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美術展とメディアの関係

▶意外と知られていない、美術展の「主催」って?

イベントの「主催」は、そのイベントの中心になって取り仕切る、責任を負うという立場。美術展のポスターやチラシには、「主催」として展示作品の所蔵美術館、開催美術館の他にテレビ局や新聞社など、メディアの名前が掲載されていることが多くあります。これは多くの場合、そのメディアが展覧会の金銭的なリスクをほぼ全面的に負っていることを示しています。

▶美術展の金銭的リスクはメディアが負っている

美術展の金銭的リスク(=主な経費)には借用料、保険、輸送費用(作品の国際輸送費・国内輸送費)、展示関連費用(会場デザイン、施工など)、広報・宣伝費、会場運営費などがあります。大型の国際美術展では予算規模が2ケタ億になることも珍しくありません。 

特に海外の主要美術館から作品を借りる場合、借用料はかなり高額になります。でもこれはメディアが主催に入っている日本の展覧会ならでは。そもそもルーヴル美術館やメトロポリタン美術館など世界の大型美術館はお互いの所蔵品を貸し借り、いわばギブアンドテイクの関係で展覧会を開催することが多く、借用料は発生しません。

しかしながら日本の大型美術展―特に国際展ーではメディアが企画し、所蔵館と開催館に提案をして実現する、あるいは海外の所蔵館などが企画をして日本のメディアに売り込むというパターンが多く、この場合、日本側が一方的に作品の貸出を依頼するため、借用料(美術館によっては”監修料”、”展覧会の学術的貢献に対する対価”などの名目のことも)を支払って作品を借り、メディアがそれを負担する、という構図になります。美術展は貸出館、開催館の学芸員による学術的裏付けがあって「美術展」として認知されるわけですが、金銭的リスクは多くの場合メディア側にある、というのも事実です。

▶美術展という”事業”の意味

かつて、メディアは社会貢献の一環として美術展を開催し、赤字になっても致し方ない、という風潮があった時代もありました。諸先輩方からは「展覧会は殿様商売」という言葉も飛び出します。ただやはりそこは私企業。そんな時代はとうに終わり、メディアは、いかに美術展をビジネスとして成功させるか、すなわち集客をすることが大命題。プロデューサーは企画、広報・宣伝、予算管理と関係各所との調整に日夜励みます。
 
一方で美術展がビジネスとして果たして効率がいいのかは大いに疑問です。ほぼ唯一にして最大の収入は入場料と会場で売られる図録やグッズの売り上げ。収入の一部は開催館にも納めなければなりません。開催館が一人目の入場者から収入を計上できるのに対して、メディア側は開幕後もひたすら借金(=経費)の返済に追われ、70日を超える会期でようやく黒字転化するのは最後の1週間、ということも珍しくありません。
 
それでも担当者としては、世界の美術館を相手に企画を実現し、たくさんのお客様に感動していただけるのはこの上ない喜びです。そしてメディアが展覧会をやり続けるのはやはりどこかCSR的な意味合いを大事にしているから、と信じたい。だからこそご協賛をいただく企業などもあって、こうしたご支援によってようやく展覧会は成立するのです。

企業ブランドを使ってアートで社会に貢献する。主催者にも協賛社にも、「企業としてアートを愛する気持ち」は継続してほしいと切に思います。


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