君に贈る火星の【ショートショートnote杯】

ハロー、木星。元気かい?

こっちの星では相変わらず、戦争が続いているよ。鉄屑は朝に武器へとパズルされて、昼に錆びて、夜に生物の肉塊と共に再び土に還って。そしてまた朝になればスネアドラムの砂塵に踊らされて、また這い出して。
平和や美を、「善く生きる」ことについて討論していた金星と、唯一無二の審判の下、すべてが浄化されてゆく君の星とに挟まれて、この星だけが、いつまでも血の紅に塗れている。

それでね木星、頼みがあるんだ。
もし君が僕のことをまだ覚えているのなら、どうか、忘れてしまってほしい。
僕は、「死」だ。君の貴い星は、僕の記憶で穢されるべきではないのだ。本当ならそもそも、この手紙さえ書くべきではなかった、のだろうけど。

……一言で、済ませることにする。
「僕がこの沈没船のクルーでいるための、美しい言い訳を創らせてくれ」

じゃあ、ね。宛先は書かないよ。
どうかこのレクイエムが、君の元に届くまでにみんな、漂白されてしまいますように。

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