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埋火
2023年6月26日 00:30
届かなくなってしまったものをいつまでもこの手に握りしめてもう届かない届けられないうつむいたその瞬間に風に運ばれ手紙が届く差出人の名前はなくてただ真っ白な便箋を指でなぞってあなたは一体誰なのですか尋ねてみても返事はなくて群青色した封筒を静まり返った水面に浸す氷に覆われていたはずのあの湖のほとりで空には渡り鳥浮かび上がってきたものは使い古された愛の言葉でもなく何度
2023年6月26日 09:00
ガンジス川のほとりには痩せ細った犬が一匹静かに目を閉じて眠っている砂埃の舞う喧騒の中でわたしは靴を修理している誰の靴だろうかわたしの髪は短いサリーが風に揺れている真っ黒に汚れた自分の手を見つめながらひとつひとつ綻びを直してはためつ眇めつ眺めている孔雀が羽を広げたようなあの音楽が鳴り響いているあのひとは修復し続けてきたのだだからこそうつくしい通りすがりの
2023年6月21日 08:43
出口はこちらです促されるまま歩き続けて看板が目に飛び込んでくる出口はこちらですドアの前に置かれた白いテーブルの上にはコーヒーカップが二つさぁどうぞミルクと砂糖はご自由にひと息ついてふと顔を上げる辿り着いたはいいけれどこのドアはどうやって開けるのですか?ドアの向こうの世界には一体何があるのでしょうかそれはあなたにしか分かりませんよ
2023年6月20日 23:46
それは付加価値として用意すべきものであってメインディッシュにしてはならないそうあるべきだとこれまでも考えながら生きてきた自覚があるしたぶんこれからも変わらないそれは付加価値として用意すべきものであってメインディッシュにしてはならないそれだけをいつまでも待ち望んでいるような人生にはしたくない並んだ皿を見つめては何度でも繰り返す真っ白な皿の真ん中にうっか
2023年6月16日 00:11
線香花火の赤い色ぱちぱち弾けて散らばって少女はじっとうずくまり蠢くひかりを胸に抱えあぁ もうすぐ消えてしまうわうつむく顔は赤く染まりぽろりぽろりと涙が落ちるなんと悲しそうな顔!星は小さく微笑んでそよぐ風に言葉をのせるどうして貴方は泣いている?そんなに悲しそうな顔をしてどうして貴方はうつむいている?わたしは変わらず空の上こうして貴方を照らしているのに少女はただ
2023年6月12日 12:37
ある時思ったのだった。世の中にはうつくしい人が沢山いて家事も育児も完璧にこなしていて美しい服と美しい心いつまでも愛されるべき存在でママ友がたくさんいてセンスが良くて素直で明るくて爪はいつでもピカピカでメイクも完璧の完璧でいつだっていい匂いがする周りから憧れられる存在で自分に自信を持っていて悩みなんてひとつもないわたしは生まれながらに完璧ですそんな人いないんだって。
2023年6月10日 19:42
赤い林檎が落ちてくるぽとり ぽとり空高くから落ちてくる荒野はいつしか埋め尽くされてあなたはそれをひとつ拾ったさぁ おひとついかがです?甘い甘い蜜が入った小さな林檎の匂いが満ちてひとくち齧ってみましたらもう他の林檎は食べられないよ手の平で転がしながらあなたは笑うもう他の林檎は食べられないよ小さく小さく泣きながらあなたは笑う
2023年6月9日 08:29
でてくるでてくるつぎからつぎへとでてくるでてくるいやだだるいいやだだるいでてくるでてくるあのひとなんにもしないのよほんとになんにもしてくれないのよもういやなのよほんとうにずいぶんいっぱいでてくるでてくるあなたがかるくなるのならぜんぶぜんぶはきだしてしまえわかるよなんていえないままひどいよねなんていえないままわたしはあなたをだきしめる
2023年6月8日 22:22
空になった瓶を覗きこんだ。魚が二匹泳いでいた。ぐるぐると同じところを泳ぎ続けていた。光が反射して鱗がひかっていた。空になった瓶を覗きこんだ。大きな黒い手が伸びてきた。思わず目を逸らした。空になった瓶を覗きこんだ。何かが零れ落ちていった。底の方で幾重にも波紋が広がった。空になった瓶を覗きこんだ。正座した母が遺影の前に置かれた皿にトマトを置いた。ひとつ、ふたつ。暑うなっ
2023年6月7日 10:35
忘れてしまったことがあるということをしばらく忘れてしまっていたあの頃の感覚はどんなだっただろうかあの真夜中の無敵感はどこから生まれてどこへ消えていったのだろうか薄暗い部屋で寝る間も惜しんで聴いていた音楽の色彩はどんなだっただろうか最終の電車に乗って真っ暗な夜道を時々振り返りながらむせるような深い夜の匂いと共に去りゆく電車の音と共にわたしはどこへ向かって歩いていたの
2021年4月25日 23:14
揺れているゆらゆら ゆらゆら揺れている頭の中が震えてる睫毛もふるふる 震えてるわたしは揺れる音楽を聴く遠ざかろうとすればするほど誰かの声に面影を探すグラスは揺れる氷は溶けるわたしは溶ける闇に溶ける伸ばそうとするその手で自分を抱きしめる明日になったらあの鐘が鳴り響いたらぜんぶ溶けてくれればいいあとかたもなく
2021年3月10日 08:36
ふらりふらりと歩いていたらぽつんぽつんと雨降り出して振り返れば白い花雨粒落ちたところにはひとつふたつと花が咲きあの花の名は と君が問う咲いた花びらは宙を舞い風に吹かれて遠くまで甘い匂いが漂ってはらりはらりとゆり落ちる軽やかな足音と子どもたちの笑い声あの子は遠くへ行ってしまったよ花の匂いに誘われてギター抱えた少年が音なき音をかき鳴らすむせかえるような甘い匂いが遠