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手紙

届かなくなってしまったものを
いつまでもこの手に握りしめて
もう届かない届けられない
うつむいたその瞬間に
風に運ばれ手紙が届く

差出人の名前はなくて
ただ真っ白な便箋を
指でなぞって
あなたは一体誰なのですか
尋ねてみても返事はなくて
群青色した封筒を
静まり返った水面に浸す
氷に覆われていたはずの
あの湖のほとりで
空には渡り鳥

浮かび上がってきたものは
使い古された愛の言葉でもなく
何度も何度も繰り返し
呟いたあなたの名前でもなく
あの花の匂いだけが
どこまでも遠く
いつまでも消えることなく

あの花の名前は
尋ねた遠き日の記憶だけが
水面に揺れる月とともに
漂っている


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