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『100日後に死ぬワニ』のザワザワで、書き手として改めて思い知らされたこと。

◆ すごい装置を搭載したリアリティショーだった

『100日後に死ぬワニ』を最初に見つけた時は衝撃だった。

こんなに日々なんでもなく、普通に、ありふれた毎日をマイペースに暮らしているワニくんが、死んじゃうなんて!

そう素直に思ったと同時に、とんでもない装置を搭載した作品だと思った。

この作品は、100日に及ぶ毎日の連載後、思わぬ形でも話題にもなった。

そのこともあり、私は、自分の苦しかった経験も勝手に思い出したりし、いろいろ思うところがあったので、今日はそのお話を、お腹いっぱいになるぐらいがっつり書きます。

とてもデリケートなことなので、長くなることをお許し下さいね。

(無料エリアでも満足レベルだと思うので、マガジン購読者でない方も安心して読んで下さい。がっつり読めます)

(マガジン購読者の方は、2回分以上の量がある記事なので、半分ずつ読むのもありだと思います)

ワニくんのお話は、おそらく、かなりの方がご存知の作品だと思うので、説明の必要もないとは思うが、念のため、簡単にお伝え。

『100日後に死ぬワニ』は、きくちゆうきさんがSNSで連載していた漫画。

青いパンツを履いた緑色のワニくんが、友達のネズミくんやモグラくんと遊んだり、バイト先の人に恋をしたり、通販で何か買ったり、そんななにげない日々が綴られている。

でも、連載開始から100日後に死んでしまうことは決まってしまっている物語。

結果が「必ずそうなる」とわかっているものを追いかける。

それはとても安心する行為だ。

けれど、そこに決定的な不安が置いてある。

今世で生きている人間の誰も経験したこともない

「死」

が置いてあるのだ。

読者たちは、今自分の目の前にある人生について考えさせられながら、ワニくんとともに100日というリアルな時間を、必ずやってくるその日へと向かって共に過ごして行く。

これは究極のリアリティショー。

物語と自分たちの日常の時間軸がリンクしていくのだから。

◆ 小さな終わり

この

「最後を視点にする」

と、何もかもが尊く見えるというのは、大それたことのようでありながら、日々私たち人間は普段の生活でなにげなくやっている。

例えば

「このお菓子、もうすぐ廃盤なんだって」

と、聞けば(ずいぶん食べてなかったけど買っておこうか)などと思う。

そして、最後の一個をいつ食べようか考える。

それを食べる時は、しみじみ味わう。

そしてそれはいつもより美味しい気すらする。

旅に出た時もそう。

次はいつ来られるだろう。
わからないな。
あと何日残ってる。
楽しまなくちゃ。
目に焼き付けよう。

そんなことを自然に思うことができる。

年末だってそう。

今年ももうすぐ終わりだな。
やりのこしたことはないかな。
ちゃんとお掃除をしよう。
会わなくちゃいけない人には会って、楽しく忘年会をしよう。

とかね。

無意識であったり、意識的にであったりするが、私たちは人生に

“小さな終わり”

を、たくさん置いて、丁寧に暮らそうと努めている。

そして、いつか、経験したことのない大きな本当の終わりがくる。

ワニくんが搭載しているその装置は、そうやって私たちにだって搭載されている。

私たちの人生だって、はっきりとネタバレしているのだ。

誰もが最後は死んでしまう。

それは知らされている。

ただ、時期がわからないから、人生には不安がつきまとう。

でも、わからないからこそ平等に優しい。

今日会った誰かとの食事が最後だったかもしれない。

今見た景色はもう2度と見られないものかのかもしれない。

そんなことを、私たちはいちいち考えずに生きている。

有事であったり、何か考えさせられることがあった時はそれを考えたりもするが、またすぐに忘れて、明日も続くだろうと信じる日々を過ごす。

そして誰かとの別れが突然きた時

(あの時会ったあれが最後だったんだな)

そう思うことがほとんどだ。

人生は厳しいけれど、一方でそんなふうに究極、優しくできている。

それはワニくんを追いかけているとわかる。

ワニくん自身が、自分の命の期限に気づいていないから愛しいのだ。

100日後に死ぬことも知らず、なんだかだらだらしたり、好きな人に想いを伝えず内気になったり、友達とゲームをすることに時間を費やしたりしている。

まるで私たちだ。

自分たちがいつ死ぬかなんかわからないまま、明日を信じている。

だから人々は、ワニくんを見ていて沸き起こる思いをコメントに綴り、それさえも作品の一部と言ってもいいくらいの出来事だった。

◆ 例えば 【※この作品は、のちに関連グッズが発売される予定です。作品が購買意欲を促す可能性がございますのでご注意ください】とか入れる?

そして、100日目をワニくんは迎え、亡くなった。

その後、ワニくんの世界ではなく、私たちが生きるこの世界で、妙な形でまた話題になった。

作者ご本人のSNSや、なんらかの記事で見た方もいらっしゃることだろう。

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