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「I’m A Japanese Murderer 」第12話 prologue1


「やっとだね!うん!明日だね!!!」

屈託ない笑顔を見せてくれた。
無邪気で無垢な…かけがえのない彼の大切な弟。

会う度にハグをしてくれ、手を繋いで歩いて、彼が嫉妬する程だった…。

「ねぇ?これからは一緒に住めるんだよね?!嬉しくて眠れなかったよ!!」

僕達のことを何の不思議もなく受け入れてくれて、家族が増えて嬉しい!とまたハグをしてくれた。

僕と彼は、付き合って長く、この州では法も認められているので、ここで一緒に暮らすことを決めた。

来週からは、やっと「家族」として暮らしていける。
僕は自分の家族を家族と思ったことがなかった…残念ながら一度もない。あの震災以来、それを言い訳に日本を離れた。全てを家族のお墓に一緒に入れて、もう二度とここには訪れないだろうと思った…。故郷には二度と。田舎のあの差別的な感覚も毎日毎秒苦痛でしかなかった。針を飲まされるように「いつ結婚するの?孫の顔がみたい」到底理解されない僕の想いを口にすることも憚れる、もし口にすれば生きていくことすら困難になる。だから、もう二度と足を踏み入れることもない。流された家も新たに建てたお墓はお寺任せにした。「無かったことにした」…。

アメリカで永住権を得た時、やっと自分が生きていける本当の場所を見つけた実感を得て、泣いた。

そして、本当の家族にやっと出会えた。彼との出会いで僕はやっと自分の本音、自分を愛しいてくれる人を見つけたと、恥ずかしながら号泣した。彼は「なんで?恥ずかしがるの?嬉しいことだよ?泣くことは恥ずかしいことではないよ?」

…日本とは感覚の違う感情への思いに嬉しくてまた泣いた。

「じゃあ、これから一生、泣くたびそう言ってくれる?」

彼はいつもの屈託ない笑顔で、「嬉しくて泣かせてばかりになるかもね」

そして、色々手続きを済ませやっと一緒に住めるように。

彼には幼い弟がいた。
同じ屈託ない笑顔を見せる、本当に天使のような弟。

「じゃあ、明日からだね!楽しみだよ!また明日ね!」

いつも通り、弟を学校まで送っていき、2人で屈託ない笑顔を見送った…。

その笑顔を二度と見ることができなくなるとは思ってもみなかった。
…そして、彼も。


↓第13話 prologue2



#創作大賞2023 #オリジナル小説

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