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若者から見た!『地域コーディネーター・地域中核人材育成研修』 DAY2 現地研修・ディスカッション

10月27日、28日に長崎県対馬市で、「環境省 令和4年度地域の木質バイオマス熱利用推進に向けた『地域コーディネーター・中核人材育成研修』現地集合研修」が開催されました。

このnoteでは前編に引き続き、上記研修の現地研修・ディスカッションについて、大学生である筆者の目線から、地方における「木質バイオマスの熱利用」に関する体験談をお伝えします。

筆者について
自己紹介 窪園真那
鹿児島県鹿児島市出身で、幼少期を奄美大島で過ごす。立命館大学産業社会学部2年生。鹿児島市や奄美大島で育ったことで、「人口減少により衰退していく魅力ある地域でいかに持続可能なまちづくりをしていくか」に関心を持つ。そのためには「地域外へのエネルギーコスト流出」を防ぐ必要があると考え、現在、エネルギー政策を勉強している。

初日のレクチャーや若者から見た本研修の目線、及び参加者へのインタビューについては、以下のリンクからご覧いただけます。

現地研修のようす

二日目は実際の対馬での木質バイオマスの熱利用に関するサプライチェーン、ボイラーの利用現場に関する研修に参加しました。

午前中は川上(造林保育・素材生産)、川中(木材加工・流通)、川下(建設業・消費者)の順に、森林整備の現場やチップ工場、熱需要の現場である「湯多里ランドつしま」の見学を行いました。

川上 〜美津島・厳原周辺の森林整備現場〜

アカハラダカの観察地として有名な内山峠展望台にて、対馬の森林観察を行いました。非常に標高が高く、対馬が山がちな地形であることがよくわかりました。

また、森林を切り出すための林道がはっきりと確認できた他、私たち自身が展望台に到着するまでの山道・崖の道路を体験したからこそ、木を切った後の運搬に時間とコストがかかることが視覚的にも、体験としても実感することができました。

参加者に向けて話す農林しいたけ課の糸瀬真太郎さん

また、植林の天敵である鹿についても、お話を伺うことができました。

環境省の推奨する鹿の頭数が3000頭であるのに対して、対馬では約4万頭の鹿が生息しており、生息密度が著しく高くなっています。鹿による獣害は、造林地における植栽木の食害や成林したヒノキ等の樹皮の食害などが挙げられ、林業生産コストの増大や森林所有者の経営意欲の低下を招いてしまいます。

「簡単な防鹿ネットでは、飛び越えてしまう」対馬市役所・農林しいたけ課の糸瀬真太郎さんは話しました。

経験談を話す松本さん(写真左)
現場の様子

続いて、エネルギーエージェンシーつしまの取締役で、対馬木材産業株式会社代表の松本辰也さんの森林整備現場に場所を移動しました。

分収育林制度、いわゆる緑のオーナー制度を利用して、国有林を入札で売却したそうです。利益率はプライスマイナス0と、かなりリスクを抱えた事業だったようですが「高性能林業機械の必要性や木材の質など、多く学ぶことができた」と松本さんは話します。

分収育林制度
分収育林とは、生育途上の若い森林を対象として、オーナーの皆様に、樹木の対価と保育及び管理に要する費用の一部等を負担(1口当たり50万円又は25万円)していただき、契約に基づいて、国とオーナーの皆様がその樹木(以下「分収木」といいます。)を共有して育て、売却時に、それぞれの持分に応じて販売代金を分け合う(分収する)制度です。

林野庁:分収育林制度のしくみ
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kokuyu_rinya/kokumin_mori/katuyo/owner/tetuzuki.html
防鹿ネットの網は頑丈な素材が使用されていた

前述のとおり、鹿による食害の対策も重要です。そのために、防鹿ネット設置をおこないます。3名で作業した場合、1haあたり3日かかります。また、植林に関しては、3名で1日1500本が限界だと言います。

