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昨今のブランディングトレンドから見た「地域ブランディング」のあり方

※ガチガチに真面目な記事書きます、割と長いです。


東京と地方を行き来するようになってから、「ブランド」という観点で地域が議論されることがあまり無いことに気付いた。

もちろん全くそのような対話が無いというわけでもないし、地方創生や地域活性化、街づくりという文脈での議論は盛んに行われている。

これまで、企業のブランディング活動に携わった身としては、もっとこの地域のブランディングについては議論できる余地があるのではないかと考えている。

よく知人に話すのは「企業と地域のブランディングのあり方はかなり似ているんじゃないか」ということだ。

本noteでは、昨今の企業のブランディング(コーポレートブランディング)と地域ブランディングの構造を照らし合わせながら、これからの地域ブランディングのあり方について議論を深めたい。

と、ここまで書いてあまりにも硬すぎる文になってしまったので、もう少し緩めに書きます…

これまでブランドやブランディングという考え方に触れてこなかった方にもなるべく伝わりやすいように書いていきたいので、現在まちづくり等で活動されている方々の現場目線のご意見もぜひお聞かせください。



そもそもブランドとは何か?

「ブランド」や「ブランディング」という言葉は、広告業界以外でもよく聞かれるようになった。いろんな人がいろんな文脈でブランドについて語っているが、ここではシンプルに「ブランド」=「物事に対する特定のイメージ」として定義をしたい。

例えば「ノンスタイルの井上といえば、ガチガチのナルシスト」、「松岡修造といえば、熱血男」のように「◯◯と言えば」で浮かぶイメージ全てを総称してブランドと言われる。(例えが適切じゃない気がしてきた)

そして、そのイメージを意図した方向に形作ることを「ブランディング」という。通常は商品におけるブランディングという文脈で語られることが多いが、昨今は企業のブランディング、いわゆるコーポレートブランディングの重要性が再認識されつつある。

コーポレートブランディングの構造

地域ブランディングの話をする前に、まずはコーポレートブランディングの構造から解説したい。前述したように、コーポレートブランディングとは企業に対するブランディング活動である。有名な例としてあげられるのは「Apple」であろう。「Appleといえば、洗練されたスタイリッシュなデザインで革新を生み出す企業」というイメージがある。

多くの企業が自社のブランドを作るためにさまざまな取り組みを行っている。以降ではコーポレートブランディングの構造を「CI:コーポレートアイデンティティ」「インナーブランディング」「アウターブランディング」の3つの要素に分解して解説したい。(カタカナとか英語とか多くて嫌になっちゃいますよね。)

コーポレートブランディングの構造

①CI:コーポレートアイデンティティ

コーポレートアイデンティティとは、企業の「らしさ」のことを指す。ブランディングはこの「らしさ」を規定することから始まり「理念」「視覚」「行動」の3つが規定される。

「理念」はミッション、ビジョン、フィロソフィー、スローガンなど(カタカナ多いな〜〜)さまざまな言い方で表現される。昨今は「パーパス(存在意義)」という「何のためにその企業はこの世界に存在するのか」を理念に入れることが多くなった。理念は企業の経営に深く結びつく。企業はこの理念を体現するためにあらゆる意思決定を行なう。そしてこの理念を表すための「視覚(ビジュアル)」として企業ロゴがあり、理念を従業員の「行動」に落とし込むために行動指針等が策定される。

CI:コーポレートアイデンティティ

企業というさまざまな価値観の人が混ざり合うコミュニティにおいて、みんなが協力しながら共通の目的を成し遂げていくためにはこのようなCIをつくり「自分たちらしさ」という共通認識を持つ必要がある。

②インナーブランディング

インナーというのは会社の内側、つまり従業員をターゲットとしたブランディングである。CIで可視化された「らしさ」について、従業員が心から共感し体現していくための働きかけをインナーブランディングという。

昨今は、従業員にも人生のパーパスを考えてもらうような取り組みも増えている。個人の志を育み、会社のパーパスとの接点を認識することで、より生き生きと活動してもらうためだ。

③アウターブランディング

ブランディング活動として1番イメージされやすいのがこのアウターブランディングであろう。アウターとは、社外の人たちを指す。お客様、投資家、パートナー、求職者、生活者など。例に出たAppleは、熱狂的なファンを持っている。Apple製品で身を固める人たちをApple信者と言われるように、企業にファンがつくことは強力な競争力になると言える。

「地域ブランディング」にその構造を当てはめる

ここまで解説してきた内容を、地域ブランディングに当てはめて考えてみたい。

①CI:コーポレートアイデンティティ

地域において「理念」に当たるようなフレーズを見られることは、ほとんどないように感じる。あったとしても市民側にほとんど届かないか、もしくはプロモーション目的の街の特徴を表現した言葉がほとんどである。または標語のような、市民のためのありきたりな優しい言葉など。

