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飾りのない米で、本当の地酒を造る【七本鎗】

世界を周って感じた、本当の地酒とは?という疑問

七本鎗は、滋賀県長浜市にある冨田酒造で造られているお酒。
「七本槍」という名前は、歴史好きな人には馴染みのある言葉かと思います。(「鎗」の漢字が違いますが、その説明は後ほど)
その歴史については冨田酒造のHPをご参照ください。
http://www.7yari.co.jp/busho/

この名前をお酒に付けたことからも分かる通り、冨田酒造は賤ヶ岳の戦いがあった場所の近くにある、木ノ本というところにあります。

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現当主・15代目である冨田泰伸さんは、大学卒業後ある企業でお酒を営業の職に就き、その後稼業である冨田酒造を継ぐために木ノ本に戻りました。
蔵に戻ってから、品質が高いとされている兵庫県の山田錦をメインにお酒を造っていた当時の様子を見て、「本当の地酒とは、海外で見たワインや蒸留酒のように、原材料もその地で育てられたものを使うことではないか」と考えます。
冨田さんは蔵に戻る前に、世界中のお酒がどのように造られているのかを勉強するため各産地を回り、各地のワインや蒸留酒がその土地のもので造られているのを知ります。その時に、本当の「地酒」とは何かということを強く意識したそうです。

それからは、自分でも本当の地酒を造ろうと、地元で志を持ってお米を栽培している農家さんと契約し、そのお米でお酒を造っています。

同じ志を持つ、地元の若手農家との出会い

今回ご紹介するのは、農家さんとのコラボレーションで生まれたお酒の1つ、「七本鎗 無有」です。

無有は、蔵から車で30分ほどの場所に田んぼを持つ、家倉敬和さんのお米を使ったお酒で、2010年から造られています。家倉さんは元々農薬を使った慣行栽培を行っていたのですが、仕事中に農薬が目に入り失明しかけました。そのことがきっかけで、体にとって危険がある農薬を使うのはやめようと、農薬を使用しない米作りを始めたそうです。
今でこそ農薬を使用しないお米を使ったお酒は多くありますが、七本鎗ではまだほとんどの人が取り組んでいなかった頃からこのような取り組みを行い、今でも続けています。

4 お米農家の家倉さんと七本鎗の冨田さん
右:お米農家の家倉さん、左:七本鎗の冨田さん

無農薬のお米で造ったお酒は美味しいの?

無農薬のお米で造ったお酒と言っても、それが美味しいかどうか、というのはまた別の話。
これはお酒やお米に限ったことではありませんが、私たちが美味しいと食べている野菜や穀物は、美味しく(甘く)するために様々な肥料が使われています。個人の嗜好もあるので、どちらが良い、悪いという風には言えませんが、少なくとも甘く感じていた要素の大きな部分が肥料によるものです。
最初に無有を飲んだ時、通常の七本鎗のお酒と比べてスマートな印象を受けました。最初はこの味の理由がよく分かっていませんでしたが、無農薬・無施肥の野菜を食べたり、同じように農薬を使っていないお米で造った他の蔵のお酒を飲んだりしていると、味は違うもののどれもスマートな印象があり、ようやくなぜこの味なのかが理解できました。

ただ、最初はそう思っていたのですが、飲んでいるうちにだんだんと芯の強さと、決して強い味ではないのですが、逞しさを感じるようになりました。
特に異常気象が続くここ数年において、無農薬、無施肥のお米は栽培においても逞しく、そこまで影響を受けずに育つそうで、それがお酒になっても表れているのだろうなと納得しました。

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この「無有」は、最初は速醸酛で造られたお酒のみでしたが、2年前からは生酛造りのお酒も加わりました。
速醸酛で造られたお酒はよりエレガント、生酛で造られたお酒は伸び伸びとしてより快活な印象です。

今は人間にとっては厳しい、気が滅入る用な時期ですが、この無有のような自然の生命力を感じるお酒を飲むと、こちらも元気になります。
ご自宅でぜひゆっくりとお楽しみください。

【七本鎗のお酒はこちらでお買い求めいただけます。】
https://www.imaday.jp/c/producer/producer-01/producer-01-25/producer-01-25-02

おまけ:「七本鎗」の漢字の由来について

「七本鎗」は、本来歴史上では「七本槍」というのが正しい表記。なぜ「鎗」の字になったかというと、かの有名な北大路魯山人の作品に由来します。
1912年、北大路魯山人が長浜に滞在していた折に冨田酒造のお酒を気に入り、よく嗜んでいました。その繋がりで魯山人は「七本鎗」と書かれた大きな額を制作します。「鎗」という漢字は酒の器という意味があり、魯山人は冨田酒造に合わせてこの漢字を使ったとのことです。

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