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起業勉強会に見た人材発掘の可能性。企業が学生を採用したいと思ったきっかけは(全4回シリーズ3回目)

起業勉強会の第3回目は最終発表会として開催。
学生と企業がチームとなって考えたビジネスプランをそれぞれプレゼンし審査するというものです。

約3ヶ月間、ブラッシュアップされたビジネスプランのプレゼンは、最終的に学生7名が発表することに決定。

第1回目&2回目の勉強会の様子はコチラから

プレゼン審査は5つの評価基準で行われます。

➀実現性
  プラン内容が現実的かどうか / 事業として成立しそうかどうか
➁ユニーク性
   他に事例が無い又は事例が少ないユニークなものかどうか / 着眼点が良いものか
➂収益性
    儲かりそうなプランかどうか / 収益率または収益額などが大きいプランかどうか
④明和町貢献度
    明和町の課題解決への貢献度が高いか / 明和町の宣伝に貢献するプランであるか
⑤創造力育成度
  自社で育ててみたいと考えるプランであるか/長期的な成功の可能性があるか

この5つの評価がそれぞれ最大5点満点で加点され最大25点。
審査員は学生にアドバイスをしていた企業を中心とした7社の代表が行います。

最も得点が高かった学生が「最優秀賞」。
④明和町貢献度、⑤創造力育成度がそれぞれ最も高かった学生が「明和町貢献賞」「創造力育成賞」として表彰されます。

今回の記事では、第3回目の勉強会におけるプレゼンの様子だけでなく、参加した企業の方のインタビューも掲載。インタビューを受けてくださった企業の方は、勉強会参加後に「彼と一緒に働きたい」と語るほど学生を評価していました。

学生はいかにして企業から高い評価を得たのか?そして勉強会は学生の中からダイヤの原石を見つける、新しい人材発掘の場となったかなど、実際の現場に立ち会った者として書かせてもらいました。


学生が主体性を持って参加した第3回目の勉強会!

2024年3月9日。
学生と企業が協力して地域課題解決ビジネスプランを作り上げる「起業勉強会」の最終プレゼンの日がやってきました。
最終プレゼンは三重明和インキュベーションセンターで開催。

学生はこの日、ビジネスプランのプレゼンを行うだけではなく運営としても参加。「学生が自分たちで運営する」点が、通常の学生ビジネスコンテストとの大きな違い。学生の中にリーダー、サブリーダーを設け、勉強会の運営にも携わってもらっています。

第1回目の勉強会では、我々が「ここにテーブルを設置してください」などと出す指示を待つ学生が多く、会場準備に時間が掛かかりましたが、今回は違います。
リーダーを中心に学生が主導となって会場準備を行う様に。

「ここに椅子を置いた方が見やすいんじゃないですか?」
「プロジェクターの画面が見えづらいので、直しましょう」
「プレゼンの中で休憩を挟むのは、このタイミングじゃないですか?」

次々に提案が上がり、自分たちで率先して実践していきます。
その姿は3ヶ月前に所在なさげに座っていた学生とは思えないほど。
学生の成長スピードの速さを感じると共に、「皆で作り上げていく」ということに楽しさを覚えたのではないかと思いました。

初めて大人を相手にしたプレゼンを控えた学生も多く、本来は少しでも確認や練習したかったことでしょう。
それでも「自分たちで作り上げる起業勉強会だ」という思い入れを、本番前から感じとれて胸が熱くなりました。


運営としても活躍した学生たち

発表会開始前になり、企業の方々が会場に到着。
企業の方は真っ先に、自分のチームの学生のプレゼン内容をチェックし最終的な打ち合わせを行っていました。

企業の方と学生がギリギリまでブラッシュアップを行う姿は、両者の熱意が変わらずに強いことの表れ。
そうして、いよいよビジネスプランのプレゼンが行われたのです。

「世界一の広告代理店になる」企業を唸らせた学生のビジネスプランはいかにして生まれたか

起業勉強会における集大成。
発表直前の学生に「緊張していますか?」と聞いたら「全然、大丈夫です」との答えが。
しかしその声は小さく震えており、こちらにも緊張感が伝わるほど。

