(MASTER) PIECE Interview#1 - 丹波の山奥で5年待ちのパンを焼く。(旅するパン職人・塚本久美さん)
What's your (MASTER) PIECE?
人と技術の関係が問われる時代。さまざまな地域や分野で100年後の進化の源泉になるような先駆者がいます。【 (MASTER) PIECE Interview】では、その先駆者にー問ー答で、その胸にある思いをヒアリングしていきます。
■プロフィール:塚本久美さん
HIYORI BROT(ヒヨリブロート)
親
パン作りと、旅と、月をこよなく愛しています。
広告代理店で銀座のOLを3年経験したのちに、 世田谷の名店シニフィアンシニフィエにて、 志賀勝栄シェフに師事。
パンの世界に入るきっかけになったのが、 ドイツベルリンで食べたパンであることから、 ベルリンは第二の故郷。
2016年10月に兵庫県丹波市に通販だけのパン屋ヒヨリブロー トを開業。
新月から月齢20はパンを作り、 21から次の新月までは旅に出て、 パンに使う食材を集めています。
Q.今のお仕事を教えて下さい
パン屋です。月の暦に合わせて20日間パンを焼き、10日間は、生産者のもとへ旅する生活を続けています。先日はライ麦づくりをお願いしている青森の農家さんのところへ行ってきました。
パン作りについては、以前、TVで紹介されたことをきっかけに、5000件ほどの注文をいただきました。私の作り方だと、1日14件の発送が上限。2年を経て2000件ほどのお客様に注文をお届けしたので、のこり3000件を、現在心を込めて焼いています。
Q.都会ではなくて、なぜ丹波という地で挑戦しようと持ったのですか?
ひょんなご縁で、石見銀山のパンやさんを手伝いにい行きました。3ヶ月ほどお手伝いをしていくと、「地方×パン屋」として働くってこんなもんなのかというイメージができました。
その後、友人を頼って向かった丹波で、シェアハウスに住めることになり、居心地よくて長居していたら、「年始にパンを焼くイベントをしたら?」と言われたんです。そして、その年の1月のイベントで、みんな美味しいと喜んでくれて。嬉しいなと思っていたら、その日会場にいたおじさんから「うちの空いている小屋をパン屋にしたら?」と物件を紹介してくれる方まで現れて。。。
それまでは、馴染みがある東京で開業しようと思っていました。物件もめぼしいところを見つけていました。
しかし、もともとオンライン販売を考えていたこともあり、それなら、地方でやってもいいんじゃないかと思い立ち、急遽、場所を東京から丹波に変更し、2ヶ月後には移住を決めていました。
Q.田舎でやるメリットはなんですか?
田舎でやるのがいいなと思ったのは、商圏が小さいからお客さんの名前と顔がすぐに一致して、常連が決まることでしょうか。そしてその常連さんが、地元の食材を持ち寄ってくれるようになるんです。
それだけでなく、旬のものを一緒に収穫しようとお声がけしてくれる。私はこれまで都内のパン屋で働いていたので『食材は問屋さんから買うものだ』と思いこんでいましたが、地域でお店をやると、顔が見える人が作った食材を使える。地域の食材や生産者のキャラクターをのせてパンを作れることはとっても楽しいです。これこそ、都会ではできなくて、田舎だからこそできることだなと思っています。
農家さんが出荷に困るような小さな傷がついた野菜も、惣菜パンを創るときはあまり気になりません。そういった意味でも、各町のパン屋が、そのような野菜を農家さんから買い取って、惣菜パンとして価値を上げるサイクルができたらいいのにと思ったりしています。
Q.立ち上げの苦労はありましたか?
嘘だと思われるかもしれませんが、ほとんど、ありませんでした。もともと友人がいた場所でしたし、シェアハウスも、パン屋の物件も滞在中に見つかってしまったので(笑)
あっ、でも唯一あるとすると、小麦粉などの問屋さんはどうしようかなと思っていました。しかし、それも私が丹波に移住すると聞きつけた知人の紹介で、西日本の問屋さんに営業いただくことができ一気に解決しました。今の時代、これだけ物流が発達していると、本当に地理的制約ってないんだなと感じています
Q. (MASTER) PIECEを増やすために町としてできることはありますか?
うーん。なんでしょうか。パン屋に関して言うと、パン屋って、開業資金が高いんです。きっとレストランより高いかも。
オーブン や、 ミキサー、そして発酵機などを事前に準備しなくてはいけないので、初期費用が500万ぐらいかかるんです。
これが地方でお店をスタートすることに躊躇する要因の一つかもしれません。みんな、人口が少ない地域でスタートすることを考えると、初期費用が払いきれるかということを心配すると思います。
だからこそ、パン屋さんを盛り上げたい地域には、誰でも使えるテストキッチン(チャレンジショップ)みたいなものがあればいいですね。
そこで何度かイベントをするうちに、商圏やサイズが見えてくる。そして、地域の方の顔やどんなパンが好きなのかが見えてくると、より自分らしく、そして地域にあったパン職人が誕生しやすいのではと思います。
Q.あなたにとって(MASTER) PIECEとは何ですか?
『パンで”日常”を作れる人になること』でしょうか。
私は、むかしから職人になりたかった。大工になりたい。竹から耳かきをつくれる職人になりたいと思っていました(笑)。
そんな私がパン職人になったのは、パンは、食べたら無くなるので、また作らなくてはいけないという理由から。
つまり日常に溶け込み、日々必要とされるモノ(食)であること。しかもそれが、農家さんの想いや景色などを投影してつくれるものだから楽しいなと。
同時に、私は、芸術家ではなく、職人でありたいと思います。私の中では芸術家と職人の定義って違っていて、、芸術家は自分の中を表現する人、職人は、欲しい人の思いを実現して上げる人というイメージがあります。わたしは自分がほしいと思うパンではなく、お客さんがほしいと思っているものを焼けた時、よっしゃ!っておもいます。それが日々の活力です!
(オンライン取材時の様子)
■編集後記
旅するパン屋さんという名の通り、どんな土地でも馴染んでしまう笑顔と、軽やかさが印象的でした。今回、(MASTER) PIECEの取材としては第一弾だったともあり、貴方にとっての(MASTER) PIECEとは?という質問には何故かわたしも緊張しました。
そんな中、塚本さんから『パンで”日常”を作れる人になること!』という返事が軽やかに返ってきたことがとても記憶に残っています。(MASTER) PIECEは必ずしも歴史に残る偉業でなくていい。地域や旅先の日々の営みを、パンで表現すること。そして、それを日本中の人々の食卓に届けることが、彼女にとっての(MASTER) PIECEという点はとても素敵だなと思いました。旅するパン屋の塚本さんは、次春に旅する先を探していたということもあり、富山県南砺市井波でも一緒にイベントができることになりそうです。彼女の笑顔と軽やかさで富山の日常がパンになる日を、楽しみにしたと思います!
■取材者:ミノ(蓑口恵美)/週4社員、週1富山フリーランス
Value producer / 「価値が育つ環境をつくる」が個人ミッション。将来の夢は、地域から世界へ飛び出せる職業校をつくること。23地域の雇用事業→ランサーズとガイアックスの「ダブル正社員」→週4ガイアックス /週1富山フリーランス @Mino__Megu
塚本さん、ありがとうございました!
■塚本さんのその他の情報はこちらから
■井波では、パン屋を募集しています。気になる方は以下をチェックください❤(ӦvӦ。)
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