「理念」は、集合体としての「信念」であり「地域の戦略」がフレーズ化した言葉でもある。地域においても、昨今の「パーパス(存在意義)」を策定することは街に求心力をもたらすはず。「街の存在意義は街に住む市民が何不自由なく暮らせることだ」と言われるとそうかもしれない。だが、企業に置き換えたときに「私たちの企業の存在意義は、私たちが何不自由なく暮らせることだ」という自社目線だけの言葉を掲げる企業に果たして愛着を感じるのだろうか。(もちろん何不自由なく暮らせることは大事だが、それはベースとしてある考えであり、コミュニティの存在意義としては弱すぎるのではないか。)

また「視覚(ビジュアル)」である地域のロゴマークに関しても理念と強く結びつく必要がある。応募型の投票制で策定のプロセスに市民に入ってもらうことは有効だが、人気投票だけで全てを決めるのはナンセンスである。大事なことはこの街の「理念」に紐づいているかどうかだ。

「行動」については「住民の行動指針」なんてものを作ったら反発に溢れそうだが、(誰も見捨てないことを伝えつつも)「どんな行動をする人を応援する街か」は、理念に紐づいて表明していく必要はあるだろう。

CIを形作るのは、簡単なように見えて難しい。どんな言葉が人を動かすか、戦略と結びついているか、他に無い独自性があるか。そんなことを考えながら一本の糸を通すような作業には、クリエイティブのプロの知見が必要になる。しかしそこに予算をかけられる地域は現状少ない。(と、書くと少しポジショントークな感じがするが、要は軽視しない方が良いということが言いたい。)

②インナーブランディング

この活動に関しては局所的に盛んな街もある。特に鹿児島は街づくりの文脈で、イベントを通して街に住む一人ひとりの心に火を灯し、この街で何かを生み出したいと思う人を増やしていくような活動が盛んだ。

企業のインナーブランディングと異なるのは、この取り組みが、前述のCIや理念との結びつきが少し弱いところにあると感じている。つまり街の理念と市民の志の紐付けがなされないところがあるように感じる。
もちろん「自由に自分の好きなことをやればいいよ」とした方が優しく聞こえるが、地域という集合体としてのブランド力やサポートのしやすさを踏まえると、理念という一定の方向性に紐づく方が効率が良いのは企業も地域も同じであろう。

また、インナーブランディングの活動を、理念に紐づく事業などの街の資産につなげることが大切だ。「ああ、楽しかったね」で終わらせず、それを街の価値に繋げていく。

③アウターブランディング

地域ブランディングというと、基本的にアウターブランディングを想起することがほとんどであろう。産業や観光にフォーカスして街に人を呼び込む、地域の魅力を伝えUターンやIターン(企業における採用活動)を推進する。

最近痺れたのは「地方で『緑』とか『青』とか使う映像はダメ」という意見だ。(これは私の主張では無いので、私に批判をしないでね…)

ただ、一理あるかなとは思っていて、確かに地方は自然があることなんて当たり前だからそれを武器として使うのは他の地域との差別化に繋がっていない。(ただ、8年くらい東京に住んでいた身からすると体が自然を欲しているので、分かりやすい自然はそれはそれで魅力的ではある。)

話が少し逸れたが、一点だけ私が主張をするなら、この「アウターブランディング」は「CI」や「インナーブランディング」と密接に紐付けを行うべきなのではないか、ということだ。

地域を大きなコミュニティの集合体として捉えた時に、まずはみんなが目指す「旗(CI)」があり、それを体現する種をまくための「インナーブランディング」があり、その蒔いた種を育て「アウターブランディング」に繋げていく。この一連の設計図を描けているかどうかが、地域ブランドをより強固にするのではないかと考えている。

「コミュニティ・ブランディング」という共通フレーム

ここまでお話ししてきたように「企業」も「地域」も、人が集まる「コミュニティ」という共通点があり、ブランディングの構造も類似している。

双方を包括する広義な意味で捉えると「コミュニティ・ブランディング」と言えるであろう。

コミュニティ・ブランディング

「CI」においても通常はコーポレートアイデンティティと呼ぶが、広義な意味で捉えると「コミュニティアイデンティティ」とも言える。

まとめ

ここまで、コーポレートブランディングと地域ブランディングの構造を照らし合わせながら、地域ブランディングのあり方を話してきた。

新たな地域ブランディングの余白として、以下のようにまとめる。

〈地域ブランディングの新たなあり方〉
①パーパスを含むCIの策定
地域の「パーパス(世の中における存在意義)」を規定。街の理念を可視化することによる地域の求心力向上の余白。

②CIとインナーブランディングの紐付け
市民としての誇りを刺激しながら、市民の志と地域のパーパスとの接点を強化し、CIに基づきサポートすることによる戦略的な事業創出の余白。

③インナーとアウターの一貫性
インナーブランディングで生まれた資産を活かしてアウターへ発信していく、もしくはパーパス実現に向けた街のストーリーを発信することで、その取り組みへの応援、もしくは参加したくなる関係人口や企業を創出する余白。

以上。

もちろん企業と地域は規模感やあり方が異なる部分もあるため全て同じ形を取れるわけでは無いとは思う。しかし「コミュニティ」という共通の特性を持つものとしてのヒントは大いにあるのでは無いだろうか。
「いやいや、けっこう出来てるけどね~」ということであれば是非教えていただきたい。

一旦ここでは筆を置き、また新たな可能性を見出した際に同じテーマに関して記載したいと思う。

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