世界はそのへんに 00「ルポ、はじめます」
2024年、3月。
一年ぶりの山手線。地面の線の言う通りに、スマホをいじりながら待つ人たち。車掌のアナウンス。大きな水槽に放たれたメダカのように車両から溢れ出て、そして押し込まれていく人々。ドアが閉まる寸前で乗り込む集団の外国人たち。そこに静寂はない。いくつかの異なる言語が飛び交う。いろんな匂いがする。私はまだ、ヨーロッパのどこかの街にいるのかもしれないと錯覚した。
一年前の東京は、もういなくなっていた。
でも、私は高揚した。
ここには世界が増えているんだと思った。
増えているだけじゃない。見えてなかっただけの世界もあるはずだと、そのとき思った。
今まで思わなかったはずの、「なぜ?」なこと。
降りたことのない駅。近所の古びた居酒屋。行ったことのない国からきた旅人。ここには知らない世界がまだまだある。
わたしの近くの大きな世界。転がっていたけど気づくことのなかった小さな世界。海を渡り、ちょっとだけ身軽になった私が、見つけていく話。
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