一辺が10センチ以内の格子構造のネットは、高さ1.8メートルを維持しながら設置する作業で非常に大変な作業である一方、この取組をするかしないかこそが、植林の成否を決定する作業とも伺いました。防鹿ネットの設置に、想像以上の時間と労力、コストをかける必要があることを実感し、非常に驚きました。

川中 〜対馬資源開発協業体チップ工場〜

山積する木の皮について言及する米田さん

続いて、対馬資源開発協業体チップ工場に移動しました。ここからは、エネルギーエージェンシーつしまの取締役で、社会福祉法人米寿会の米田民生さんより説明がありました。

公益社団法人 長崎県林業公社から運送される木材は、100%ヒノキで、福祉施設にて、ラミナ材に加工、さらに島外で加工するなどの製材過程があります。間伐材の一次加工と二次加工で木材の付加価値を高め、対馬ひのきと杉の有効活用(板材生成・木工製品加工)などをおこなっているようです。

加工中に出てくる背板を木質チップに、切り落としの部分は社会福祉施設で木炭を生産する燃料にし、約95%以上は利用することができている。ただ、残りの5%分の木の皮の利用方法が無く、困っている。」と、米田さんは話します。

製材の現場

次に、製材現場を見学しました。流れ作業で、次々と運ばれてくる丸太を淡々と加工する作業は非常にスムーズで、あっという間に、ホームセンターで売られているラミナ材の形式に製材されていました。

「おがこは壱岐島に運び、家畜の寝床に使う。切り落とされた部分も決して無駄にはせず、木炭として活用するなど、地域資源を十分有効活用する。」と米田さんは、熱意を込めて話しました。

含水率を測る様子

さらに、木質チップ加工の現場も見学しました。この木質チップは、量とチップの水分率で単価が決まります。「40%以下の含水率が基準となり、それ以上の含水率になると燃料として十分機能しない。この山の状態で十分乾燥させることが重要。」と米田さんは話します。

巨大な機械を稼働させ、その轟音と共に、アームの先端から木質チップが排出される様子を観察しました。地域資源を最後までフル活用して作られた、木質チップが石油や石炭と同じ資源だと考えると、改めて素晴らしく、画期的な事業だと感じました。

またこの施設では「障害を持つ方々の雇用創出」も目的とされていると伺いました。米田さんは、「実際にこのチップ工場で働く9名のうち、3名は障害を持つ方。地域内での事業展開を行う事で、雇用創出を行い、障害を持つ方々の社会参加に積極的に貢献していきたい。」と強く意気込みました。

木質バイオマスの熱利用を通して、地域の環境や経済だけでなく、社会に対しても良い影響を及ぼしていることを感じました。

川下 〜湯多里ランドつしま〜

円柱型のタンク

現場見学の最後は、熱需要施設の「湯多里ランドつしま」のボイラー施設です。ここからはエネルギーエージェンシーつしまの取締役で、株式会社Reast代表取締役の岡本繁幸さんより説明がありました。

「乾燥していない質の悪い、あるいは規格の合わない木質チップをを使用してしまうと、出力不足や機械の故障につながりかねません。そのため、燃料には十分気をつける必要があります。」と岡本さんは強調します。

タンク内の木質チップ

運ばれてきた木質チップは円柱型のタンクに貯蔵され、自動的にボイラに移動します。そのため、作業としては、タンクに良質な木質チップを投入するだけで完了するのです。

設備の説明をする岡本さん(写真中央)

更にボイラーなどの設備も見せていただきました。私自身、滋賀県長浜市にあるエネルギーエージェンシーつしまの代表取締役の久木裕さんのご自宅で、家庭用のボイラーの設備を見たことがあったため、その違いを人一倍感じました。

設備は複雑で、素人の私には全くわかりません。一方で基本的な仕組みは、家庭用のボイラーと熱貯蔵システムと同じとのことで、その汎用性を知ることができました

また、非常用の化石燃料(灯油)を使用した熱ボイラも設置されているとの話も伺うことができました。この比較をしてみると、バイオマスボイラの導入の難しさやハードルも分かるとおっしゃっていました。

