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【エッセイ風小説?】オタク青年が語るギャル論

僕は学生でいろんなところでバイトをしたのだが、大体そこの大人の人に

「君、オタクでしょ?」

「アニメとか好きでしょ?」

とか言われるんだけど、太宰や三島、ダブル村上を読んでた文学青年きどりの僕は、否定も肯定もすることなく、ただ顔に曖昧な表情を浮かべる。相手側は僕がそう言われ怒ったのか、あるいはオタクを自認したくないと考えたのか、オタクの複雑な感情に配慮して話題は変更されるか、ご機嫌取りにオタクのリトマス試験紙として、その時世間で話題になったアニメの批評を求めてくる。例えば、今でいうと鬼滅とか推しの子とか。オタクにアニメの話をふればきっと機嫌をなおし流暢に話すのだろうと考えているらしかった。

実際、僕はアニメは見ていたが、それと同じくらいに実写映画を見たし、小説も色んなジャンルに手を出した。確かに、オタクといえばオタクだが、彼らが思い浮かべるオタクではなかったかもしれない。無邪気な偏見をぶつけられることに関しては僕は何も反感を感じなかった。それどころか、驚きをもって受け止めた。僕は世間知らずなため、大人たちがこうも単純な偏見をもって人と接することに関して新鮮な驚きを感じたのだ。祖父母がいる田舎の老人と会話しているのとたいして変わらないと感じた。世の中の人間はもっと頭がよくて、理性的だとかいかぶっていた。

人を見た目で判断するなと、昔からよく言われるが、現代では人は見た目で判断するから、見た目に気を付けましょうと言われる。それは真実かもしれないが、もしみんなが見た目に気を付けた場合、人は何でその人を判断するのだろうか?その時の僕は大人たちを観察して思ったのだが、彼らは速い判断=賢いと考えているらしかった。だから、見た目に飛び付くんだと。

こういった勘違いは情報過多の時代にはすこぶる有効に見える。人気インフルエンサーが時事問題に意見を述べたがるのもこの理由かもしれない。一方で、デジタルデトックスなんて言葉があるように、その毒に気づいている人もいるんじゃないか?

では僕が何で人を判断しているかというと、判断をしないことにしている。判断が頭に浮かび上がっても、常に保留し、言葉や態度に出さないようにしている。そのせいかよく冷たい人間だと思われている。あとボンクラにも思われてるらしい。そのせいか、バイトになれ、仕事をテキパキとこなしていると驚かれるのであった。僕は人だけでなくアニメや小説も最後まで判断を保留している。だが、ひとつだけ判断があって、それは続きを見たいか、知りたいかで、これは人にも適用されて、その人と話したいか、一緒にいたいかだ。残念ながら、創作物には最後があるが、人の最後は死なので、判断をする機会は非常に限られている。だから僕はほとんど判断せずに生きている。ボンクラに思われても仕方がないかもしれない。

さて、オタクと同じ様に、見た目で判断される人種がいる。それはギャルだ。派手なメイクとファッションに身を包み偏見を一身に受け止める少数民族たちは、速い判断を自ら欲求しているかのように見える。ネットの片隅で時折、ギャルはオタクに優しい論が語られることがある。僕は彼女らと親しくなった経験はないが、何となく分かるような気がする。それは見た目で判断されるという共通点によって。

彼女らは自らの意思によってギャルになった。生まれながらにギャルはいない。何かきっかけによってギャルの道に進む。そして、ギャルになった瞬間、周りの人間の態度が一変する。これまでにこやかに接していたコンビニの店員が、こわばった表情でレジを通し、電車では人が近寄らない、かわりに街では怪しい人間が近付いてくる。ギャルは後天的に差別対象になることで、社会の欺瞞に気付き、先天的な被差別民族のオタクにシンパシーを感じ優しく接するのではないだろうか?

かつて、階級社会の時代では服装や髪型、装飾品等見た目で、身分や職業がわかったという。現代では身分制度はないが、私達は見た目によってその人の立場を判断したいという本能がどうやらあって、あの人はああいう人だと判断することで多くの人は安心感を得るみたいで、僕は経験としてそれを知った。彼らは僕がオタクらしい話をすると安堵な表情を浮かべるのだ。僕はそう言う人たちがいて、それもかなりの多数を占めていることに失望しているが、これも僕が棄てるべき判断かもしれない。

マウントという言葉が流行るように階級社会に戻ろうとする心理は、判断の簡易化をもとめる心理で、平等社会は多くの人にとって不安を生むのだろうか?あるいは情報過多の時代に判断しなければならない量が増えストレスを感じるも、無能と思われたくないが為に、判断を繰り返す。しかし、それが出来る人間は極一部じゃないか?

結局僕は、階級社会に戻るか、目と耳を半分閉じて生きるか、オタクかギャルになることが楽に生きる道なんじゃないかと考えるのであった。


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