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NETFLIXで一気見してよかった作品2023

ドラマやアニメを「一気見」するという行為ができるようになったのは本当に今年(2023年)からかもしれない。なぜなら、1話が60分で全部で8話だとしたら合計8時間は継続的に観なければならず、一気見に使える時間的余裕と(もっと大事なのは)精神的余裕がなければできない。ブルシットジョブに忙殺される社畜や鬱状態の人のなせる技ではないーー私はできなかったので。何かに「没入・没頭」できる状態は、それだけで幸せな状態である。ということで言いたいのは、ドラマを一気見する心身的余裕を持てた2023年の状態は客観的に見たらまずまずなので、よかったということだ。

いちばん手軽なプラットフォームがNETFLIXなので、今年の「一気見してよかった作品」意訳して「もっと話題になってもいい作品」を列挙しておきたいと思う。

とにかく強い剣士が白人に復讐する 『BLUE EYE SAMURAI』

BLUE EYE SAMURAI(2023)

舞台は鎖国中の江戸時代。目が青い混血の子として生まれ、「怪物」と呼ばれいじめられていた主人公ミズが、盲目の鍛冶屋(最強)に拾われ、日本中の剣客が訪れてくるためあらゆる流派をこっそり吸収して最強になって、アヘンと武器密輸と人身売買など外道極まりないことをやり尽くしてなお日本のどこかに隠れている白人四人(その中で誰かが自分の父だが)を探し出してぶっ殺していく、仇討ちの物語。

とにかく戦闘シーンがかっこいい(そして生々しくもある)。主人公のミズは言わずもがな最強だが、戦闘において必ず一度は劣勢になってボロボロになった状態から持ち直していくのがまた良い。「友情・努力・勝利」があるとすれば、一匹狼のミズは最終的に「仲間」の存在の大事さに目覚めていくのだが、忘れないでほしいのはミズは女性なのだ(これは第一話の最後に明かされる)。

絵柄は一見して、いかにも欧米的な目線から作られた日本の江戸時代の物語で、その上3D的な質感のアニメなので、好き嫌いがかなり分かれるかもしれんないが、そんなの関係ない。面白いものは面白いのだ。あえて言うなら、作り込みがあまりにも凄いので「欧米的な目線」を感じさせないくらいだし、典型的なかわいいアニメ顔から完全に脱却したリアルなキャラデザも安心感を増していく。

暗黒世界のポケモンバトル 『ぼくのデーモン』

ぼくのデーモン(2023)

観終わってから気づいたのだが、脚本の安達寛貴さんはすなわち乙一さんだった。だから面白いのか、と脳内で整合性がついた。制作はタイのアニメスタジオ「IGLOO」で、監督はNat Yoswatananontさんという方。

主人公の少年「剣斗(けんと)」は、チワワにも見えて全身が眼だらけの忌まわしい見た目をした生き物(名前は「アナ」)を飼っていた。舞台は核災害後の東京。デモニウム粒子というものが拡散して、デーモンという新しい生き物が生まれることになったが、アナもそのデーモンの一人なのだ(最強設定だけど)。

まだ幼い主人公の剣斗はアナをさらう悪い人から逃げる途中、母が駆けつけてきて剣斗を守るためにその場で殺されてしまう。剣斗はその事実を受け入れることができず、アナの能力で一旦母親の身体を「収納」し、「九州に時間を操るデーモンがいるらしいのでそのデーモンに母を生き返らせてもらう」ということで、東京から九州に向かう。こうして、核災害後の日本で幼い少年とデーモン一匹の旅の物語が始まるのだが、東京から九州に向かうという設定がまた目新しい(ラスボス戦の舞台は博多なのだ)。

少年とデーモンの友情が深まっていく話もそうだが、忌まわしい見た目のはずのアナの諸々の仕草や感情表現があまりにも愛しいので、「アナかわいい!」と叫んで終わるアニメでもある。そしてあからさまなので言うまでもないが、ポケモンやゴジラなど王道の作品を幻視する設定やシーンがたくさんあり、そういう意味でも楽しめる作品なのだ。

サイコ犯罪によるPTSDを描くミステリー 『汚れなき子』

汚れなき子(2023)

原作はロミー・ハウスマンのミステリー小説『Liebes Kind(愛しき子)』。サイコキラーによる女性監禁がテーマの作品だが、犯人はあまり出番がない(むしろ終盤に犯人が出てくるところが少し肩透かしでしっくり来ない)ので、主人公女性の心の葛藤やPTSDの描写がリアルでいちばん心に残った。

