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回想シーン

入学式前日の夜は,ちびっ子の従兄弟たちが大泣きしてくれた。
わたしが,故郷を離れることに対して。
家族とも,涙ぐみながらお別れをした。
深夜に父と二人で車に乗り,見知らぬ地へ向かうというのは,
とても寂しいものであった。

翌早朝に到着した時は,引っ越し作業と入学式と土砂降りの雨で,
寂しさどころではなかった。
でも、かなりひどかったこの雨は,昨夜の涙の続きのようにも感じられた。

見ず知らずのこの地で,一人暮らしの生活が始まった。
けれども,決してホームシックにはならなかった。
むしろ,この地で見ること、聴くこと、すること、出会う人,
ぜんぶが新しいことばかりで,うれしくて,
寂しさなんか忘れていた。
入学早々,スマートフォンをなくしてしまい,音信不通だったけど,
そんなことも、へっちゃらだった。

その一か月後のゴールデンウイークで帰省した時に,
「もうケータイなくすなよ。」と,
おじいちゃんに言われたこと,今でもはっきり覚えてる。
あれがおじいちゃんとの最後の会話になるなんて,思ってもいなかったな。

あれからもう4年の月日が経つ。
ずっと前のことのような,つい最近のことのような。
ひとつずつ,鮮明に思い出される。感慨深くなる。

もちろんこの地で泣くこともあった。
帰省後,この地に戻ってきたときに雨が多かったのは,
おじいちゃんが泣いているからではないかとも思った。

でも幸せなことに,涙が長く続くことはなかった。

さまざまな人と,場所と,音楽が,わたしを支え,成長させてくれた。
ありきたりな言葉ではあるけれど,
この地で過ごした4年間は,本当にかけがえのない思い出になった。

今となっては大切な第二の故郷。
この地と別れることが寂しい。

あと2週間しかないと思うと,そんなことばかり考えてしまう。

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