#名刺代わりの小説10選

こちら、#名刺代わりの小説10選。Twitterでね、最近ツイートされている方がちらほらいるのに関心を持って便乗してみまして。最初にざっと挙げてみたリストから編単位&順序までこだわって再編成した完全版を、解説も載せて紹介いたします。

・青い鳥/重松清
連作短編なのでこれは一作としてカウントすることにしました(選べませんでした)。いろんな意味で私の原初。本に触れるようになった初期の初期(当時が既にピークだったのだけれど)に手にした本でもあるし、この物語を読んだことでかつての僕は教師になることを志したのである。

・ハリー・ポッター/J・K・ローリング
「てめえ最近読み始めたばかりだろうが!」とTwitterのフォロワー様方はどうぞツッコミなさってください(実際まだ「炎のゴブレット」までしか読んでいない(それでも私の中では相当早いスピード。映画は観ています))。ただ名刺代わりに選べと言われれば間違いなく入りますわこの作品。わくわくさん担当です。楽しい想像力を養ってくれる。学園ドラマとしてもとても青春。そして先生たちがやっぱええわあ。なんでもっと早う読まなかったんだろうね。ああ魔法使いになりてえ。

・北風ぴゅう太/重松清
『きよしこ』収録。「嘘っこ」は物書きとしての私の精神を構成している重要な成分。響きもいい。
私にとっての重松清さんの物語って、レンブラント光線なんですよね。完璧な晴れに辿り着くことはないけれど、どこか救いを見出せる。

・夢十夜/夏目漱石
(眠る)夢見るゆめこちゃんな私には欠かせない作品。夢ってね、彼や村上春樹さんが書くように整合性がないのがリアルなんよね。こんな夢を書きたい。

・カラフル/森絵都
森絵都さんの書く物語って、さっぱり進んでゆくのに、時折「んげーっ!」って仰天するすんばらしい一言を豪速球で投げ込んでくるんですよね。この物語で言うとひろかのね、「きれいなものがすごく好きなのに、時々こわしたくなる」っていうのね。あああ……となりましたわな。あれはきっと「きれいなものが好き『だから」こわしたくなる」、なんだろうね。暴いて、安心したいんだ、きたない私たちは。

・人間失格/太宰治
人格部分でも創作部分でも影響を受けている。いや正確には言語化してもらってきている。この作家との出会いなくして私が独白文を好んで書くようになったきっかけは語れまい。いつかこの物語の最後の一文に見え隠れする矛盾を、僕の物語の登場人物に託してみたいね。

・東の果つるところ/森絵都
『気分上々』収録。びっくり大賞ですね。「信じない」というのは「こだわっている」と同義というのはやべえええってなりましたね(ただいまオリンピックのスケートボードの愉快すぎる実況コンビのせいで語彙力が吹っ飛んでいます、最高)。
そしてこの物語は個人的に鬼やべええって思うフレーズがもう一つありまして。
「家族は選べない。けれど他人は選ぶことはできる。」
単純に「あ、そうだよな」って救われましたね。そりゃあ無限の選択肢を得ることは物理的に不可能だけども。よりによって一番最初の、一番大切な選択は与えられていないというのには変わりないけれども。たくさんの人の、「大丈夫」と前を向くきっかけになりうることばだと思う。

・走れメロス/太宰治
「信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。」
こんなに人間のエゴを美しく開き直って描ける作家はいませんって。彼が四肢を投げ出したそばにあった湧き水は、きっと世界一尊い水であったことだろう。

・ゼツメツ少年/重松清
重松清さん指揮の、総力戦のような小説。それほどの力を集めても、救えるかどうかものがあったのでしょう。私の頭の中で生まれてくるキャラクターたちのための世界の、基盤の素材になっています。
「大切なのは想像力です。信じることも想像力です。」
この物語のような、飛翔を彼らにもさせてみたい。

・鷗/太宰治
多分今まで読んだ中では一番心臓握られた物語。核にそばにある物語。こちらは創作者としての部分の私への影響の方がより大きい。たましいだけが、どうにか生きて。

