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    昔の言葉も今の言葉もごちゃ混ぜに。

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    いつかの呟き

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あの猫

一目散に逃げてった たぶんもう戻ってこない 去り際に一度だけ振り返った 長い尻尾がゆらり揺れた 追いかけていたつもりもないが 一度駄目になってしまうと 何もかも全部駄目になる 今までだって何度でも 繰り返されてきたことだし そういうもんだよなって今の自分を 納得させようと思えばできるのだけれど 色褪せたカラーコーン カンナの赤が枯れてゆく もうすぐ夏が終わるのだろう あの猫もいつか いなくなってしまうのか 嫌いになりたい もう見たくない なんて嘘 カンナの赤が蘇る 嫌に

    • あの弾丸は

      鍋を囲んでいる いつ死ぬかわからない いつ死んでもおかしくない 終わりなき銃撃戦 わたしたちは武器も持たず 炬燵に入り鍋を囲んでいる 見上げれば星空 もう暫く時が経てば 月の光も届くだろう 立ち昇る湯気 ゆるやかな空気 こだまする銃声 まるでリズムを刻むように 頭上を弾丸が飛び交う中 平然とした顔をして 微笑み微笑む微笑んでいて どうかこのまま気づかずにいて あの弾丸は流れ星 あの弾丸は流れ星 心の中で祈り続ける もうすでにあの植物たちは 芽を出し蘇生しつつあるのに お前

      • 適温

        熱すぎる 冷まさなければ このままでは 火傷してしまう早く 一刻も早く 冷まさなければ 触らないで 熱すぎるから 全てがとけてしまうから 熱すぎる 冷まさなければ このままでは 火傷してしまう早く 一刻も早く 冷まさなければ 適温になるまでわたしは あなたを見ない

        • 今夜はダンスパーティー

          ここにプリンがひとつある。 読み上げてみよう。 ホンモノは、おいしい ミルクにやさしく包まれる ジャージー牛乳プリン クリームがかかった2層仕立て とろ〜り 印字された文字を隅から隅まで声張り上げて 読みたくなるほど嬉しいことがあった。 あぁプリンの神さまありがとう。 ありがとうありがとう。 甘味が我が身に沁み渡る。 なんとやさしい味だろうか。 冷蔵庫にはプリンが二つ。 独り占めなどしない。 子どもらの分である。 帰宅して冷蔵庫を開けたらきっと 奇声を発するであろう。 喜

        あの猫

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        記事

          何か思い出せそうな

          どこかで聴いたような気がする。 どこかでこの空気を感じたような気がする。 何か思い出せそうな気がする。 あぁ気になる。もやもやする。 気になって仕方がない。 目を閉じてみる。ほら何か浮かんでくる。 これは一体何だろう。わからない。 そういう音や言葉に時々出会う。 図書館で同じ本を同時に手に取った時のような。 いやそれはあまりにドラマチックすぎるか。 そんな経験一度もないし。 わからないことは何でも調べられる時代になったけれど残念ながら自分の記憶だけは自分

          何か思い出せそうな

          リボン

          かなしいことがあった日は しゅるしゅるしゅるとリボンをほどく 頭の先から少しずつ しゅるしゅるしゅるとリボンをほどく いつの間にやら絡まって くしゃくしゃになった胸の奥 何度も何度も踏み潰されて ぐしゃぐしゃになった足の先 かなしいことがあった日は しゅるしゅるしゅるとリボンをほどく ほどけたところは透明に よごれたところは鮮明に 今度こそ うまく包めたと思っていたのに 今度こそ うまく結べたと思っていたのにな かなしいことがあった日は しゅるしゅるしゅるとリボンをほ

          ねぇねぇ

          嫌なことはだいたい飲み込めるけれどいいことがあると誰かに言いたくなる。 よかったねって言われたいからだろうか。 一緒に喜んでほしいからだろうか。 ねぇねぇさっきやっと電気ついたよ! 停電は住んでいる場所がばれるから言わないほうがいいよとSNSに書いてあった。 よし黙っておこうと思ったけれど今夜は携帯もすぐに充電できるし洗濯機も使えるしお風呂にも入れるし冷え冷えシートで身体を拭きながら子どもたちが眠りにつくまで団扇をあおぐ必要もないし クーラーの効いた部屋で好きな音楽を聴きな

          人魚の夢

          時々とても悲しくなって 何もかもが見えなくなって 何度も何度も練習するの そうかそうかよかったよかった そうかそうかよかったよかった いつかその時がやってきたら 心から笑えるように 心から喜べるように いつか傷つく前提で いつかいなくなる前提で 鏡に向かい笑ってみせる そうかそうかよかったよかった あなたはすてきなひとだから 誰からも愛されるひとだから それでもあなたを愛してる なんてうっかり口に出さないように そうかそうかよかったよかった そうかそうかよかったよかった 何

