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云えなかった想いは何処にいくのだろう


花びらが大半散り落ち
葉桜になってしまった木を見上げて
春の終わりを感じたあの日

私は初めて喪服に袖を通した

久しぶりに顔を合わせた親戚が
近状報告をし合う中
ただ一人、お爺ちゃんだけは
遠くを見つめていた


大好きなお婆ちゃんが亡くなった


84歳という年齢だったから
いつかはこの日が来ると
覚悟していたけれど
それはあまりにも突然だった

愛想が良くて
誰とでもすぐ仲良くなる
おしゃべりなお婆ちゃんだったから
親戚も沢山の人達が集まっていた

そんなお婆ちゃんとは正反対で
いつも無口で無愛想だったお爺ちゃん
集まった人とも言葉を交わさなかった

そんな相変わらずな姿を見て
喪主を務められないと思った母親は                       最後の挨拶は行わないで欲しいと
葬儀の打ち合わせをしていた

お婆ちゃんの遺影写真を前に
親戚が座っていく

一番前で並ぶ
車椅子に乗ったおじいちゃんの背中は
いつもより背中が丸くなっていた

私が小さい頃から
お爺ちゃんとお婆ちゃんは
仲が良かった

家に遊びに行くと
小さなテーブルを二人で囲んで
花札をやっていたり

お婆ちゃんが元気がない時は
お爺ちゃんがお婆ちゃんの好きな食べ物を
買いに行ったり

沢山喧嘩もしていたけれど
私が家に遊びに行った時は

「あの人に、嬉しい話をいっぱいしてあげてね。」

とお爺ちゃん、お婆ちゃんそれぞれに     耳打ちをされていた


そんな二人を思い出しながら
親族のすすり泣く声が響く式の中で
お爺ちゃんの背中を見つめていた


お葬式も終わり、タクシーで家に帰る途中
お爺ちゃんが初めて口を開いた

「お葬式って最後の挨拶あると思ってたけど、無かったんだね。言うこと考えていたのになぁ…。」

と窓の外を眺めながら
勘違いだったと少し笑った

その言葉に皆んな驚いた

お爺ちゃんは無口な人だったから
人前で話すのはきっと嫌だろうなと
誰もが思っていたからだった

隣で静かに泣き出す母親と
だんだん離れていく式場を見つめる
お爺ちゃんを乗せて
タクシーはお婆ちゃんとお爺ちゃんが
暮らしていた家へと向かった


無口だったお爺ちゃんがよく話すようになった


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「夜眠ろうとすると、お婆ちゃんがいつも寂しいって泣いてくるんだ。」

お婆ちゃんが亡くなってから
日に日に体調が悪くなる
お爺ちゃんの様子を見にいくと
いつも、そう話していた

お酒とおつまみが大好きで
いつも丸々としていたお爺ちゃん
だったけれど
食事もあまり取らなくなっていて
見るたびに体が小さくなっていた

「そうか、お爺ちゃんもちゃんとご飯も食べないとね。心配されちゃうよ〜。」

私は、ベットの上にいたお爺ちゃんの
隣に座って頷きながら返事をした

「うん。お母さんがパン焼いてくれたよ。美味しかった。」

と仕事終わりに
面倒を見ていた母親との話を
楽しそうに話してくれた

「昔はね、海外によく仕事に行っていたよ。」

孫の私にも昔から
無愛想で無口だったお爺ちゃんが
若い頃の話や
最近あった母親とのエピソードなど
会いにいく度に色んな話をしてくれた

そしてお婆ちゃんが亡くなって
1年足らず、私達に看取られながら
お爺ちゃんは息を引き取った


二人の人生は思っていたよりも苦しくてそして美しかった


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人は亡くなってから
その人がどんな人だったのかを知っていくと
よく耳にするけれど
それは、本当だと思う

母親と一緒に
2人のお参りに向かっていた時のこと

私が小さい頃から
お婆ちゃんは1日に3回必ず
お祈りをする人だった

白い服を着て、数珠を両手に持ちながら
よく分からない言葉を唱える
お婆ちゃんの姿をいつも隣で見ていた

「なんで、お婆ちゃんって毎日欠かさず
お祈りしていたんだろうね…。」

ふとそのことを思い出した私が
母親に尋ねる

「あぁ…。家族がずっと一緒にいるためだよ。」

首を傾げる私を見て、
隣で歩く母親の歩幅が少しゆっくりになった

「昔ね、お爺ちゃんは家族を養うために
違う県に働きに行ってたの。遠く離れた私達に仕送りを送るために、毎日働き詰めだったって。
でもある日、仕送りがパタッと無くなったの。お爺ちゃんからの連絡も一切なく、遠くの県へお爺ちゃんを探しにいく
お金も無くてね。連絡の手段も無く、知り合いも多くなかったから
お婆ちゃんはただ不安の中、待っているだけだった。」


初めて聞いた話に、私は驚きを隠せず
思わず立ち止まってしまった

母親がそっと私の背中に手を添えて
また話し出す

「その時に出会ったのがお祈りだったの。お爺ちゃんが戻ってくるようにって、家族を捨てませんように毎日唱えれば、いつか戻ってくると知り合いに聞いて、その日から毎日お祈りをするようになったんだよ。

