視線2

No.11|育児・教育|視線の心理学#1:目が合わないことはイケないことですか?

「目が合わない」という発言の意図が変わってきている

私は保育園や学校(小中学校)に教育相談や講演会などに行く機会が多く、先生方から相談事を聞くことがあります。その中で多く寄せられる相談事の1つに「目が合わない」というものがあります。

多くの先生方は目が合わないことそのものを相談事にしてはいないのですが、中には「目が合わないことがイケない」と思い込んでいる方もいらっしゃいます。私も人と目を合わせることは得意ではないので、そのような方が何を問題としているのかを丁寧に聞き、誤解が解ければいいないつも思っています。

一昔であれば、目が合わないことを心配している先生方の多くは、恥ずかしがり屋の子を想定していたと思うのですが、最近では別のことを想定されている場合が多いように感じます。

この「目が合わないからイケない」とおっしゃてる方のほとんどは、その子が自閉スペクトラム障害であるということを前提にしていることがわかります。しかし、「目が合わないことで保育や教育に支障が出ていますか?」と尋ねると、「目を見て話すのはコミュニケーションの基礎ですよね」とか「指示を出しても目を見ていないから伝わらないんです」という回答があります。目が合うということはそんなに万能なことなんでしょうか?指示が伝わらないのは目が合わないことが原因なのでしょうか?

本当にそうなんでしょうか・・?

私の立場は、目が合うことがコミュニケーションの全てではないと思っていますし、目が合わないコミュニケーションがあっても良いと思っています。しかし、私個人の立場はおいたとして、この「目が合う」という言説には多くの誤解があることも知っておかなければいけません。まずは、科学的な観点から「目が合う・合わない」について検討した研究の結果をみてみましょう。

「目が合う」の科学的研究

下のスライド「発達と目が合うという現象」を見てみましょう(発達障害の視線研究で世界的な研究者である千住先生の研究結果の一部を編集したものです)。正面の顔写真、正面を顔写真を上下反転させた写真、横顔の顔写真、横顔の顔写真を上下反転させた写真の4種類を提示した時に、目が合うか合わないかということを自閉症児と定型発達児で比較したというシンプルな研究です。目が合うか合わないかというのは「視線追尾装置」という機材を用いて、瞳孔がどこを向いているかという状態を計測して結果を出しています。

画像1

まず、最初に押さえておかなければいけないのは、真正面の顔写真を提示した時には、自閉症児も目が合うという結果です。正面の顔写真であれば上下反転していても目が合うという結果のメカニズムにはさまざまな仮説があるのですが、とても面白い結果だと私は思いました。逆さに顔を見るという機会はなかなかないですが、正面であれば目は合うのです!ただ、横顔になると目は合いにくいという結果も同時に示されていることも押さえておかなければいけません。

私は、どうしも目を合わせたいなら、逆立ちしてでも自分の正面の顔を子どもの目の高さに合わせて提示することをお勧めしますが、そんなことは意味がないと思っています。なぜかというと「目が合わなくたっていいじゃないですか」という思いがあるからです。

目が合わないことで自閉スペクトラム症であることを想定されて、その先のこと(支援)のことを考えていただけるなら視線のアセスメントは有効な意味を持ちますが、「目を見て話すのはコミュニケーションの基礎」というだけで子どものコミュニケーションを否定して理解するのは望ましい考えだとは思いません。目が合わなくても、私たちにはもっと豊かな方法でコミュニケーションができるはずです。

今日のポイント

自閉症児も正面であれば目が合いますが、問題は目が合う合わないということではありません。目が合わない背景に合わせた支援を考えたり、他の方法でコミュニケーションをとることを心がけたいものです。

私は人と目を合わせて話すのが苦手なので、「目が合わないのはイケない」と言われてしまうとプレッシャーを感じてしまします。また、怒られている時に「人の目を見て話を聞きなさい」と言われても、大人の怒っている顔をまともに見ている人なんているんだろうか?と子どもの時は思っていました。高校生になって先生に叱られている時に顔を見ていたら「反抗的な態度で生意気」と言われ、視線の難しさを感じます。特に私の場合は、乱視が強く目も小さいので、私の視線は好印象には映らないので一際困難さを極めます。

この「視線の心理」のシリーズでは、発達障害の視線についてもう少し紹介したいと思います(視線追尾装置を用いた支援の方法についてもご紹介します)。また、社交不安や対人恐怖症に関する視線についても実例を交えて紹介していきます。

心理学の知識を楽しくご紹介できるように、コツコツと記事を積み上げられるように継続的にしていきたいと思います。よろしくお願いいたします。