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#52 若医者に説教。~老々介護の果てに。父編Ⅳ~

※前回までのエピソード

『父危篤』の『誤報』を病院から受けた事で、それまで病院に対して色々疑念を持っていた私の気持ちは爆発した。

病理学的『狭心症』ではなく、認知症の母を老々介護してきたその心労、まずそれを主治医の先生には理解してもらいたかった。父は心臓だけが悪いんじゃない。満身創痍なんだ。全身ボロボロなんだ。

『せん妄』の問題にしても、若い患者と高齢者のそれとは、予後、認知症発症に直結してしまうリスクだって違うだろう。なのに、なぜ、若い患者のせん妄と同じ様に、眠剤たっぷり盛って、ベッドへ拘束するのか?それしか知らんのか?

小さな介護施設の湯ばぁーば施設長は、重度の認知症で暴れまくる母を、ベッドに拘束したりなんかしないで、ちゃんと落ち着かせたぞ?

それに比べて、大病院が何をやってんだっ?!


病院から『父危篤』の『誤報』を受け、私は直ぐに、Y先生に連絡をとった。

父の主治医のY先生は33歳。若手の心臓内科医だった。私の息子よりも、2つ3つ歳下である。”先生”と呼ぶには、まだ若い。

「もしもし?Y先生、お忙しい所、申し訳ありません。Ilsa子です。父、△△Aが、お世話になっております。あの、先ほどですね、父が危篤と、病棟の看護師の○○さんからご連絡を頂まして・・・、確認して頂けますか?!」

「えぇぇえーーーっ?!マジッすかっ?!」

”マジっすか、じゃねーよ。Y君・・・。(若いなぁ・・・キミ。)”

「ま、どうやら、名前の取り違えのようだったけどね。苗字が同じ人だったみたいよ?今、そちらのお身内の方に、大至急、連絡して差し上げて!と、申し上げたけどね。いや、これ、どういうことかな?Y君・・・・。父は大丈夫なのかな?Y君・・・。」

私は静かに、チクチクと問いかけるw
それはまるで、若手社員のミスを指摘するように優しくw

「すいません。直ぐ確認します。大変、申し訳ありません・・・・。」

「あのですね、Y先生、一度、腹を割って話そうか? みんなで。お時間とって頂いてよい?」

「わかりました。相談して折り返します。本当に申し訳ありません。」

翌日、1時間程、打ち合わせの時間を設けてくれた。

私は、<父の治療についての要望書>を作成していった。

<父の治療について要望書>
1、父は高齢者で「せん妄」が続くと、認知症を発症する恐れがあります。認知症/もの忘れ外来で診察を受けて、今の眠剤の量が適切なものなのか?身体拘束が適切なものなのか?認知症専門医の助言を受けて下さい。

2、父は右足に障害が発生しています。整形外科外来で診察を受けて、整形外科の先生から、治療中または治療後のリハビリについて助言を受けて下さい。

3、その上で、"主治医"として、ご自分の専門の「心疾患」の治療と「認知症リスク」と「右足の障害、リハビリ」について、総合的に判断し、他の先生方とも相談しながら、治療計画を立てて下さい。

翌日、事故報告と再発防止の対策を情報共有し、<父の治療についての要望書>を提出した所で、打ち合わせは終了した。他のスタッフが退席した後、Y先生と少し話ができた。(まぁ、事実上の説教タイムであるw)

――― あのね、Y先生、父は、車で例えれば、”全損事故”なんですよ。

エンジン(心臓部)だけ治しても、治った事にはならない。足回り(右足)の損傷、車体(身体)を制御するコンピュータ(脳/認知症リスク)まで、勘案して、修理しなくては、退院した後、走れはしないんで。

貴方は、車体のエンジン部(心臓部)の専門だから、「エンジンしか治せない。」のかも知れない、でも、貴方は、”主治医”として、この車(父の身体)の全てを預かり、全体を診て、修理しなければならないのでは?

もう85年も乗ってきた”車体”だ。相当にポンコツなのはわかってる。

他の若くて、格好いい車の方が、その必要性も高く、治し甲斐があるのも、よくわかってる。だけどさ、この世に、たったひとつしかない”車”なんだよ。父にとっても、私にとっても。どんなポンコツでも。

”乗り換えの効かない、たったひとつの身体なんだ。”

ここ数年は、認知症の母を乗せて、本当に厳しい道を走って来た。そのせいで、足回りを傷め、それが引き金になって、今回、とうとうエンジンまでやられて、瀕死の状態で、この病院、いわば、最先端の大きな修理工場へ入ってきたわけ。

だから、新車の様な走りを甦らせてくれとは言わない。
余計な板金塗装をしてくれとも言わない。
だけど、もう少し、あと少し、父が、その人生に満足して、ボロボロの車体を降りる、その日まで、出来るだけ長く自分の意思で走れるように・・・。

治療計画を立ててくれませんか?

もし、病院の事情でそれが出来ないのであれば、「出来ない」とハッキリ言って欲しい。それが病院側が示すべき誠意だろう。そうすれば、こちらも「転院」など別の対応を考える。私は、やはり”家族”だから、父の事だけを”看て”、父の治療を考えている。

「Y先生、貴方は誰の事を”見て”、私の父の治療を考えているのですか?

開業70年の歴史を誇る老舗中核大病院という組織か?どう見てもパワハラ上司の心臓内科部長のN先生か?ベテランのイヤミ看護師長さんか?他の美人看護師さん達か?それとも、自分の輝かしいキャリアの積み上げか・・・。

若いY先生にとって、死に損ないの高齢者の父の治療に精を出した所で、なんの得にもならんだろう。そんな事はわかっている。

わかっているが、わかっているからこそ、そうはさせない。

貴方は、心臓(ハート)を扱う医師になるのだから。



エンドロールには、この曲を。
若き心臓内科医のY先生に捧げる。


その後父が2度に渡るカテーテルステント手術に耐え、『せん妄』との戦いに打ち勝ち、病院の理学療法士の指導の下、懸命にリハビリをし、認知症にまで進行せずに、見事、退院したその日まで、全ての治療計画を綿密に立て、逐次、見守り、父を励ましてくれたY先生に、心より感謝を込めて。

貴方が最後まで父の主治医でいてくれて、良かった。ありがとう!!

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