母親の「レナ」と子どもの「ハンナ」は夜中に監禁の場所から逃げ出して、暗い森を駆け抜けて道路に出るも車に轢かれて意識を失う。子どものハンナは無傷で母親のレナは懸命な救助によって一命を取り留めるが、救急車から病院の手術室に至るまで絶えず自殺願望丸出しの心情描写が続く。それはなぜなのか。車の事故は自殺なのか。

十数年前に娘のレナが失踪した両親が病院に駆けつけるも、女性の顔を見た途端「これは自分の娘レナではない」と断定。しかし、女性は目を覚ますと自分がレナだと強く主張する。無傷な子どもハンナは、レナの両親がびっくりするほど自分の娘に似ているのだ。果たして誰が誰なのか、それがどんどん明らかになっていくミステリー。

次々と嘘の供述をしていく被害者、娘を探し続ける両親、うつ病と戦う捜査官、自分の指示のせいで部下が足を失って葛藤する刑事。犯人を探し出すよりも、こういった人間描写が主線のドラマだ。

東西の狭間に取り残された暗殺者 『KLEO/クレオ』

KLEO(2022)

東ドイツの共産主義的な空気感、80年代末のインダストリアルテクノビート、冷戦終結後に押し寄せてくる新しい時代への戸惑い。そして、当たり前だが最強な暗殺者の主人公。全部何らかの癖に直撃していてたまらない。

東ドイツの秘密裏の暗殺集団の一人であるクレオは、任務を完遂したにも関わらず理由も知らされないまま投獄される。そして獄中で流産。ベルリンの壁の崩壊とともにクレオは釈放されるが、自分を陥れた裏切り者を探し出してぶっ殺すと誓う。

シリアスな内容展開かと思いきや、ブラックユーモア溢れる会話やシーンも多く、主人公のクレオが凄腕のサイコパス暗殺者でありながらも(孫娘のように)たまらなくて可愛い、ってなる。

重厚な政治的背景が盛り込まれているがゆえ、西のテクノDJがクラブで幻覚キノコをキメながら「資本主義も社会主義もない新しい社会」に思い馳せていたところが最高だった。そして終盤に差し掛かるところのあの目立たないキャラの裏切りは、スパイというものは人生をかけて相手を騙していくものなんだなと思い知らされる。

アポカリプスをひたすら仄めかす 『終わらない週末』

終わらない週末(2023)

年末にNETFLIXで公開された映画。原作はルマーン・アラムによる小説『Leave the World Behind』。映画の冒頭で「エグゼクティブ・プロデューサー」の欄に「Barack and Michelle Obama」と書いてあって目を疑ったが、間違っていないらしい。まあそれはどうでもいいが。

終末論的な映画だが、街が破壊される具体的な描写はほぼない。主人公の四人家族は喧騒なマンハッタンから離れ、ロングアイランドで豪華別荘を借りてのんびり休暇を過ごそうとするが、海岸で寛ぐと巨大タンカーが座礁してくるし、気味悪い低音が鳴り響くし、そして現代人を最も恐怖に陥れる「電波もWi-Fiもない」という状況に陥る。とにかく何かの重大な異変(戦争か天災か)を仄めかすが、原因をなかなかはっきりさせず、主人公たちと観客を焦らす。

しかし、世界が滅びるなら意外とそんなものかもしれない。つまり、本人たち(社会の最上層部ではない大半の人)は、原因すら知ることができないまま、反抗するすべも持たないまま、疑念と恐怖の中で、いくぶんか滑稽な形で、最後を迎えるだろう。何かを訴える鹿の演出が重要な啓示的なシーンに見えるが、それもおそらくあまり関係ないかもしれない。

おわりに

選んだ作品の中で二作も最強キャラ設定の女性主人公が復讐の旅に出るプロットになっていることに気づいて自分に失笑している。でも作品は本当にどれも疾走感があって一気見したら記憶を消してもう一度観たいくらいに面白い。

来年(今年)も、物語に没入できて一気見できるほどの精神状態を維持することを目標とする。正座して待ちたい来年の新作は『ARCANE/アーケイン』と『KLEO/クレオ』のシーズン2、あとはさすがに『三体』は観たい。

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