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電話相談なんて、ロクなもんじゃない。

ある日、非通知設定から着信があった。
「はい、もしもし?」
「こんばんは!ラジオネームは?」
「…はい?」
「ラジオネーム、わかんないですか? じゃあ、僕がつけちゃいますね!ラジオネームは、クールビューティー前田くんにしましょうか!」
「はぁ…。あの、何ですか、これ?」
「あぁ、申し遅れました!『小森三郎のウェルカム!電話相談』です!ということは、私は、小森三郎です!」
「…あぁ。なんか、間違っていますかね? 僕、ラジオとかよくわからないですし、小森さん?のこともわからないですし」
「まぁ、そうでしょうね」
「そうでしょうね?」
「はい。この番組を始めて、はや8年になるんですけど、2年目ぐらいから誰も聴いてる人がいなくて、メールも電話も来ないんですよ」
「あぁ、結構、早い段階で躓いてますね…」
「そうそう。でも、電話相談がウリの番組にしちゃったので…。だったらこうして、こっち側からかけちゃえ!って感じで、090から適当な番号を打って、あなたに辿り着いたんです!」
「そこまでいくと、イタズラ電話ですけどね。でも、僕はラジオ自体聴かないので、あまりどうしていいか分からないんですよ」
「じゃあ、何か、悩んでいることは? それ、言ってくれれば大丈夫です。それに、これ生放送なので、何も話さないってなると、放送事故になるんですよ」
「えっ? そうなんですか!どこの放送局ですか?」
「渡嘉敷島FMです」
「えっ、離島? 絶対、東京じゃ電波入らないじゃないですか!」
「あっ、東京の人なんですね。じゃあ、東京生活が上手くいっていないってことで、悩み相談進めていきますか」
「いや、でも僕、東京生まれ、東京育ちなので…。東京生活に不満はなくて…」
「でも、東京の人は、皆冷たいですよねー。東京の犬だって、貧乏人に小便かけるって言いますもんね。まぁ、それは、時間が解決してくれると思いますけどね…」
「なんか、東京を勘違いをしてるみたいですね。あぁ、分かりました!悩み、言いますよ。あの、僕、来年就活なんですけど、自分に向いている職業がわからなくて…。どうしたら、得意なことが見つかるかなーって思って…」
「まぁ、いろいろやってみて、気づくってこと、ありますからね。まぁ、タイミングは、人それぞれですからね」
「はい。でも、周りは、目標とか持ってるのに、僕は、全く何も見つからなくて」
「そうですかぁ。でも、辛いのは自分だけじゃないですからね!」
「…あの、ちょっといいですか?」
「なんでしょう?」
「小森さん、悩み相談、向いてないと思いますよ?」
「えー!そうですかね?」
「あの、『時間が解決する』とか、『人それぞれ』とか、『辛いのは自分だけじゃない』とか、そういうのが一番、悩みを話して損したなーって思うんですよ」
「えっ?何でですか?」
「いや、そんなの、誰でも言えるからですよ! 悩みを相談しているわけだから、何かしらの具体的なヒントが欲しかったり、心が楽になる言葉が欲しかったりするのに、そんな超定番のセリフ言われても、誰の悩みも楽になりませんよ! もう、その言葉使うときって、悩み相談の最後の最後なんですよ!」
「怒っていますね…。まぁ、その感情もいつか終わると思いますけどねー」
「それそれそれー! そういうのが、損した気になるんです!だから、誰も聴かなくなるんですよ!もっと、小森さんにしか言えない言葉が聞きたいんですよ!」
「えーっと、でも、これが、僕の最大級の言葉というか…」
「じゃあ、 小森さんが僕の立場なら、どうするか? 一度、ちゃんと考えてから、ものを言ってみてくださいよ!」
「私が、前田くんだったら…。私が前田くんだったら…」
「そう、よく考えて」
「ここまで私の欠点を指摘できるということは、前田くん自身に、悩み相談を聞く才能があるんじゃないかと思いますね。だって私は、この番組を8年もやってて、自分の欠点に気づくことすらできなかった。しかし、前田くんは一発で気づいた。これって、才能じゃないですか?」
「そうですか…?」
「はい!これは、絶対に才能ですよ!だから僕なら、人の悩みを聞くような職業、ラジオパーソナリティーとか、目指しますかね? ほら、この番組、僕は向いてないからさ、君がやってみたらどうだろう?」
「えっ、それは考えたことなかったです」
「前田くんの、向いてること、見つけちゃいましたね…」
「小森さんに、僕の才能、見つかっちゃいましたね…」
「じゃあ、来週から来てくれるかな?」
「…いや、大丈夫です」
「えっ? 今のは、いけたでしょ?」
「なんか、誘導尋問してる感じがあって、しかも、テレフォンショッキングもパクってるし…」
「これで46回目か。行けると思ったけどな…」
「おい、そんなにやってたのかよ!絶対、この番組だけはやりませんから!」
僕は、通話終了ボタンを慌てて押した。ただ、どういうわけか、視界が明るくなった気がした。

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