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志萱大輔監督×八木佑介プロデューサー対談

監督による映画企画の発信の場であり、監督とプロデューサーとの出会いの場であるIKURA。対談企画第3弾は、志萱大輔監督と八木佑介プロデューサーによる対談です。大学の卒業制作で監督した『春みたいだ』が国内外の映画祭で評価された志萱監督と、人気小説の映画化などを手掛けてきた八木プロデューサー。対談の場では、八木プロデューサーが所属する映像制作会社ROBOTで、志萱監督が学生時代にアルバイトをしていた事実も発覚。若手監督はいかにして映画制作のきっかけをつかむのか。プロデューサーはいかにして新しい才能を見つけられるのか。互いの課題から見えてきた映画制作の可能性とは。(構成=木村奈緒、撮影=間庭裕基)


■ 監督の力量に魅せられて

八木 ndjc(※)2020で製作された志萱さんの『窓たち』を拝見して、お会いしたいと思っていました。今日お会いできて嬉しいです。『窓たち』は、インディーズ映画にありがちな隙がなく、率直にすごいなと思いました。どれだけ緻密に計算されて作っているのか、そのあたりの話を聞いてみたいのですが、画コンテは描かれているんですか。

志萱 画コンテは描いていません。ただ、セリフとセリフの間の表情など、脚本に言葉で書くのが難しい部分については、どうやって役者さんに説明しようか考えています。

八木 『窓たち』では男性の浮気が問題になりますが、直接的な浮気現場のシーンは描かれませんよね。直接的に描かないのに、観客に想像させる力をしっかり持ってらっしゃるなと思いました。前作の『春みたいだ』は学生時代の作品ですか。

志萱 はい、大学の卒業生制作でつくりました。それ以前にも、友だちと遊んでいるときにカメラを回して何本か撮っていましたが、作品として観てもらうことを意識して作ったのは『春みたいだ』が初めてです。20歳前後で、ちょうどROBOTでバイトしていたときの作品でもあります(笑)。

八木 そうなんですね(笑)。役者さんはお友だちですか。

志萱 はい。主人公ふたりは大学の同級生で、外部の人に少しだけお手伝いいただきました。

八木 プロの役者さんではないということですよね。となると、やはり監督の演出力はすごいですね。役者さんを演出する際に、役の心情を説明するタイプの監督と、役の身振りで説明するタイプの監督がいると思うんですが、志萱さんはどちらのタイプですか。

志萱 寄りのショットで、ある範囲内で確実に演技を決めてほしいときは細かく指示をすることもありますが、基本的には動きを細かく指示したりはしないですね。


■ 撮ることが楽しくて映画を志す

八木 『春みたいだ』は同性愛をテーマにした作品ですが、なぜこのテーマを選ばれたのでしょうか。1作目としてはなかなかハードルが高いテーマですよね。

志萱 まず、自分としては『春みたいだ』が1作目という感覚はあまりありませんでした。人に見せるには至らなかったものの、それまでに撮った作品があって、そのうえで『春みたいだ』につながったと思っています。同性愛をテーマに選んだのは、同性間でも異性間でも、相手を思う気持ちに変わりがないのであれば、恋愛映画として同じものができあがるのではないかという考えがあったからです。確かにチャレンジではありましたが、当時の自分が持ちうる限りの力を尽くして撮ろうと思いました。ウォン・カーウァイ監督の『ブエノスアイレス』を観て、影響を受けたということもあったかもしれません。

八木 なるほど。志萱さんは、日本大学芸術学部出身ですよね。映画監督を目指して入学されたんですか。

志萱 いえ、本当はカメラマンになりたかったんです(笑)。高校時代にビデオカメラで撮影して遊んでいたんですが、それがとにかく楽しくて。これをバージョンアップさせて映画を撮ることにしたら、もっと楽しいんじゃないかと思ってカメラマンを志しました。でも、調べているうちに、カメラマンになるにはいろいろ勉強しなきゃいけないと知って、願書を出すときに監督志望に変更しました。