企業の方は「こっちの方が緊張しますね」と、まるで親の様な目線です。
学生のプレゼンは、それぞれの個性が出た素晴らしいビジネスプランばかり。

明和町の名産であるひじきの加工食品の製造や廃校でのカフェ運営、オンラインゲームを通した地域活性に鉄道祭りなど、熱のこもったプレゼンが続きました。
中には「この様に僕が考えたビジネスプランでは、収支がマイナスになることが分かりました。そこで新しい案を考えてきました。」とプレゼンの途中から全く新しい案を提案する学生も。

学生のプレゼンに対して、当然の様に企業の方も真剣な質問を投げかけます。
中には「販路はどうなっている?」「費用はどの様にして用意するのですか?」といった実際のビジネスを想定した厳しめの質問も。
一方で同じチームの企業の方からの「補足しますと...」といったフォローや「こういう事例もあるので...」といった具体的なアドバイスも飛び出しました。

地元テレビ局にも取材される中でのプレゼン

そんな中で最優秀賞に輝いたプレゼンは、他の学生とは一線を画すビジネスプランでした。
「世界一の広告代理店になる」
当初はポスティングビジネスを考えていたのですが、チームを組んだ企業の方からのアドバイスで「世界一の広告代理店」という案にブラッシュアップされました。

最優秀賞に輝いた「世界一の広告代理店になる」を発表した学生

プレゼンの中では、事業内容の紹介だけでなくこれまでの紆余曲折も公開。
自分の内面もさらけ出して、なぜこの事業を行いたいかを熱く語っていました。

その様子が審査員の心を動かし、見事、最優秀賞を受賞。
審査をした違うチームの企業の方でさえ「うちの会社で採用したい」と言わせるほどでした。

受賞した学生に話を聞くと、同じチームの企業の方が熱を持ってアドバイスを送ってくれたおかげとのこと。
自分のビジネスプランで、課題が出る度に「じゃあ、どうする?」と問いかけつつも一緒に考えてくれたそうです。

ブラッシュアップされるビジネスプランと共に「自分が本当にやりたいことも見えてきて楽しかった」と語る姿はキラキラと輝いていました。

他のチームも、学生のプレゼンの後に企業の方より「ここを改善すれば、良くなる」とブラッシュアップやアドバイスが継続。
学生はプレゼンが終わったにも関わらず、真剣な眼差しでメモを取っていました。

プレゼン終了した後も企業の方からアドバイスが

一緒にビジネスを考える中で、年齢や立場を越えて多くを語り合ったことで、勉強会以降も継続した関係を求める様になっていったのです。

企業に「彼と働きたい」と思わせたのは1枚のクッキーがきっかけ

3ヶ月にわたる勉強会を通じて、学生のビジネスプランに光るものを感じたのでしょうか?それとも学生の人間性の部分に将来性があったのでしょうか?
勉強会後にその言葉の意味を確認するべく、企業の方にお話しを聞きました。

「最初はやる気がなく、仕方なく出したビジネスプランだと思ったんですよ。だけど話を聞いたらなるほどなと、思わせてくれました。」

そう語るのは、大阪にあるWEBシステム(ホテル向け業務支援システム)とIOT開発を行う株式会社海岸線 代表の上田太久治さん。

今回の起業勉強会に企業側として参加してくださいました。
上田さんは前年度の明和町企業誘致事業でつながりを持ったことから今回の起業勉強会に参加。

お話を聞いた株式会社海岸線 代表の上田太久治さん

勉強会に参加した理由は「自分も起業して6年目なので自分の経験を伝えたいというのもあったのですが、学生に教えることで自分の勉強にもなると思ったのです。あとは若い子の価値観を知りたいとも思った。」と話します。

上田さんとチームを組んだ学生が出したビジネスプランは「ひじきクッキーを作って販売する」というプラン。

上田さんは最初にそのプランを見て「自分は食品関係の仕事をしたことも無いし、アドバイスできないかも」とも思ったそうです。

ただ、話を聞いてその気持ちに変化が。

「まず、ひじきが明和町の名産であるということ。名産品を使って地場産業を盛り上げるための案であったことに対して、いいなと思いました。」

他の学生が良くも悪くも、大きなビジネスを考える中で上田さんのチームの学生は、明和町の地場産業を見直すというリアリティのあるビジネスプランだったのです。
ただ、それだけで「一緒に働きたい」と思う様になった訳ではなく、学生のある行動が上田さんの心を動かします。