煙突と扉のついた箱の中にあるのが化石燃料(灯油)ボイラ 写真左 
※バイオマスアグリゲーション提供

化石燃料(灯油)のボイラと木質バイオマスのボイラとでは、サイズが全く異なります。そのため、導入コスト・管理コスト共に工面が必要です。急な部品交換などにも課題が発生してしまう、課題点も理解できました。ボイラが海外産であれば、部品取り寄せに最短で約3日かかると言います。ただし課題であるのは、ボイラの国内導入台数、販売台数の少なさにより、部品のストックが少ない、そもそもストックをしていないことであります。

また、既存のボイラなどであれば、規格化されていたり、運用ノウハウも汎用的でありますが、木質バイオマスボイラ設備を施設が独自で導入するとなると、その特製を理解した上で導入する必要があり、非常に大変であるとも感じました。

このポイントから、改めて民間主導で、診断、設計・施工、運転・維持管理、資金調達などまで全てを行う、ESCO型事業の有用性を実感しました。

このように、良い点だけでなく、木質バイオマスの熱利用が抱える課題や、比較対象となる石油資源を初めとする燃料を使用するボイラとの差を知ることができたことも非常に良い経験となりました。


ディスカッションのようす

午後からは、約1時間半のディスカッションを2セット行い、二日間に渡る、本研修は終了しました。

真剣に話し合う参加者ら

地域混合グループでのディスカッション

一回目は、異なる地域の参加者が4つの混合のグループを作り、ディスカッションを行いました。

川上・川中・川下の各段階で、「①主体スキーム ②技術システム ③経済性 ④その他」の4項目での各地域の課題を付箋に書いて、模造紙に貼る作業を5-10分程度で行いました。その後、各地域の課題をグループ内で発表し合い、改善策を考える時間となりました。

課題には、山側の人材不足がどの地域も共通項として挙げられました

やはり、木質バイオマスの熱利用をするにあたって、安定供給は最重要課題として、捉えられているようです。また、模造紙に課題を書いた付箋を貼り付けることで、どの地域も同じ課題を抱えていることや議論が進んできた項目に偏りがあり、検討すらできていない項目があることが一目瞭然でした。


地域グループでのディスカッション

二回目は、一回目の話し合いを踏まえて、各地域ごとにディスカッションを行いました。各地域の話し合いを聞いていると、「川中の重要性」「数字で示すこと」「実践すること」が重要なポイントであると感じました。

木質バイオマスの熱利用事業を行う上で、森林を有効活用をすることが必須となります。その際、川中に位置する、「事業全体をマネジメントする団体」の存在が、事業の良し悪しを左右すると言います。どのように森林を有効活用するためにマネタイズするか、事業に関わるプレイヤーを適切に当てはめるか、いかに役所と足並みを揃えて行うかなど、川中を担う団体の役割は非常に大きいことが分かりました。

そして、「数字で示すこと」も重要です。数字で示すことは可視化につながります。課題を数字に落とし込む・各地域のサプライチェーンを数字で示すことは、人に簡単に分かりやすく伝えることにもつながり、地域内で難しいと言われる、合意形成を円滑に行うことにも貢献すると思います。

最後に、「実践すること」です。先行的に実践した対馬のエネルギーエージェンシーや森林組合、対馬市役所の方々が、「実践することが一つの手段。」繰り返し、強調していました。実際に山を所有してみることや森林組合員になり、一人一票の権限を持つこと、地域の産廃業者に連絡するなどの実践方法が紹介されました。

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WoodBio 交流プラットフォームとは
(案)WOOD BIO(木質バイオマス熱利用プラットフォーム)は、木質バイオマスエネルギーの熱利用に取り組もうとする方に向けて、事業実行に必要な情報や、仲間と意見交換できる場、専門家に相談できる場を提供するWebサイトです。交流プラットフォームでは、本記事で紹介した研修を始め、様々な地域での木質バイオマスの熱利用に関する研修情報や、イベント、実践者と交流することができる機会の提供を行っております。

https://community.wbioplfm.net/

※本noteは、株式会社バイオマスアグリゲーションのご提供の基、一般社団法人インパクトラボが作成いたしました。



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