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【The Process】子どもたち自身で考え、放課後をデザインし直す。~新潟市立白新中学校「放課後デザイナー活動」「白新ユナイテッド」~

新潟市中央区に位置する、生徒数約200名の新潟市立白新中学校。この学校では、現状の部活動をただ地域に移行するのではなく、部活動の本来の目的に立ち返り、生徒自身で考え、平日も含めて放課後の時間をデザインする取り組みが行われている。なぜ全国に先駆けて大胆な改革を進めるのか、その目的と取り組み内容を改革の中心人物の1人である堀里也教諭に聞いた。


■「放課後デザイナー活動」と「白新ユナイテッド」

—―現在白新中学校では、どのような形で放課後の活動が行われているのでしょうか?
白新中学校では、休日の部活動のみならず、平日も含めた部活動改革「ブカツイノベーション」を行っており、学校と地域が協働した新たな放課後環境の創造に挑戦しています。

現在、生徒のニーズに合わせ、エンジョイ志向の「放課後デザイナー活動(学校での活動)」とミドル層以上向けの「白新ユナイテッド(地域クラブ)」の2つの活動を行っています。

豊かなスポーツ・文化活動に親しむ子どもたちの資質能力を育成する
生活する地域で生涯にわたってスポーツや文化に関わる態度を育む


■部活動をそのまま移行しても、根本的な課題解決にならない

「放課後デザイナー活動」は、生徒のやってみたいことを、生徒の自主的な運営によって行う活動です。学校が担うべき役割として、学校の施設内で平日週2回(月・木)、放課後~17時まで活動しています。

やりたいことのある生徒が「放課後デザイナー」となり、「こんなことをやってみたい」を学校内で企画して活動を立ち上げます。全校生徒はそれらの活動に自由に参加できる仕組みです。

これまでに「フットサル」「ドッヂボール」「ギター」「けん玉」「科学研究」「鬼ごっこ」「野球」「万代太鼓」など、バラエティに富んだ放課後デザイナーが生まれています。参加は自由のため、週1日でも良いですし、月曜日と木曜日で別々の活動に参加することもできます。

取材当日は各デザイナーによるオリエンテーションが実施されていた。

17~19時は、地域が主導となる「白新ユナイテッド」の活動が行われています。「白新ユナイテッド」は学校運営協議会に承認*1され、団体活動管理委託を受けた地域クラブの集合体です。令和6年度は9クラブが認可されました。

魅力ある運営に向けて、複数回の研修会を実施し、サッカークラブは県中体連認可地域クラブとして、中体連大会に出場しました。

また、バスケットボールにおいては競技力・志向別のクラブが設立され、同じ種目であっても技能向上を目指すミドル層クラブの他、大会への上位進出を目指すトップ層のクラブなど、生徒の多様なニーズに合わせた活動が展開されています。

「白新ユナイテッド」の活動

また、地域クラブであるため、白新中学校のみならず、他校の生徒や小学生も参加しています。

*1「白新ユナイテッド」の認定条件は白新中学校のホームページに掲載。

—―なぜ休日の部活動だけでなく、平日も含めた「ブカツイノベーション」を実行することになったのでしょうか?

改革前の令和4年時点では、部活動の1年間の平均活動時間は平日・休日合わせておよそ450時間でした。これは標準授業時数のおよそ45%にも及ぶ時間です。教員の働き方改革としては、休日から段階的に地域に移行し、これまで部活動に割いていた時間を削減することは、最良の手段かもしれません。

しかし、例えば平日に部活動の顧問をしている場合、「大会がある以上は生徒ともっと関わりたい(関わらなければならない)」という想いを持つ教員もいるはずです。

また、そもそも部活動には様々な課題があります。希望入部制であることから、全員を対象とした教育活動ではないこと、少子化による部活動種目の精選により多様なニーズに応えられる活動を準備できないこと、同じ部活動内にもエンジョイ層から競技志向層が混在していることなどの問題です。

そこで「部活動の形をそのまま地域に移行したとしても解決すべき課題の本質的解決に至ることはない」と考え、校長の問いかけの元、部活動に熱心に取り組んできた教員を中心に、この問題に真正面から向き合うことを決めました。運動部だけでなく文化部も、全ての生徒の可能性が最大限に発揮できる、そんな環境を創造することをゴールに改革に乗り出しました。

私達が目指すビジョンは、”生徒が輝くブカツイノベーション”=生徒自らがデザインする放課後活動の創造です。三つの柱を据えながら、子供の放課後をデザインし直すことから始めました。

三つの柱とは、①全ての生徒がスポーツ文化活動に親しむことができる機会の確保、②自発的に取り組むための地域との協働、③持続可能で多様な体験機会の確保です。

先ほどお伝えしたように部活動には様々な問題が潜んでいます。同じ部活動の中に、もっとレベルの高いものを求める「トップ層」、少し専門的な指導を受けたい「ミドル層」、やってみたい・友達と楽しみたい「エンジョイ層」が存在しています。どちらかのニーズに合わせれば、どちらかのニーズは不適応を起こしてしまいかねないという志向別に関わる大きな問題です。

そこで私達はエンジョイ層向けには「放課後デザイナー活動」、ミドル・トップ層は地域クラブが役割を担う「白新ユナイテッド」として、活動を棲み分けることにしました。

—―生徒・保護者とはどのように合意形成したのでしょうか?反発は無かったのでしょうか?

