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〈小説〉ハロー・サマー、グッバイアイスクリーム

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少女売春組織の中間管理職である鈴木が仕事中に遭遇した爆弾テロをきっかけに政治的陰謀に巻き込まれていく。名古屋によく似た街を舞台にした冒険小説。 全25回前後を予定
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#新人賞

<小説>ハロー・サマー、グッバイアイスクリーム 第七回 テロリスト・ワナビーと老婆

<小説>ハロー・サマー、グッバイアイスクリーム 第七回 テロリスト・ワナビーと老婆

Chapter 6 テロリスト・ワナビーと老婆 その夜は爆弾も花火に紛れて爆発していた。
 花火も爆弾も基本構造は同じだ。殻の中に爆薬を詰めて点火して、中に詰めた金属片が赤や緑に燃えながら飛び散って観衆を楽しませるのが花火で、殻の破片や釘やベアリング玉など思い思いの詰め物で周辺の人間を吹き飛ばすのが爆弾だ。
 爆弾魔は暇を持て余した16歳の少年で、爆弾は地味なものだった。そいつは人気のない雑居ビル

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<小説>ハロー・サマー、グッバイアイスクリーム 第五回 嘔吐

<小説>ハロー・サマー、グッバイアイスクリーム 第五回 嘔吐

Chapter 4 嘔吐 ボスの車で行きつけの洋食屋へ連れていかれた。運転はいかつい短髪にシルバーフレームの眼鏡の男だ。ボスの家の玄関を出るともう目の前に車が待機していた。中心街の裏手の路地にある店の前で俺たちを降ろすと、そのままどこかへ去っていった。近くの路上でまた待機しているのだろう。
 案内された席につくとメニューとワインリストを持ったソムリエの男がやってきて、ボスは彼と相談しながら注文を決

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<小説>ハロー・サマー、グッバイアイスクリーム 第四回 セックス・アンド・ザ・シティ

<小説>ハロー・サマー、グッバイアイスクリーム 第四回 セックス・アンド・ザ・シティ

Chapter 3 セックス・アンド・ザ・シティ「資本と人間との関係、あるいは愛、これこそが僕にとって探求すべき命題だ」
 陽が大分傾いてはいるがいつもカーテンが降りていて薄暗い。白と黒を基本に揃えられらた家具。ボスの部屋はいつもモデルルームや家具屋みたいだ。
 ボスとローテーブルを挟みソファに対面に座っている。ボスはいつもスーツを着ているがビジネススーツではない。シルクのつるっとしたジャケットに

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<小説>ハロー・サマー、グッバイアイスクリーム 第二回 名はまだない

<小説>ハロー・サマー、グッバイアイスクリーム 第二回 名はまだない



Chapter 1 名はまだない こんな日に外で働いている人間は静脈に冷却剤を点滴しているとしか思えない。実際に冷たいのを入れているやつもいただろう。
 陽は傾きかけているが、気温は下がらない。真っ黒に灼けた、というか焦げた肌の労働者達が、何の表情も見せずに立ち働いていた。その肌はもともと様々な色だったのだろうが一様にどす黒い。
 それぞれの仕事の制服を着て飛行機を誘導し、荷物を運ぶ。なにをし

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<小説>ハロー・サマー、グッバイアイスクリーム 第一回 前口上 ハローサマー

<小説>ハロー・サマー、グッバイアイスクリーム 第一回 前口上 ハローサマー


Chapter 0 前口上 ハローサマー ひたすらに暑い夏で、最後は海に辿り着いた。
 俺と女はそれぞれの理由で逃亡者だった。下手な映画の結末みたいだ。
 しかし世界中のどの場所でも逃亡者が逃げ続けていれば最後は海へ行き着くのだから仕方ない。
 その夏が始まるまで海になんて行くようなライフスタイルじゃなかった。年中通して街の、それもビルの地下とかそういうところで過ごしていた。
 海なんか実在する

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