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【断髪小説】髪切り探偵(6)S社の秘密とS社の断髪商品検証会

割引あり

今日もいつもと変わらず朝がやってきた。
僕はS社へ本日一人で乗り込もうと考えている。だけど、そんな事をハルカ君には知られたくない。
だから、いつもと同じ1日を過ごす。
ハルカ君がいつも通りに紅茶を僕のカップへ入れてくれる。
それを本を片手に嗜む。
そんな何気ない日常を今日も過ごしている。

「先生、その本お好きですね?短編小説集?ですか?いつも読まれてますよね」

「あぁ、そうだね。この本は『断髪の記憶』っていう短編の小説集だよ。
バリカンしか使わない美容師、失恋、剃髪の刻(とき)とか、結構面白い小説が揃っているんだ。特に僕が好きなのは・・・」
ハルカ君の呆れたっていう視線を感じて僕は話すのを途中でやめた。

「そうなんですね。私には断髪小説のよさはちょっとよくわからないのですが、お好きなんですね」

「まぁな」

「ところで先生、今日は午後から外出が入ってましたが、どちらへ行かれるつもりですか?仕事ですか?」

「あぁ、今日は仕事でちょっとクライアントに会いに行く予定が入ってたかな」

「そうですか。一人で?行かれるんですか?」

「あぁ」
勘のいい助手だ。いつもそうだ。僕が何か新しい事を始めたり、ちょっとでも違う動きをしたことに対して見逃さずに、そして何も言わずに一言添えてくる。
いつもなら、気が利く助手。ぐらいにしか思っていないのだが、今日はどうしても一人でS社へ行かなくてはいけない。こういう時には厄介な相手になってしまう。

「お気をつけて行ってきてください」

「あぁ、ありがとう」

他愛もない会話をしながらも一息ついたところで僕は事務所を後にした。

S社へ向かう途中に、気のせいか後ろから尾行されているような気配を何度か感じた。だが、振り向いてもそこには人はいなかった。
エスには近づくなという三浦 未来(みうら みらい)や、その仲間が尾行しているのか?
それとも考えすぎか。

そうこう考えていると、S社の前に着いた。
S社の須藤に会いたいと受付の人に伝えると、アポなしだったが、なぜかすんなりと通してくれた。
受付をしている最中も後ろで人の気配を感じた。振り向くと、人が動いたのが一瞬見えた。
どうやら勘違いでは無さそうだけど。
そう思うと、一層警戒心を強めた。

エレベーターでS社のフロアに入ると、異様な形をした美容ハサミやバリカン、手動バリカンやコーム、ケープまでが飾られていた。
噂には聞いていたが、珍しい美容道具を扱っている会社のようだ。

「時坂さんですか?」
そう話しかけてきたのは、記憶で見た須藤だった。

「私の事、ご存知で?」

「えぇ、存じ上げております。エスのメンバーから色々と聞いておりますので。
幹部連中はあなたを警戒されているようですが、私のような人間は過去には興味はないのですよ。
例の件は、さぞ辛かったでしょう」
思ったより須藤は友好的だった。エスにも色々な人間がいるのか?
僕は今日が決戦の日と思い、意気込んでいたが、拍子抜けしてしまった。
おかげでニュートあるでいられる。

「単刀直入に伺います。エスとは何なんですか?」

「あぁ、そうですよね。エスって何なんだろう?っていうのは、一番に思う疑問ですよね」
手を顎に当てて、そう須藤は言い、続けてさらに言った。

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