八木 何になるにしても勉強は必要では(笑)。でも、それで『春みたいだ』がぴあフィルムフェスティバルアワード(以下、PFFアワード)に入選したんだから、監督としては順調ですよね。

志萱 そうだといいんですが……。『春みたいだ』は卒業制作なので、誰かしらの目に触れることは想定していました。ただ、「観客にこんなふうに観てもらおう」などとは一切考えずにつくっていたので、PFFアワードに入選したのは予想外で本当にびっくりしました。


■ プロの現場と自主制作の現場

志萱 『窓たち』は、個人的な感触のある映画にしたいと思ってつくりました。すべてが僕の話ではありませんが、パーソナルな話になればいいなと。初めてプロのスタッフの方たちと制作したんですが、友だちとの撮影とは現場の空気が全然違って、その違いが面白かったです。友だちとだからこそ撮れるものもあると思いますが、それとはまったく違う作品になった気がしています。

八木 友だちとプロとで、どんな違いがありましたか。

志萱 プロの現場では、僕が「こういうふうにしてみたい」と言ったことを、スタッフの方たちが素早く的確に叶えてくださって、それはもう何にも代えがたかったですね。おかげで自分は撮ることだけに集中できました。友だちと撮るときは、何から何まで自分たちでやらないといけないけど、そのぶんミスしても許されるというか、「もう一回やろうか」とチャレンジもできる。画面に映る緊張感は全然違うと思います。一緒につくる人が多いほど出来ることは増えると思いますが、少人数でつくる楽しさも捨てたくないと思います。

八木 『窓たち』は、音楽をほぼつけていないですよね。これもすごいことで、駆け出しの頃は音楽でごまかしてしまいがちですが、それをせずに正面から作品に向き合って登場人物の感情を描いている点が素晴らしいと思います。心の機微の描き方が優れていますよね。

志萱 ありがとうございます。『春みたいだ』は30分の尺のなかに、詰め込めるだけ詰め込んでしまったので、『窓たち』では、音楽も含めて詰め込みすぎないように意識しました。


■ 作品に共鳴するプロデューサーを見つける

志萱 八木さんが企画・プロデュースをされた『砕け散るところを見せてあげる』(21)は小説が原作ですが、最初に小説を見つけたんですか。

八木 そうです。小説を手にとって映画にしたいと思ったのが始まりです。その次に企画書をつくって出版社にプレゼンして、OKが出たら監督や役者の人選を考えてお金を集めて……と進めていきます。だから、この小説を手にとらなければ、あの映画はこの世に存在していないことになりますね。

今回、対談にあたって志萱さんが企画書をあげてくれましたが、こうして監督がオリジナルの企画を持ち込んでくださるケースもあるし、原作をベースに映画化するケースもあります。だけど、今オリジナルをつくるのはハードルが高いんです。だからこそ、一緒に闘ってくれるプロデューサーをどれだけ見つけられるかが重要だと思います。

志萱 オリジナルの企画を提案されても、ハードルの高さゆえに、プロデューサーも推すに推せない感じでしょうか……。

八木 そうですね。シビアな話ですが、結局のところ興行収入が一番のポイントになっていて、そうすると「人気原作・有名俳優・実績のある監督」が基本になってしまうんです。実績の少ない監督のオリジナル作品をそこに食い込ませるとなると、非常に労力がかかるわけです。ただ、オリジナルの脚本を読んで、プロデューサーが作品に共鳴すれば、映画化に向けてプロデューサーが自発的に動いてくれます。だから、プロデューサーに「この作品をやりたい」と思わせたら勝ちですね。

今回の志萱さんの企画書で言うと、内容はまとまっていてやりたいことは伝わってきますが、ストーリーはもう少し長いものがないと判断しづらいですね。初稿までいかなくていいですが、プロットはあったほうがいいと思います。プロデューサーって、毎日連絡に追われていて忙しいイメージがあるかもしれませんが、新しい企画は常に探しているので、監督からプロデューサーに積極的にアプローチするのはとても良いことだと思います。そこを踏み越えられるかどうかの差はすごく大きいですね。でも本当にその企画をやりたければ、プロデューサーとの繋がりがなくてもSNSでもなんでも使ってアプローチするぐらいの気概は自然と生まれてくるのかなと思います。


