怒っている時間がもったいない。
東京に上京する前、上京資金を貯めるために、石川県の工場で働いていたことがありました。
コンビニも徒歩圏内にない田舎町で、数えきれないほど田んぼが広がっていました。
そんな場所で、僕は1日12時間働いていたのですが、僕にとってはなかなか大変でした。
毎日同じことを繰り返すことだけならまだしも、僕に対して高圧的な態度をとる人もいて、僕は精神的に弱っていました。
そんな中、僕に声をかけてくれた人がいました。
その人は、20コほど年上の男性で、家には奥さんもいて、出稼ぎ労働者がたくさんのこの工場では、とても珍しい方でした。
たびたび、家でご飯をご馳走になることが多く、僕にとっては下積み時代の恩人です。
その人から、昨日2年ぶりぐらいに電話がかかってきて、最近の近況などを話していました。そのときに、こう言われました。
「稲本に言われた言葉の中で、ずっと大事にしているものがある」
そう言われた僕は、全く心当たりがありませんでした。
当時、19歳の僕が、大したことを言えるとは到底思えませんし、若気の至りで名言っぽいことを言っているとしたら、とても恥ずかしいです(笑)。
その人は、続けてこう言いました。
「短気な俺に言うたんよ。『怒っている時間は、もったいない』ってな」
確かに、言ったかもしれません。その人は、とても短気で、奥さんにすぐにキレたりする方でした。
それがあまり良くないと思った僕は、何とか鎮めるために、この言葉をかけたのでしょう。
それと、当時の僕に、言い聞かせる意味もあったと思います。
当時は、若いというだけで、高圧的な態度をとる人がいて、僕は毎日のように理不尽なことで怒鳴られていました。
その時に、いちいち悔しくて、いちいち腹を立てていました。
仕事以外でも、そいつのことを思い出しては、友達や恩人に愚痴を言っていました。
しかし、そのせいで楽しい時間を潰していたことにも気がつきました。
それからの僕は、理不尽なことを言われても気にしなくなっていきました。
その時のコツはたった一つです。
自分自身が、完全に機械になりきること。
もし自分が機械だったら、腹を立てることはありませんし、自分が機械だったら傷つくことはありません。
仕事中、機械と化した僕は、不満や怖れや怒りを感じても、表情に表れなくなりました。
それから、ストレスをためずに仕事が取り組めるようになったので、その人にもその話をしたんだと思います。
それを、今も大事にしていると言われて、僕は嬉しかったです。
それに比べて最近の僕は、誰かに感情的になりすぎています。
どうしてあの人はこうなのか、どうして自分はダメなのか、そんなことばかり考えて腹を立てていたので、結構スランプ気味でした。
しかし、あの時の自分が今、僕に語りかけているような気がします。
怒っている時間が、もったいない。
過去の自分が、大切なことを教えてくれることもあるので、過去を振り返ってみることも悪くありません。
正確には、恩人が教えてくれたことですが(笑)。
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