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Step 1-3:注意について知る|方向性ネットワーク

1. どのような向きで注意を向けるか

 Step1-2でご紹介した「注意の実行ネットワーク」のところでは、意図的に注意を向ける働きと自動的に注意が向いてしまう働きの2つについて説明しました。ADHDの症状がある場合は、自動的に注意が向いてしまう働きが強くなるため、意図的な注意の働きを強めることがポイントとなります。これらの実行ネットワークの状態を改善するためには、方向性ネットワークについても理解しておくといいでしょう。
 人が何かに注意を向ける時は、1つのものに注意を向けている状態をイメージしやすいですが、多くのことに満遍なく注意を向けることもあります。また、注意を別のものに向ける際には「注意の切り替え」が必要になります。このように、注意はいろんな方向に存在する対象に焦点をあてる働きがあり、これを「方向性」と呼んでいます。注意の方向性はこれから説明するように、意図的であるか自動的であるかによって、日常生活の作業の仕方や心理状態に大きな違いをもたらします。

2. 選択的注意:1つのものに注意をむける働き

 注意の方向性に関する働きで一番イメージしやすいのは、選択的注意だと思います。1つのものに注意を向ける注意の働きは、作業をする際には必要な働きです。しかし、それは意図的に働く場合はいいのですが、自動的に働いてしまうと厄介な状態になってしまうこともあります。たとえば、新しい服の首周りの感覚が気になって仕方がないという「感覚過敏」の状態は、自動的な選択的注意の働きだとも言えます。心配ごとに没頭してしまうという「自己注目」の状態も同様に自動的な選択的注意の働きですし、興味のあることに注意が向いてしまうとそこことにのめり込んでしまって他のことに意識が向かないという「過集中」のも同じ働きです。これらに共通しているのは、意識しなくても自動的に注意が向いてしまう状態であったり、そのことから注意を逸らせない状態だということです。

選択的注意における意図的な注意と自動的な注意

 それでは、同じ選択的注意でも意図的な場合は、どのような状態なのかを確認してみたいと思います。まず、意図的な選択的注意の場合は、興味がある/なしに関わらず、注意を向けたいものに注意を向けられているという状態であるということです。そしてもう一つの特徴は、周りに騒音などがあっても作業などに集中し続けることができるという状態であることです。
 ここで気をつけたいことは、興味があるものは誰でも注意が向けやすいので意図的な選択的注意のように判断してしまいがちですが、注意を別のものに移せない(やめられない)という過集中になっている場合は、意図的ではなくなってしまっている(コントロールできなくなっている)ことに気をつける必要があります。つまり、この状態は自動的な選択的注意だと言えます(この背景には Steo1-1 の覚醒ネットワークも関係してきます)。ゲームなどには集中できる(けれど止められない)子どもの状態を想像してみると理解がしやすいかもしれません。

3. 転換的注意:注意の向きを変える働き

 忙しく働かなければいけない現代社会では、あれこれと集中する対象を切り替えながら作業をすることが求められます。この「切り替え」は作業と作業の間の切り替えだけではなく、気分の切り替えにも影響する注意の働きです。たとえば、仕事の合間に休憩をしようと思っても、なかなか休憩モードになれないのは意図的な転換的注意の働きが弱く、仕事の内容に自動的な選択的注意が強く働いている状態になっていることが原因かもしれません。他にも、自動的な転換的注意の特徴としては「転動性」と呼ばれる「気の散りやすさ」があげられます。周りの騒音、自分の身体感覚(かゆみなど)、考え事など、本来自分が集中しなければいけないことに集中できないのは、能動的に選択的注意が働いていないとも言えますし、自動的な転換的注意(特定の物事の場合は選択的注意)が働きやすくなっている状態と言えます。

転換的注意における意図的な注意と自動的な注意

 意図的な転換的注意の働きが発揮される場面としては、楽しい活動から苦手な活動に意識を切り替える時や、自分の内面に集中しいている状態(自己注目)から目の前の作業に意識を切り替える時です。共通しているのは、注意が自動的に働きやすいことから意図的に注意を移動させて働かせることです。この働きは「マインドフルネス」のエクササイズにおいて非常に重要な働きとなります。

4. 分割的注意:複数のもに同時に注意を向ける働き

 聖徳太子は10人の話を同時に聞き分けられたと言われています。さすが、豊聡耳厩戸皇子(とよさとのみみうまやどのみこ)という名前だけあるという感じですが、耳が良い訳ではありません。注意の働きから考えると「能動的な分割的注意」がこれらの伝説には関連しています。分割的注意は同時に多数の物事に注意を向ける働きを意味しています。聖徳太子は意図的にこれらの状態をコントロールしているのでいいのですが、自動的に何もかも耳に入ってくる状態だったとしたら頭が混乱してしまうと思います。
 会議や学校の授業では人の話を見聞きしながらメモを取ったりしますが、このような活動には分割的注意が求められます。実際に意味を記憶しながら作業をしているので、ワーキングメモリと呼ばれるような高次な認知の働きで説明されることも多いですが、その土台にはこの分割的な注意がないと成立しない働きでもあります。

分割的注意における意図的な注意と自動的な注意

 複数の物事(刺激)の中に、自分の興味関心があるものが含まれていたら、どんな注意の働きになるか想像してみましょう。きっと、その興味関心のあるものに注意が引き寄せられてしまい(自動的な選択的注意)、均等に注意を分割することが難しくなると思います。より具体的にもう少し考えてみましょう。心配事が浮かぶとそのことに没頭してしまいますが、「心配事を軽く浮かばせながらも仕事に打ち込む」ということができれば、それは分割的注意を意図的に働かせていることになります。実はそれこそが「マインドフルネス」の状態に近い状態でもあります。

ADHDは「注意」という単語が入った唯一の症状です。そのため、Step 1 では3つのパートに分けて注意の働きについて情報を整理してきました。この注意の働きを理解しておくと、ADHDの特徴だけではなく、この note のもう1つのテーマでもあるマインドフルネスについても理解を深められますので、じっくりと理解することをお勧めします。また、注意の働きにやその分類にはまだまだ様々なものがありますので、情報を整理してみるとADHDの特徴をより理解できると思います。

◆ 注意の「方向性」は意図的か自動的かによって症状(状態)が異なる

◆ ADHDの注意の症状は自動的な方向性注意が働きやすい(たとえば、興味関心があるものに惹きつけられて、そこから注意を逸らせないなど)

◆  注意の方向性を意図的に働かせることはマインドフルネスにつながる

この記事のポイント


心理学の知識を楽しくご紹介できるように、コツコツと記事を積み上げられるように継続的にしていきたいと思います。よろしくお願いいたします。