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【書評】美術の愉しみ方


新刊。9月25日発行(奥付)。


経歴を見ると、著者は、戦後日本の美術普及の現場・裏方をどっぷり歩みつづかれた方。


そんな著者が、美術普及の直接的な現場から少し距離をおいた今、それまでの自身の経験から冷静・俯瞰的に、一般人にとっての美術の在り方を考察した本。著者の主張は究極的には1点に集約している。曰く「美術は愉しむもの」。そこから導かれる本書の使命は、「美術の愉しみ方」を説くこと。

美術館を退き、改めて、美術に親しみ愉しむことについて考えてみた。美術館の内側からではなく、美術愛好者としてどのような愉しみ方があるのだろうと思いをめぐらせる。

p.181


版元HPやオビの紹介文では「美術館や展覧会」云々と書かれているが、この本はそんな了見の狭いものではない。芸術祭(うち目を引くのはほぼ国際芸術祭だが)も近年非常に存在感を増している芸術体験だし、画廊等で絵を買うのも芸術体験。さらに踏み込んで、実物鑑賞と同一視してはいけないが、美術書・画集を読んだり新聞・雑誌で展評を読んだりすることも、立派な芸術体験であると躊躇いなく綴られる。そのような昨今の芸術の受容に関して当たり前のことが、幅広くストレートに書かれている。実はこれって、意外にない。少なくとも、断片的な言説でなくかつここまでバランス良くまとめられたものは、私はこれが初めて。芸術に関する実践者も実務家も研究者も、パブリックに発する見解/その著述においては、己が関心・立場・責任取れる範囲で区切るせいだろう。その点、本書は貴重である。


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美術・芸術鑑賞の手引きとして括れる本は多く、そのうえ今も続々と刊行されている。ここ最近幾つかそのような本を読んで、今のところこれだけは共通している主張があることに、気づいた。それは、「美術・芸術鑑賞においてはとにかく沢山観る(あるいは体験する)のが大事」。この点は、自分の経験感覚と照らし合わせても、頷ける。ここで沢山とは、機会/回数・作品・作家・ジャンル・時間・場・シチュエーション全てを指す。それを実践する方法の一つとして私がオススメするのは、天気のいい休日に大きめの公園を気ままに散歩するように、あるいは非日常を求めて旅行に出かける際にも、美術館博物館あるいはアート・イベントをいつも行き先候補に加えておくというもの。さらにもっと攻めるなら、何か空き時間ができたとき、本を読んだり映画を観たりする感覚で、スマホで地図を開き近くにある美術館博物館にとりあえず行ってみる、というのも。やってみると、結構面白い。



以 上

誠にありがとうございます。またこんなトピックで書きますね。