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和菓子店の未来

私はとある仕事で、和菓子店を経営する店主とお話をする機会をいただきました。その方かた聞いた話が非常に納得できたので、皆さんに共有したいと思います。

和菓子店の過酷な現状

和菓子店の朝はとても早いです。朝3時ごろから仕込みをするとのこと。餡をつくる作業に時間がかかるそうです。大きな鍋での作業はとても暑く重労働ですが、切り盛りする和菓子店の経営者の多くは高齢者が多いそうです。

実際に全国の状況を調べたわけではなく、あくまで、私がお話をお聞きした店主が店を営む地域での話です。

お菓子自体の単価はそこまで安くないものの、材料費だけでなく人件費などのコストのことも考えるとあまり利益率がいいとは言えないそうです。そして高齢の経営者の一番の悩みといえば、「後継者問題」です。その地域では、後継者が見つからず閉店してしまう方が増加しています。和菓子店が減る一方で、需要が減っているかといえばそうではないようです。「贈答品には和菓子の方が向いている」と思うお客さんは一定数いて、需要は決して減少していないとのこと。ということは、残った和菓子店が繁盛します。いいことだと思いきや、実は後継者だけでなく、そもそも店の人手自体足りていないそうです。つまりせっかく需要があるにもかかわらず、人手不足により提供できる数に限りがあり、機会損失しているそうなのです。

どうして和菓子店に後継者が現れないのか

需要はある。ということは成功のチャンスはあるわけです。しかしながら、どうして後継者は現れないのでしょうか。その疑問を、店主にぶつけてみました。すると、興味深い回答が返ってきました。

のれん分け文化による弊害

洋菓子づくりをするプロフェッショナルを「パティシエ」と呼びますね。そして有名パティシエは数多くいます。パティシエの名前を聞いてケーキを買う、チョコレートを買う、という方は多いはずです。例えば、ピエールエルメ氏や日本人ではサダハル・アオキの青木定治氏、Toshi Yoroizuka Mid Townの鎧塚俊彦氏などは知らない人はいないというほど有名です。

しかしながら、和菓子はどうでしょうか。和菓子づくりのプロフェッショナルを呼ぶ名前はあまり聞いたことがありません。そして、有名な和菓子職人は?と言われてもピンときません。

店主の話によれば、日本ではラーメン店や日本料理の店のように、のれん分けの文化が根強く、和菓子店も例外ではないのだそうです。「とらやの羊羹は買うけど、その羊羹を誰がつくっているかは誰も知らない」という店主の言葉にハッとしました。有名な和菓子店はあります。でも有名な和菓子職人が少ないことが洋菓子との大きな違いであることを知りました。

のれんが邪魔をして職人につくべきファンがつかないことによる職人としての限界があるのだそうです。有名店ののれんがないと職人としてやっていけないという現状がそこにはありました。

ヒトは結局モノではなくヒトにつく

店主の言葉で感銘を受けたのは次の一言です。「人は結局のところ、物ではなく人につくんだよ。」その一言に私はすごく納得しました。

店主はこう続けます。「だから、和菓子のおいしさだけでは限界がある。この人の味を信用しているとか、この人がつくるから買いに来るという、職人への感情をお客さんに持たせることが一番大切なんだ。プロ野球は面白いけど、好きな選手がいないとずっと見続ける気にはなれないし、ここまで長続きするスポーツにはならなかっただろう。ファンになれるようなスター選手がいるからこそスポーツも長く愛されるんだ。」

現在の和菓子店には残念ながら人につく文化が根付いていません。それはこれからの和菓子店の課題となっていくでしょう。そして同時に他の飲食店やサービス業でも同じことがいえると思いました。顧客はモノやサービス、体験に人は期待し、期待どおり、または期待以上の価値に対してお金を払います。しかし、同じモノ、サービス、体験に何度も何度も期待以上の価値を感じられるでしょうか。答えはノーです。もちろん商品改良やサービスの品質向上により、期待を超えるものを提供する努力は必要です。しかしそれだけではなく、それを提供するヒト自体の価値やブランドを高めることも必要だと感じました。noteのようなサービスも同様に、何を書くかということより誰が書くかということに大きな価値があるのかもしれません。

この人の提供するものを買いたい、この人がつくるものを買いたい。個人に対する価値の大切さが今問われているような気がします。

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