まずは令和4年度夏に開催された学校運営協議会にて部活動改革の方針説明を行い、「子どもたちが放課後をデザインし直す」ブカツイノベーションのビジョンを共有し、承認を得ました。

そして、そこから、各部活の保護者会に対して、まず顧問や改革の担当教員(3名)から説明し、少しずつ理解を深めていきました。その過程の中で、これまでやってきたものが無くなるということに対する戸惑いや、変革を望まない保護者・生徒の反応もありました。

しかしながら、「私たちは子どもたちをこういうふうに育てたいんだ」という想いを持ち、また実際に子どもたちが楽しんでいる姿がその先にあると信じていたので、昨年はとにかく広報活動に務めました。実際に放課後デザイナー活動が始まり出すと批判は無くなりました。現在は生徒の中でも「放課後をデザインする」ということが定着し始めています。

■「みんなが輝く放課後デザイナー活動」がゴール。その為の力を育む。

—―一般的な部活動では「限られた選択肢から選ぶ」のが普通ですが、「自由に活動を決められる」放課後デザイナー活動では、どのような活動が行われるのでしょうか?

私たち教員の発想では、今までの部活動にあったような「何か(特定の文化・スポーツ活動)をできるようになりたい」という活動のイメージしかできていませんでした。

しかし生徒は違います。もっと楽しみたい、もっとみんなと関わりたい、という発想で新たな活動が生まれています。

例えば、「イベントデザイナー」として仲間を集め、文化祭のようなイベントを自ら企画したのです。ピアノの発表をやりたい。自慢のフラダンスを見てもらいたい。総合学習から生まれたバンド活動を復活させた。仲間を演出してみたい。お笑い芸人のような司会がやってみたい。そして、頑張っている仲間を応援してあげたい。

多くの生徒のやってみたいがあふれるスマイルアフタースクールなるイベントが、生徒たちの手によって生み出されました。また、何かをやってみたいデザイナーさんをコーディネートする「デザイナー×デザイナー」という活動をしている生徒もいます。

オリエンテーションの企画・運営も生徒中心で実施された

もちろん全てが上手く進んでいる訳ではありません。もっと同好会的に気軽にデザイナー活動が立ち上がれば良いのにと思うこともありますが、仮にやりたいことがあったとしても「仲間が集まるかどうかが不安」で出来ない子もいます。

ただ、「生徒自らがデザインする放課後活動」という目的に立ち返ったときに、部活動と同じくらいの参加率/加入率を求めてもあまり意味はありません。

最初はこれまでの部活動のように、名簿をつくって、それぞれ何デザイナーだと決めること(=○○部の部員のように扱う)ことも考えましたが、そうすると「月曜日はバスケで、木曜日はフットサルに行きたい」「週1日だけ参加したい」などと考えている子にとって息苦しい環境になってしまいます。

活動のゴールは「みんなが輝く放課後デザイナー活動」、学校の教育目標は「知性の高い生徒になる」ということです。これまでのやり方や考えに捉われず、そこに向かって力をつけさせていきたいと考えています。

—―最後に全国の学校関係者の皆さんにメッセージをお願いいたします。

部活動改革は、各校、各地域の最適解を子どもの姿とともに見出す過程にこそ価値があると思います。ただ単に部活動を移行するという発想では、持続可能なものにはなりえないと考え、実践しました。

「大人目線による構想がもつ危うさは、大人には気付きにくいものである。」この構造そのものに気付かないところに、実は一番の危うさが潜んでいるのかもしれない。このことが改革を進める中で得た学びの一つです。

■取材後記

「部活動の形をそのまま地域に移行したとしても解決すべき課題の本質的解決に至ることはない」、この言葉は、全国のほとんどの部活動にあてはまるのではないでしょうか。

目の前の子どもたちの活動を保証し、令和7年度末という改革推進期間の期限を考えると、やむを得ない状況もあるかと思います。しかしながら、それと同時に現在の部活動が抱えている本質的課題と向き合う必要があることを改めて感じました。

また、白新中学校では、部活動だけでなく学校全体として、生徒の主体性を尊重する文化がありました。取材日はちょうど放課後デザイナー活動のオリエンテーション日でしたが、生徒主体の運営、各生徒の堂々としたプレゼン、そして誰が前に立ってもそれを応援する生徒たち、「伴走者」として見守る教員、それぞれの姿が最も印象に残っています。

今後の部活動やクラブのやり方は地域によって様々ですが、多様な志向性を尊重し、生徒の主体性や協働性を育める環境をつくることこそ、これからの部活動や学校教育/社会教育に必要な事ではないでしょうか。

文:イマチャレ事務局長・櫻井義孝

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