そして、お爺ちゃんが見つかったの。

昼間にパチンコ打ってる姿を知り合いが見つけたの。お爺ちゃんの姿は、昔と比べて覇気が無くなっていて知り合いも驚いたって連絡があってね。お婆ちゃんは、心配と怒りで一杯になりながらお爺ちゃんに戻ってきて欲しいと伝えたんだよ。」

思い返してみれば、お婆ちゃんは
いつもお爺ちゃんに対して厳しかった

初めて給料をもらったら
いつも育ててくれた
お婆ちゃんとお爺ちゃんに
お金を渡そうと決めていた私は

高校一年の時、初めて働いたバイトで
給与を貰ったときに千円を握りしめて
2人に渡しに行った

とても喜んでくれた2人だったけれど
お爺ちゃんにはお金を絶対渡さないで
と強く言われて、
お婆ちゃんが引き出しの中へ
しまっていた

あの時は、お婆ちゃんは厳しい人だなと
思っていたけれど
きっと心のどこかに
当時の辛さを抱えていて
忘れられないんだろうなと
母親の話を聞いて思った


「お婆ちゃん、良く耐えたね。
本当に凄い。もし、今の私がそんなことされたら絶対に別れちゃう!!」

少し口を尖らせて、信じられないと
首を振っていた私を見て
母親が少し微笑んだ

「お婆ちゃんは、自分を愛してくれる人は、お爺ちゃんだけだって心の底から思ってたよ!」

そう言って、
お婆ちゃんの幼い話をしてくれた

生まれつき右足が少し短くて
早く歩けなかったお婆ちゃんは
周りから除け者扱いを受けていた

お婆ちゃんが子供だった頃
日本では戦争で空襲があり
皆んな身を守るために
防空壕に避難をしていた

その時、足の長さが違うことで
家族からも除け者にされていた
お婆ちゃんは、たった一人
防空壕には入れてもらえなかったらしい

周りから見放されたように一人
孤独に耐え続ける日々で
お婆ちゃんは、お爺ちゃんと出会った

お婆ちゃんに一目惚れして
猛アタックをし続けるお爺ちゃんに
お婆ちゃんは、心から嬉しかったと思う

それから結婚をし、二人は家族となった


「だからお婆ちゃんとお爺ちゃんは
お互いが本当に大切な存在だったんだよ。沢山喧嘩もしていたけどね(笑)」

時折、微笑みながら
お爺ちゃんとお婆ちゃんの若い頃の話を
してくれた

ゆっくりと歩きながら
お寺に着いた私たちは
お爺ちゃんとお婆ちゃんの
お骨の前に座った

小さな瓶に書かれた
二人の名前を見つめながら
お爺ちゃんとお婆ちゃんの生い立ちを
思い出していた


「ねぇ、お婆ちゃんのお葬式で
お爺ちゃんは何を話そうと思ったんだろうね。」


目を瞑って手を合わせながら
私は小さく呟いた

黙ったままの母親の方を
ゆっくりと目を開けて確認すると
閉じた目から、涙が溢れて
唇が震えていた

母親の涙を見て、
心がぎゅっと痛くなった私は
しばらく黙った後
深く息を吸い込んで

「私がお爺ちゃんの気持ち、歌にするね。
お爺ちゃんの全てが分かるわけじゃないけど、どこにも出せなかった想いを残してあげたい。」

と突拍子もない発言をした

お爺ちゃんの気持ちを歌にする
自信なんてこれっぽっちも無かったけれど
大切な人が亡くなって痛みを抱える母親と
お爺ちゃんとお婆ちゃんの生い立ちを
知った時の気持ち
全てを救ってあげたかった


母親は、ピタッと涙を止めて
驚いた顔で私を見つめていた


それからしばらく、二人のお骨を眺め
私達は、お寺を出た

「ねぇ!さっき歌にしてくれるって言った話、本当?」

驚いた口調で、母親が私の手を掴んだ

笑顔で頷く私に
母親は嬉しそうに笑い返した

喜んで足取りが早くなった母親は
私の少し前を歩き始めた

さっきよりも少し伸びた母親の背中を
見つめながら、歌にすると言ったことを
実現させようとその時、自分と約束をした



「透明な約束」


先日、完成したCDを持って
お爺ちゃんとお婆ちゃんのお参りに
行きました。

お爺ちゃんとお婆ちゃんの生い立ちを
聞かなければ、生まれなかった歌を
本人達に聴いて欲しくて
お寺で小さく流しました。

あの時は言えなかった想いは
どこにいくのだろうと何度も
後悔をしていたはずのお爺ちゃんの
気持ちを考えながら
制作していくのは辛かったけれど
私の中でまた一つ
心から大切だと言える曲を
大好きなsecondrateで作ることができ
全てに感謝しています。

気持ちは、色も形もなく
目に見えない物ですが

皆さんにとっても
大切な人を思う気持ちを
この歌で形にできていれば
嬉しいと心の底から思います。

大切な人を思い出しながら
聴いてください。


・各種配信サイトへ


・3rd mini album「いまさら、君に」


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