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採用サイトを見ているインターン生を肩越しに観察したときの話

数年前の話ですが、採用サイトのリニューアルプロジェクトを進めているなかで、インターンとして来てくれていた方に、学生目線での意見を聞いてみたことがありました。

厳密には、パソコンで採用サイトを操作している様子を、私が後ろに立って肩越しに観察し、行動や発言を逐一メモしたのです。

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事前に対象の企業について詳しく説明をしたわけではなく、「もし自分がこの会社へのエントリーを検討するとした場合、率直な気持ちをすべて口に出してほしい」ということを伝えてから開始しました。

その結果、予想とは大きく異なる行動や発言を聞くことができ、制作者としてとても印象に残っているので、noteで振り返りをしてみます。

このnoteで伝えたいのは、「ターゲットの生の声を聞くことにより、気づかされることは非常に多い。何を求めているかを正しく理解して改善しよう」ということです。

人事や採用担当の方だけではなく、「いま制作しているもの(サイトやサービス等)って利用者に向けて作られてる?」って不安を感じている方などにも見ていただければ嬉しいです。

どんな発言があったの?

発言の一部を抜粋すると、以下のような感じでした。

「オフィスはどこにあるんだろう?」
「拠点が8カ所もあるけど転勤になったりしないかな?」
「退職率がめっちゃ低いんだな」
「男女比は男性が多いが、エンジニア採用が多いのかな?」
「仕事の内容が詳しく載ってるけど、細かいから後でいいかな」
「これ実際の社員なのかな?」
「何時頃に帰れているのかな?」

「人材教育やサポート制度が充実してそうだな」
「まず説明会に行かないといけないのか…」

とくに印象に残った点をいくつかご紹介します。

まず募集要項を確認(職種や給料を知りたい)

まず意外だったのは、採用サイトのトップページに訪問した後、「会社を知る」や「仕事を知る」といった主要なメニューからのコンテンツには見向きもせず、真っ先に「募集要項」を確認したことです。

後から理由を聞いてみると、「給与や勤務地、募集職種などが端的にすぐわかるから」という理由でした。たしかに、最短で事実だけを知りたい場合、メニューの順番に沿って見ていくより、募集要項を見るのが確実です。

制作者としては、サイトのトップページから順番に下層のページも読み進めてくれると思いがちです。

しかし、給与や勤務地といった、自分が働く上での条件がそもそも合わない会社なのであれば、それ以降じっくり見ても時間の無駄なわけです。

求職者の心理を考えれば当然の行動ですが、企業が作る採用サイトでは、募集要項が奥深くに配置されており、たどり着きにくいサイトも多いです。すぐに見てもらえるように、トップページのファーストビューには募集要項へのボタンリンクも配置しておき、グローバルナビゲーションにも「募集要項」のメニューを配置するのが望ましいでしょう。

キラキラした写真よりリアルに働く写真が見たい(モデルじゃね?)

優秀な人材を確保するために、採用サイトに力を入れる企業は多いです。掲載する写真も素材集から利用するのではなく、プロのフォトグラファーに社員を撮影してもらっているところも多いでしょう。

インターン生に見てもらった採用サイトでも、写真が多く配置されていたのですが、複数のページで同じ社員が登場し、まるでファッション雑誌かのようにキメキメの写真が多かったことで、「これ実際の社員なのかな?」「モデルじゃないのかな?」といった発言がありました。

求職者が知りたいのは、実際にどんな人がいるのか、そしてその人達がオフィスで働いたり、社員同士で仕事をしているようなシーンが見たいのです。

もちろん、豪華なオフィスやキラキラした社員のカッコいい写真を見ることで、「こんな職場で働いてみたい」と思う気持ちもあるでしょう。

しかし、過剰に作り込まれたファンタジーのような採用サイトでは、自分がその職場で働き、先輩社員と仕事をしているイメージはつきにくいのではないでしょうか。

これは写真だけではなく、まるで広告のように情緒的なキャッチコピーや、酔いそうなくらいやたらと動くアニメーションも同様で、作り込み過ぎてリアルに感じられなくなってしまうと本末転倒です。

求職者としても、採用サイトは企業が伝えたい情報が「盛られている」という意識は持っています。だからこそ、自分たちを飾り過ぎずに「リアルに働く姿」を見せるべきだと実感しました。

先輩インタビューは年が近い人を確認(入社年度が大事)

採用サイトでは、先輩社員を複数登場させて、入社のきっかけや仕事のやりがいに答えてもらう「社員インタビュー」を、コンテンツとして用意しているところも多いでしょう。

インターン生の行動を見ていると、先輩社員のインタビューやオフィスで働く写真など、年齢が近い社員がとくに気になっていることがわかりました。

後から聞いてみると、「自分が入社して2~3年後に、どんな仕事を任せて貰えそうか知りたい」という理由でした。ベテラン社員の華々しい実績より、若手の活躍や働き方に興味があるのです。

入社して数年経っても、仕事内容や役職に変化がない人が多いのであれば、「若手を抜擢しない保守的な会社なのかな」と思われる可能性もあります。

そのため、「社員インタビュー」では社員の入社年度も明確にして、キャリアの変遷も紹介した方がいいでしょう。

エース社員の苦境を乗り越えた的な武勇伝だけではなく、「入社して2~3年目の社員はどのような働き方をしているのか?」「キャリアプランの歩み方は?」「何時頃に帰れているのか?」「この職種に必要な適性は何か?」のように、自分が入社した後の近い将来をイメージしてもらう必要があるのではないでしょうか。

一日のスケジュールはあまり信用してない(実際どうなの?)