          2匹の不思議な生き物を

          なんとなくSNSを眺めていて思わず二度見するなんてことがよくある。ん?んん? 2匹の不思議な生き物を少女が執念深く追う んん?んんんんん? ほらこんなに ん を並べるとなんだか別の記号のように見えてくるでしょう? んんんんんんん?んんんんん? ねぇとなりのトトロってどんな話? どんな話って言われるとねぇ。 ねぇ新しいアルバムってどんな感じ? どんな感じって言われてもねぇ。 ねぇあなたってどんな人? どんな人なんでしょうねぇ。 話すには少々時間がかかりますね。 観ればわか

          2匹の不思議な生き物を

          閉めても閉めても

          サーカスの幕は閉じて ぼんやり灯る電球は もうずいぶんと長いこと 点滅を繰り返している 星の見えない夜のように ほら もうすぐあの暗闇が来る もうすぐだ わかっている 獰猛な獅子は眠りにつき ほら もうこれでおしまい 楽しかったでしょう? 夢みたいだったでしょう? ほら もう全部箱に仕舞って ほら もうこれで全部 ほら もうこれでおしまい 目を閉じて眠るの 楽しかった思い出だけを 曖昧な記憶だけを 胸に仕舞って 暗闇に浮かぶのは あの夜の満月と やわらかなあなたの声 閉

          閉めても閉めても

          たぶん、ここ。

          人やものとの距離感について再考。 ある時は近すぎると驚かれたり いつまで経っても遠すぎると呆れられたり 一方で引こうと思っても引けなかったり 近づいてこられるのが怖くて後ずさりしたり。 適切な距離がわからぬままに近づきすぎて 何を見ているのかわからなくなって怖くなって ある時ぱっと放してみたのだった。 それは静かに水中に沈んでいった。 そのまま陸に上がることなどできるはずもなく 沈んでいった何かが海の底に触れて ふわりと砂が舞い上がるのを見つめていた。 遠くなってしまっ

          たぶん、ここ。

          針さえ刺せない

          色とりどりの海月たち ひとつまたひとつ膨らんで 少しでも上へ上がろうと 水中を漂っている 擦れ合う音 膨らみ続ける海月たちが お互いを圧迫して 殴り合い潰し合い ぼくはあの音が嫌い 耳にいつまでも響くから 針でも刺してやろうかと 現れた陸のハリネズミ その真ん中に描かれた 星を狙えば狙うほど おんなじ色が固まって 刺すな!触れるな!ふざけるな! 針さえ刺せないこの国に ぼくらはもういらないのかね 針さえ刺せないこの国に そもそも実体がないのだよ 陽に照らされた砂浜は

          針さえ刺せない

          答え合わせ

          閃光 点滅 不穏な空気 進行 蛇行 一時停止 投げつけられた林檎を抱え 極上のアップルパイを作る ほらあなたも一口いかが それはなんとも正しいし 全く以て美しい 答え合わせを繰り返し 困ったものだと天を仰ぐ いつしか心臓を貫いた やわらかな棘は今もなお 抜ける気配はない

          答え合わせ

          見失ったもの

          見失ったものを追いかけてはいけない そう教えられた 追いかければ追いかけるほど どこに行けばいいのかわからなくなる そう教えられた 追いかけ続けて立ち止まった 振り返るとあなたがいた 阿修羅のような形相で 追いかけ続けていたあれは 幻だったのだろうか いつだって背中合わせで 前ばかり見ていると 気づけないことがある 振り返ると自分の背中が見えた もういいよ 大丈夫だよ わたしはわたしをできるだけ 優しく抱きしめた

          見失ったもの

          野良猫のあやし方

          だいたい週に1回くらい店に野良猫がやってくる。 野良猫はだいたい人間みんな敵だと思っているから尻尾を逆立てて威嚇したり急に爪で引っ掻いたりもする。最初から戦うつもりで来店しているのだ。 ニャンだお前!やるのか?やるのか?フーッ! いらっしゃいませ。(にっこり) 先ほど少し雨が降りましたね? あ、あぁ。 濡れませんでしたか? 雨のおかげで少し涼しくなりましたね。 そんニャことはいいんだ。急いでんだよ! お急ぎのところ申し訳ございません。 こちらお預かりしますね。(にっこり)

          野良猫のあやし方

          空の隙間

          それは今にも 零れ落ちるのではないかと 暗闇に溶け 結晶となって 転がり落ちるのではないかと 揺れる木々に手をのばすと 空の隙間に触れたような 終わるようで始まるような 境目のない夕暮 笑い声 星に月 花火と戯れる子ども