■ 映画制作の可能性

八木 ところで、志萱さんはどんな映画が好きなんですか。

志萱 日本の監督だったら、市川準監督が大好きです。最初に観たのは『トニー滝谷』だったと思いますが、村上春樹のあの文章をこんなリズムで映像化するんだという驚きがありました。最近、目黒シネマで観た『病院で死ぬということ』にも感銘を受けました。どんな小説も文字で読むからこその良さがありますが、そこに映像がついて、登場人物たちが立体になると、さらに良さが増すだろうなと思うんです。何より、その映像を自分が観てみたくて、映画をつくりたくなります。自分もいつか映像化したいと思っている小説がいくつかあります。

八木 その話はぜひ聞かせてほしいです。僕が原作を映画化するときには「この物語を伝えたい」という思いが根底にあります。本は読まないけど映画は観るという人は多いと思うので、それなら自分にできることは映画をつくって届けることかなと。だから、映画化にあたって小説をこんなふうに変えたいという気持ちはあまりないですね。小説で感じたことを映画で伝えたいと思ってつくっています。ちなみに、いま動いている企画はありますか。

志萱 2023年は、年明け早々舞台にチャレンジするので、今はそのための準備をしています。舞台と言っても、会場は1932年にアパートとして建てられた銀座のビルの1室なので、非常に小さい舞台です。テネシー・ウィリアムズの「話してくれ、雨のように」と、ユージン・オニールの「朝食前」という、いずれも1900年代に発表された作品を同時上演します。

八木 それは楽しみですね。

志萱 はい、でも映画の企画も進めていきたいです。

八木 映画監督として、ここからどう駆け上がっていくかは難しいですよね。自分も含め、プロデューサーは常に新しい企画や才能を探しています。それこそPFFアワード等もありますが、新しい才能と出会う機会は限られていますね。たとえば、山田孝之さんたちが立ち上げた短編映画制作のプロジェクト《MIRRORLIAR FILMS(ミラーライアーフィルムズ)》のような試みがもっと増えると良いなと思います。だから、監督とプロデューサーのマッチングを目指した《IKURA》も重要な取り組みだと思っています。映画業界全体の活性化のためにも、こうした出会いの場が増えて、若い才能が次々出てくる世の中になれば嬉しいですね。

※ ndjc ……文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」
次代を担う若手映画作家の発掘と育成を目的とし、若手映画作家を対象に、ワークショップや製作実地研修を通して作家性を磨くために必要な知識や本格的な映像技術を継承することに加え、上映活動等の作品発表の場を設けている。

(2022年12月21日収録)

PROFILE


八木佑介 YAGI Yusuke
株式会社ロボット コンテンツ企画部所属。1983年生まれ。愛媛県松山市出身。
2015年、短編映画『HEROSHOW』をプロデュースし、米アカデミー賞公認のLOS ANGELES ASIA PACIFIC FILM FESTIVALやNEW FILM MAKERS LOS ANGELESで作品賞にノミネート。国内では、TSUTAYA INDEPENDENT FILM PROGRAM優秀作品賞を受賞。2019年には、ドラマ「スカム」で、ギャラクシー賞を受賞。2021年、『砕け散るところを見せてあげる』で長編映画を初プロデュースし、ワルシャワ国際映画祭コンペティンション部門でノミネート、上海国際映画際や台北国際映画祭で正式上映作品となる。同年、映画『都会のトム&ソーヤ』が公開、ドラマ版が配信される。2023年、映画『スクロール』が公開。


志萱大輔 SHIGAYA Daisuke
神奈川県生まれ。日本大学芸術学部卒業。osampo所属。
never young beachなどアーティストのMVを手がける。
監督作『春みたいだ』がPFFアワード2017やTAMA NEW WAVE正式コンペティション部門などに入選。
また海外では、TelAviv International Student Film Festival(イスラエル)/Taiwan International Queer Film Festival(台湾)などに出品/上映された。最新監督作の『猫を放つ』が公開準備中。