」「コミュニティ」といったトピックだった。それまではファッション誌やライフスタイル誌で働いていたから、「まちづくり」だなんて、考えたこともなかった。けど、知れば知るほどすごいおもしろい。こうやって、まちを住みやすい場所に変えられるんだ、と希望が湧いた。と同時に、行きつけの「カフェ」や「バー」「本屋」など、お気に入りのお店ってかなり重要なんじゃない?ということにも気づいた。
私はコロナ禍に引っ越して、全く縁もゆかりもない千歳烏山という土地にマンションを見つけた。(なんでそこを選んだかというのも、一応、深い理由があったんですが)そんなわけで、知らない人しかいない、好きな店もない、そこで私は2年間じっと耐えた。よく耐えられたな、と感心するのだけれど。人がそのまちで生き生きと暮らすには、行きつけの場所や、逃げ場みたいなのが絶対に大事だと思う。誰と会う約束をしていなくても、そこに行ったら誰かに会える、話を聞いてもらえる、おいしいご飯が食べられる、それってすごい安全地帯だし、保健室みたい。私もそんな「場所」つくってみたいとどこかで思っていた気がする。
「不便益」との出会い
そしてもう一つ、京都先端科学大学工学部の川上浩司教授にインタビューする機会があった。内容は、先生が研究している「不便益」について。不便益ってなあにってところなんですが、簡単に言うと文字通り、不便でこそ得られる「益」のこと。私が書いた記事から少し引用する。
話を聞くと、先生はスマホを持っていない。だから学会に行く時も、それが初めての場所にもかかわらず、Google マップを見ることはできない。前日に紙の地図を見て頭にイメージしておくと言っていた。しかし途中で迷ってしまうこともあるらしい。スマホを見ずに歩いていると、「こんな店あるんだ、帰りに寄ってみよう」など、さまざま発見があるんだと。私はそれを聞いて、なんだか変な人だけど楽しそうだなあと思った。
私たちの社会は、なんでも効率化が進んでいる。1ミリの隙間、1秒の暇な時間も許されない。ECサイトを見ていても、ソーシャルメディアを見ていても、AIが自分の好きそうなものをピックアップして見せてくれる。嫌いなものなんて見なくてもいいのだ。でもそれって、すごく狭くないか?と思う。インターネットで世界が繋がったのに、世界は狭まっている。変なの。便利になったのに、なんだか心は寂しい。変なの。
だから「不便益」の話を聞いた時、これだ!と思った。不便益を実践したら、私たちの生活って豊かになるんじゃないか。そして最初に考えたのは「不便」をテーマにしたお店だった。「不便」なモノを売って、不便について考えるワークショップやトークショーなどを行う場所にする。その構想ができてからは、不便なものってなんだろう、と毎日考えた。掃除機が便利なら、ホウキは不便かなあ。電子レンジが便利なら、蒸し器は不便かなあ。でも、私は別にプリミティブな社会を目指しているわけでも、提案したいわけでもない。しかも便利なものは便利なものとしてあっていい。だってスマホもパソコンもネットも大好きだし。もっと未来っぽいけど、不便なことってなんだろう、モヤモヤ考えていた。結局、「不便ショップ」のアイデアはメモ帳の片隅に長くとどまることになった。
つづく
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