「クッキーの試作品を作ってきたんですよ。あれで彼の本気度が分かりました。」

たった1枚のクッキーには、どんな言葉よりも説得力があったと続けます。
「本当に実物を持ってきたということ。ビジネスを考えるときに、最近ではネットで調べて自分で難癖をつけて止めるということが多い中で、彼はそれをしなかった。」

実際に手を動かすことが大事。

「社会人になると、中々それが出来なくなってくるんです。ただ学生ということもあったので行動できたんだと思います。」
「学生」というまっさらな人材だからこそ、行動できたと考えられます。

まっさらな学生だからビジネスの本質を出せる気迫があった!

上田さんは社会人と学生の違いについても話してくれました。

「社会人になると、不出来なものを出すということに抵抗があり、二の足を踏むことがあるんですが学生にはそれが無かった。」
やってみて不出来でもいいので、実物を持ってプレゼンするというのがビジネスの本質であると語ります。

「本気でやりたいと思っていたら、不格好でも前に出して一歩進みたいと思うんですよね。その気迫こそが大切ですし、説得力を生むんだと思います。」
自分が考えたことに対して、計画だけでなく手を動かしてみるということ。

「業者では試作品は中々、作ってこれないんですよ。学生はある意味では守られた存在ということもあってすぐに行動できたんではないでしょうか。」
社会人になるということは、責任が伴い、失敗がしづらい状況になるということ。

しかし学生であれば、多少の失敗も「学生だから」として受け止められることが、良い方向に動いたのではないでしょうか。
学生特有の行動力が、社会人を感動させ、協力したいと思わせる影響力を与えました。

しかし上田さんはそれだけが理由ではないと語っています。

学生の新しい可能性が見える!勉強会における人材発掘としての可能性は?

ひじきクッキーを実際に作ってきた学生の行動力に関心を示した上田さんは「自分のアイデアと彼の考えがリンクした」というのも一緒に働きたいと思えた要因と語ります。

「それと、僕が言ったことをよく覚えているんです。それも良かった。」
上田さんは学生との打ち合わせの中で、様々なアイデアを提案したそうです。

それらに対して学生は自分で調べてきて「上田さんが話をされたアレはこういうことですか?」と質問してきたとのこと。

「ただ聞くだけではなく、こちらの話にも乗っかってくれる。そういうやり取りも楽しかったし実際のビジネスにも大切。ビジネスで成功するのは人たらしであることも重要。

社会人経験の無い学生が、ビジネスで大事なことを考えてやっていたとは思えません。
恐らく感覚的に行動していたのではないでしょうか。

「だからこそ彼とは深い話もできたし彼はそれを全部覚えていた。その上で自分が出来ることも把握していたから良いビジネスプランになったんではないでしょうか。」
学生というまっさらな状態だから多くのことを吸収できた上に、考えて自分で咀嚼する能力を持っていたということを勉強会を通じて発見できたと考えます。

上田さんは学生に対して「今、彼は2回生だからあと2年間、ビジネスのリアルなところを考えて学んでくれたら素晴らしい人材になる。」とエールも送っていました。

皇學館大学の新田均教授は今回の勉強会に対してこの様な感想をおっしゃっていました。

「思いのほか、学生が勉強会に本気で取り組んでくれたのが良かった。特にリーダーシップを取って運営をしてくれた学生は、その過程の中で実際に起業した方とのコミュニケーションを通じて成長し、企業の方の信頼を得たというのが素晴らしい。」

3ヶ月という短い期間の中で、学生と企業が集中的にコミュニケーションをとりお互いを理解し合う。

その結果、一緒に働きたいとお互いに思える関係性を構築していくというのが今回の勉強会でめざしたものです。

通常の新卒採用で行われる筆記試験、数分の面接では学生の本質は中々見えないもの。
勉強会を通して、学生自身も気づきにくい可能性が見えたという点でも新しい人材発掘の可能性があると実感しています。

次回の最終回では、新しい人材発掘としての勉強会の可能性や我々が行う意味などを書いていきたいと思います。

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