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新変異株EG.5「エリス」

現在世界的に再流行している新型コロナウイルスの変異株はオミクロン株の亜種であるEG.5、通称エリスという変異株である。既に新型コロナウイルスは流行の度に既存の免疫を回避する変異を繰り返し、再拡大を繰り返すフェイズに入っていると言えるだろう。

この変異株の性質についてはまだ十分な事は分かっていない。WHOの発表資料などは下記でみることができる。

https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/09082023eg.5_ire_final.pdf?sfvrsn=2aa2daee_1

EG.5変異株の特徴的な変異はF456Lというものらしい。以前から新型コロナウイルスのSタンパク質変異については何度か説明しているが、この450番台の変異は免疫回避に非常に重要な意味を持つ。特に抗体の結合だけでなく、細胞性免疫を回避する可能性が示されていることが重要だ。この周辺の変異を繰り返して免疫系による認識を延々と回避し続けているのだ。今回もその点は同様であろう。

症状については短期的には今までのオミクロン株と大差ないというのが現時点での評価らしい。一方で、神経系感染や神経系症状については調べた限りまだ情報が出ていない。神経系症状は長期的なものなので、情報が出るにはまだ時間が掛かると思われる。個人的には神経系への影響が無くなれば脅威は去ったと考えることが出来るのだが、まだ安心できる状況ではないだろう。

また、免疫回避について話題に出たので復習しておくが、新型コロナウイルスの排除に大事なのは抗体に依存した液性免疫だけでなく、むしろT細胞に依存した細胞性免疫である。この細胞性免疫・T細胞による直接的な攻撃がウイルス感染に対しては重要な反応であり、それを回避する変異がウイルスから見れば重要なのだ。最近の記事でも、細胞性免疫の認識に関わるHLAの個人差が新型コロナウイルス感染症の罹りやすさに関係するというものがあった。

この手の論文は以前から出ているので特に新しい話でもないのだが、細胞性免疫の重要性を理解してほしい。逆に言えばワクチンの効果について抗体だけで議論するのは有意義ではない。

新型コロナウイルスを含めてRNAウイルスについては変異の速度が極めて速い。今まで、RNAウイルスに対してワクチンで有効な対策が可能だったケースなど殆ど無かったのだ。今回の新型コロナウイルスについては核酸ワクチンを使って、異常な強さの細胞性免疫を誘導し、無理矢理効果がある事にして対応出来たかのような雰囲気を作っているが、現実的にはウイルスの変異速度に敗北していると言っても過言ではない。このEG.5変異株に対しても、新しいタイプの核酸ワクチンが開発されると思うが、果たして次の変異までに対応が間に合うだろうか。同時に、それを理解出来ない科学者ばかりではない中で、製薬企業もこのイタチごっこを続けるだろうか。経営者は利益が出る限り続けるかもしれないが、研究部門は反発を始めるかもしれない。科学的に起こっている事を正しく把握し、どの様な情報からどの様な解釈をすればいいのか冷静に思考しよう。

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