【ショートショート】宇宙で夢追う冒険者たち 火星の向こう

「こちらは、公営放送です。ついに待ちに待った宇宙都民第一陣を乗せたロケットが、人類の夢を乗せ飛び立とうとしています！」

「宇宙を制覇したのは、人類が初めてなのでしょう！」カウントダウンが空間に響き渡る。

「10.9.8.7.6.5.4」


「ママ。僕、迷ってるんだ宇宙飛行になるのを」ファイナル、カウントダウンは続いた。


「3.2.1。さぁ。出発です。ノアの方舟が飛び立つ瞬間です！」 


ゴーっと、爆音と共に、空間を切り裂きながら、夢と希望を乗せたロケットが飛び立っていった。


「やりました！ 成功で、最高デス！ 人類はとうとう、宇宙を制覇するのデス！」

「何だか、室内の温度が上がってはいないか？」

「ええ。なんだか、熱くなってきたわね」

「このロケットは確か機長がいなかったんだよな？」

「ええ。確か、AIのはずよ？」

。。。

。。。

。。。 

「プログラムミスか？」

「どういう意味？」

。。。

。。。

。。。

「おい！ はめられたぞ！？ 俺達！？」

「え！？」

「だから、父さんは。行くなといったんだ！」

。。。

。。。

。。。


「ギャー！！！」

「ギョエー！！！」


。。。

。。。

。。。

真っ黒な虚無空間の中で燃え盛る炎の中に、断末魔が響くはずもなかった。。。

太陽の中で、人の魂の叫びが具現化して、地球に降り注いでいった。。。

「みんな、今頃、今どの辺にいるのかなあ？」少年は、空へと伸びる白煙をじっと見つめていた。。。

「今日の太陽はやけに綺麗ねえ。お母さん、あんなにも太陽が輝いているのを見るのは初めてだわ。ああ。父さんと、一緒に見たかったわね」母の頬を、人のやさしさがこぼれ落ちていった。

「泣かないでよ。母さん。父さんは、雲の上から見ているばずだから」


「そうよねえ。。。私どうしてあの時、父さんを責めてしまったのかしら。。。もっと。。。」母は、両手で顔を覆ったまま、その場にしゃがみこんだ。

「母さん。僕。決めた。宇宙専攻科に進むことにするよ。いつか、母さんを。火星の向こうへ連れて行くと約束する」少年のその瞳には、青年となった自分の姿が映っているようだった。

「ええ。母さん、パートの時間を増やすし、来年からは大学も無償化するらしいから。何も心配しなくていいから」

「ありがとう。母さん。父さんの夢は、僕が必ず叶える！ もう、毒親なんて言わない！」

「そうやって。大きくなっていくのね。。。あなたも。。。」

母と子は、安らかな、温かい光を浴びながら、眩しそうな目をして、すっと遥か上空を見つめていた。

【一週間後】

「宇宙移民、大成功です！」二度と過去の過ちは繰り返さないと誓った人類は、遂に叶えたのです！ 夢を！」都のモニターに映し出される、AIの自動編集した映像に人々は釘付けになっていた。

「宇宙移民。第二波は、来週打ち上げの予定です。順次。募集を募ります。詳しくは、広報の。。。」 人々の歓声で、公営放送はかき消された。

漆黒の虚無空間では、人工衛星のカメラが、じっと静かに太陽を撮影していた。。。

【完】