「社員インタビュー」にある「1日のスケジュール」は、複数のページを開いてとくによく見ていたコンテンツでした。

しかし、あまりに理想的なスケジュールばかりだったため、「本当にこんな早く帰れるのかな?」「ずいぶんとゆったりした予定だな」と、信ぴょう性を疑うような発言もありました。

もちろん企業側としては、激務で残業続きのような「1日のスケジュール」を掲載することは難しいでしょう。そのことで、求職者に不安を抱かせてしまっては、応募をしてくれる人が減ってしまいます。

とはいえ、可能な範囲で現実的な働き方を紹介しておかないと、それこそ入社後に幻滅されて、早期退職されてしまう可能性もあります。そう考えると、平均的で理想的なスケジュールは掲載しつつも、一方で繁忙期におけるスケジュールなども掲載されていると、良いところばかりを見せようとしていないと受け取ってくれるかもしれません。(見たことないですが)

最近では、会社の取り組みとしてTwitterを運用するところも増えていますが、これは社員の働き方や価値観を伝える上で、とても効果はあると思います。私たちベイジでも、個人でTwitterを利用しているメンバーが多くいますが、今年になって入社してくれた社員10名ほどに、「採用サイト以外で参考になった媒体はあるか?」と聞いたところ、ほぼ全員がTwitterを参考にしていました。

企業からの一方的な想いではなく、「働く私にとってどんなメリットがあるのか?」が知りたい

インターン生の行動や発言は、理由を聞いてみればその通りだと納得するものばかりです。しかし、多くの採用サイトでは、「求職者が知りたいこと」ではなく「自分たちが言いたいこと」になっていないでしょうか?

企業としては、会社の理念や自社の製品、サービスへの想いを熱く伝えたいと思うものの、求職者側がまず知りたい情報は、入社後の待遇やキャリア、社風や社内の雰囲気など、直接的に自分に影響する部分です。

もちろん、就職活動におけるプロセスは、情報収集段階から選考段階、最終判断をする段階と分かれており、プロセスごとに求めるコンテンツも変わってきます。プロセスによって、上記にあげた企業理念や製品やサービスの紹介も熟読するでしょう。

しかし、「求職者は何を知りたいのか」を理解してコンテンツを設計し、優先順位を考えることと、「伝えたい情報を、伝えたい順番で配置しただけ」とでは大きな違いがあります。

今回、インターン生に採用サイトを操作してもらった時間は、実質30分程度でした。そんな短時間でも、ターゲットの生の声を聞くことにより、気づかされることは非常に多くあるのです。

任天堂の宮本さんがやっていた「肩ごしの視線」

ここまでご紹介したのは、採用サイトにおける求職者とのギャップについての話しですが、モノ作りにおいては、実際の利用者に触ってもらい、自分たちの考えと利用者とのギャップを知る機会が重要だと思うのです。

私が好きなエピソードで、任天堂の宮本さんがゲームデザイナーとして評価される前からやっていた「宮本さんの肩越しの視線」があります。

マリオやゼルダの伝説シリーズの生みの親で、世界的に有名なゲームプロデューサーですが、まだ無名の時代から、開発中のゲームを何も知らない人にいきなりやらせてみて、その様子を後ろから眺めていたらしいです。

前提知識がない人にゲームをさせることで、「あ、ここがわからないのか」「あそこに仕込んだ仕掛けは、とうとう気づかれずに先に行ってしまった」などの気づきを得て、開発中のゲームを見直していたということです。

その道のプロになっていくほど、「わからない方が悪い」という偏った考え方にもなりがちです。しかし、宮本さんは「お客さんがわからなかったものは自分が間違っている」というところから入っているのです。

この視点は、モノ作りをする上では根底に持っておきたいところです。

「宮本さんの肩越しの視線」のエピソードは、『ほぼ日刊イトイ新聞』で読めますので、興味がある方は以下よりご覧ください。

大事なのは利用者を観察すること

ここまでご紹介したような、利用者の行動や発言を元に調査をする手法は、「ユーザーテスト」「ユーザーインタビュー」「アンケート」など、様々な方法がすでに確立されています。

制作工程の中には、このようなリサーチ工程を組み込んでおくと理想的でしょう。ただ、専門的なリサーチ手法を知らなくても、実際のターゲットや、ターゲットに近い人に聞くこと自体は、その気があればできるはずです。

採用サイトであれば、学生や転職を検討している人に聞いてみる、ゲームであれば、何も知らない人にまずゲームをしてもらう、製品やサービスであれば、課題を解決できそうか聞いてみる。

そして徹底的に利用者の行動や発言を観察することで、「利用者は何を求めているのか?」を正しく理解することが、品質を高める上では非常に重要なのではないでしょうか。

冒頭に書いたように、「いま制作しているもの(サイトやサービス等)って利用者に向けて作られてる?」って不安を感じているのであれば、「想像で進めずに聞いてみる」といいのではないかなと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。 Twitterもやっていますので、リプで感想などいただけると嬉しいです! https://twitter.com/imnstkhs