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一番後悔していること

 私は2021年の4月から双極症(躁うつ病、双極性障害)の治療のため、レキサルティという薬を飲んでいる。
 私の人生はレキサルティ前、レキサルティ後で分けられる、と言っても過言ではないと思うくらい、この薬は私に効いた。大塚製薬には足を向けて眠れないくらい感謝している。

 が、しかし。
 それから私の苦悩も始まった。

「なぜもっと早く治療して、もっと早くこの薬に出会えなかったのだろうか」

 という後悔にさいなまれるようになったのだ。

 レキサルティを飲み始めた時の私はすでに30代の後半であった(今もだが)。独身で、彼氏もいない。そういう孤独な状況に相成った原因はいくらでも思いつく。思いつくのだが、「もしも若い頃からレキサルティを飲んでいて、今のような穏やかな気持ちで毎日を過ごせていたならば、いくらかあった出会いが実を結んでいたかも知れないのに…」と思わずにはいられない。

 私が今の心療内科に通い始めたのは2020年の3月。20歳くらいからずっと内科には定期的に通院していたが、心療内科や精神科には行っていなかったので(正確には一度行ってみたが、合わないと感じて通うのをやめてしまった)、いつ双極症を発症したのかは分からない。でもお医者さんの見解では20前後が発症であろう、ということだった。つまり18歳〜30代前半という恋愛適齢期を私はずっと双極症で過ごしていたことになる。
 ずっと辛かった。眠れなかったし、やたらとイライラしているか、何でもないことに傷ついてどん底にいるか、そのどちらかの記憶しかない。眠たい目をこじ開けて何とかかんとか大学や職場へ行き、休みの日は布団から出られない。やりたいことややろうと決めたことが出来ない。それでも大学時代はいじめに遭うこともなかった分気楽だったが、働き始めてからはずっといじめに苦しめられた。人間関係に悩み、4回転職している。実際には、楽しい瞬間もあったのだろうが、辛さがそれを大きく上回り、自分の中では完全に暗黒の時代として記憶されている。
 私の夢は小さい頃からお嫁さんだった。だからそんな暗黒の中にあっても、いつだって結婚したかった。根っからのロマンティストなので、いつかこんな私を誰かが見つけてくれて、幸せに暮らしていけるんだ…とずっと自分に信じ込ませていた。でも実際には、例え出会いがあったとしても、自分のイライラを抑えたり、爆発しないように奥歯を噛み締めたりするのに必死で、相手の良さをじんわりと感じて幸せに思ったり、相手を思いやって何かしたりする余裕は全くなかった。常に自分をぶつけてしまっていたような気がする。それでは上手く行くものも行くわけがなかった。
 そうこうしているうちに私は若さを失った。そしてレキサルティに出会った。今、もちろん年齢による落ち着きもあるのだろうが、主には薬のお陰で心が安定して、周りの人たちの良さがじんわりと感じられるようになった。レキサルティ前には気づけなかった、「この人こんなに良いところあるんだ」というのが感じられるようになった。もっと早くこんな気持ちになれていたら、あの時のあの人との展開って変わっていたんじゃないのかなぁと虚しい想像をしてしまうようになった。そんなこと言ったってどうしようもないことなど百も承知だ。双極症であってもパートナーを見つけている人などたくさんいらっしゃるのだから、今パートナーがいないことを双極症のせいにするのはお門違いなのだ。でも…

「まぁ、でもレキサルティ出来たのって最近のことだから、もっと早くに双極性障害だと分かっていたって、この薬が飲めたわけじゃないよ」
 と、主治医は言う。精一杯慰めてくれているのだろうが、エビリファイの存在を知らないほど無知ではない、私は。

 生きるのにしんどさを抱えて、それが病的なのではないか、と疑いを持っていて、それでも病院へは行っていない、という全ての人に言いたい。
 治療は一分一秒でも早く始めた方が良いよ。だって病気で失った時間って返って来ないんだから。

 そして神様。100人に1人しかかからない病気に苦しむ私に、世界に1人しかいない運命の人を早くプレゼントして下さい。そしたら輝きに満ちているべきだった若かりしあの頃を失った辛さを忘れられるような気がします。
 
 

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