ここでまず一言。
重松清さん多すぎる(というか彼差し引いても他三人の作家さんの話しか選んでねえ)。
それだけ好きな作家、というわけではありません。いや中高生時代は一番だったけれど。今は……ううーん…………彼の小説に出てくる少年少女の(あるいはまだ少年少女の頃の大人の)クサさが好きなんですけどね。最近のはおんなじ具材すぎて、生クリームたくさん口に含んだみたいに胃もたれしてきているのというのが本音。
とはいえ「今一番好きな作家さん」というのもいません。それを選べるほどの数の本すら読んでいないのです私は。この名刺を作ってみて改めて自分に呆れましたね。強迫性に駆られていたのに気づいたから敬遠しだしたというのはあるとはいえ、さすがにもっと本を読め物書き。


選考基準ですが、面白い順ではないよね。好き順とも少し違う。だってね、「自分」って「好き」だけで構成されているものじゃないもんね。「迷い」や「汚れ」もあるわけで。名刺としての代表なら、それを言語化して認めさせてくれた物語に託したい。そんな考えを主軸に厳選いたしました。となると、似たような性質の価値観や表現方法を持つ作家さんの作品に偏るのも自然なのかもしれない。

並びは幾兎ベストサントラを覗く感覚で楽しんでいただければと思います。一言で言えば起承転結を意識しました。いや、まだ「起承転」だな。これまでの私の軌跡を象徴してもらうつもりで編成しました。
それから、私の頭の中ではさらに二ジャンルに分類されています。
『青い鳥』『カラフル』『人間失格』『東の果つるところ』『走れメロス』→信条の由来にある名刺
『ハリー・ポッター』『北風ぴゅう太』『ゼツメツ少年』『鷗』『夢十夜』→表現者としての名刺
どんどん表現者としての幾兎にみんな取り込ませたいと思っているけどね私は。

それから、惜しくも選考から外すことにした小説たちも。ここは単純に限界まで悩んだ順。

・拝啓ノストラダムス様/重松清
『みぞれ』収録。このカスミのね、「ゲーム」にすごく共感できる。僕は今でも、いや今の方がもっと、こんな風に死なずに生きている。
この選考は本当に迷いました。「好き」で問われていたのなら間違いなくセレクトに入っていたのですけども。でーーーも名刺としては「鷗」や「ゼツメツ少年」に託してしまえる……かなぁ!ということで、断腸の思いで切り捨てました。

・犬の散歩/森絵都
「風に舞い上がるビニールシート」収録。「ぜんぶは救えない」ということば、考えてみれば物理的に当たり前なのに、はっとさせられましたね。うん。私たちにはすべての「助けて」の声を聞く聴力も、そこに飛んでいける超能力もないのよ。だからせめて、考えた気にはなって偉ぶることだけはしたくない。

・山月記/中島敦
「臆病な自尊心と尊大な羞恥心」というワードの衝撃よ。しかしこれも「鷗」などに任せられるかあという理由でギリギリ選考から外しました。

・竹青/太宰治
学生時代の私が本を読んでいた理由とも関わってくるんですけど、尊敬されることというのに、私はどうしてもすがってしまうヤツで。「むきになって」生きるっていうのにいいなぁと思いましたね。

・桜桃忌の恋人/重松清
「人間失格」と「走れメロス」に託しました。でもこの物語を読んで以降、「けれども」という接続詞をとっておきのものとして使うようにしています。

結論:太宰治は私の成分の大多数を包含しうるようだ。


最初にザッと考えたときには「これ絶対にこの先変動しまくるだろうな」と恥ずかしくなったのですけども、こうしてことばにしながら厳選してみると案外満遍なく自分を表現できる物語を集められているのではないかという気もしてきました。180度くらい価値観がアップデートされない限りは半数以上残り続けるんじゃないかな。『青い鳥』『鷗』は100%不動ですね。どれだけ自分が変わっていったとしても、少女時代と今の私を表すために欠かすことはできない。


以上、私の名刺でした。note & Twitterのフォロワー様方も寄越してくれていいんだよ?(にっこり)

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